やや地味な印象のあるテープ・ストレージだが,技術革新のスピードはハードディスク・ドライブ(HDD)を上回る面もある。一方,HDDの容量単価が劇的に下がってきた影響を受け,これまでテープの独壇場だった分野でHDDを使う動きもある。こうした現状を踏まえ,テープの利用法を正しく理解するために,その基礎と最新のスペックをひも解いてみよう。

 企業が保有する全ストレージ領域の70~80%を占めているのは,アクセスが非常に少なくなったデータである——。連載の第1回で,データのライフサイクルに合わせて利用するストレージを最適化するILM*1 を紹介したが,「コールド領域」と呼ばれる上記のような大量データを格納するには,容量当たりの単価が低く,かつ保存の観点からメディアがリムーバブルなテープ・ストレージが必要とされる。テープ・ストレージには非常に多様なタイプがあり,用途に合わせて選択できる。

 ただし,ここ数年でハードディスク・ドライブ(HDD)の容量単価が劇的に下がった。バックアップ用途などではテープの代わりに利用されるケースが増え,「テープは過去のもの」と考える技術者も多いのではなかろうか。そのため,「どのタイプのテープ・ストレージを選ぶべきか」という問題とは別に,性能やコストの面では「テープとHDDのどちらを選ぶか」という視点も重要になってきた。こうした状況を踏まえて,3つのポイントからテープ・ストレージの内部構造や最新のスペックを解説していく。

オートローダーやライブラリが人気

 まず,テープ・ストレージの基本を確認しておこう。テープ・ストレージとは,磁気テープを記録媒体として使用した装置の総称である。記録媒体のテープは,「カートリッジ」と呼ぶ保護ケース内の軸(リール)に巻き取られている。

 テープを読み書きする装置は「テープ・ドライブ」だ。カートリッジ内のテープを走行させ,磁気ヘッドでデータを読み書きする。

 テープ・ドライブはスタンドアローンで利用できるが,最近は複数のカートリッジ・テープを収納する棚(スロット)とドライブ内のテープを自動交換するロボット機構を備えた「オートローダー*2」や「ライブラリ」(写真1[拡大表示])の人気が高い。大容量のデータを手間なく管理できるためだ。

 テープ・ストレージの用途は,今のところ大部分がデータのバックアップ用だ。保管に適したリムーバブル・メディアの特徴が生かされている。今後は個人情報保護法やe-文書法の施行により,各種ログ・データや法定保存文書を長期保存するアーカイブ用途で利用拡大が見込まれている。

◆ポイント(1):記録方式と互換性

 テープ・ドライブはHDDと異なり,各種の規格がある。それらを用途別にクラス分けすると表1[拡大表示]のようになる。記録容量や性能以外の仕様にも注目してもらいたい。

 エントリー・クラスの規格/製品は,テープ1巻当たりの記録容量が100Gバイト以下で,家庭用オーディオ/ビデオ技術を応用した低価格な製品が多い。1日2~3時間の低い使用率を想定した設計になっている。

 ミッドレンジ・クラスのテープ・ドライブは,オートローダーやライブラリに多く採用され,今最も需要が高い。テープ1巻当たりの記録容量は100G~400Gバイトである。容量,データ転送速度,信頼性の点で,統合バックアップなどの企業ニーズにバランスよくマッチしている。ハイエンド・クラスの規格や製品は,ミッドレンジ・クラスの規格を基に,信頼性と性能を高める拡張を加えている。

コストや性能に影響する記録方式の違い

 技術面に注目してテープ・ドライブの内部をのぞくと,データ記録方式の違いにより「リニア・サーペンタイン」と「ヘリカル・スキャン」の2種類に分けられる。

 リニア・サーペンタイン方式は,テープの走行方向に沿った一直線のトラック上にデータを記録する方式である(図1[拡大表示]) 。テープ上には多数のトラックがあり,テープの先頭から末尾に向かってトラックにデータを書き込むと,ヘッドをテープと直角方向にずらして別のトラックに移動する。次にテープを逆方向に走行させ,続きのデータを書き込んでいく。テープ・パス(テープの経路)が単純なので信頼性を確保しやすく,テープの走行速度はヘリカル・スキャンよりも速い(速くできる)。エントリーからハイエンドまで幅広く採用され,実績のある方式である。

 一方のヘリカル・スキャン方式は,テープの走行方向に対して,斜めに配置した回転式ドラム・ヘッドでデータを書き込む。テープの走行速度はリニア・サーペンタインより遅いが,ドラム・ヘッドの回転数が高速(5000回転/分以上)なので,ヘッドとテープ面の相対スピードは10m/秒以上になる。高密度の記録が容易なため装置を小型化できるが,テープ・パスは途中にローラーやガイドが多くなり複雑だ。家庭用オーディオ/ビデオ技術を応用した記録方式で,主にエントリーとミッドレンジのクラスで採用されている。

 テープ・ストレージでは,カートリッジからテープを引き出してヘッドに接触させる経路(テープ・パス)を形成する時間が長くなる。その長さはカートリッジの機構でほとんど決まってしまう。カートリッジ・テープには,テープを巻き取る軸(リール)の数によって,「ワン・リール」と「ツー・リール」の2種類がある(図2[拡大表示]) 。カートリッジ内部で最初からテープ・パスが形成されている構造ではこの時間が不要となる。ワン・リールのカートリッジでは,テープの先端を引き出してドライブ内部の巻き取りリールに連結させる。その部分の耐久性を確保するには高い技術力が必要になる。

アーカイブ用にデータの改ざん不能なドライブ

 意外と知られていないが,テープ・ドライブの中には一度記録したデータに対する改ざん防止機能を備えたものがある。これは「WORM(Write Once Read Many)」と呼ばれ,HDDにはない機能である。

 このドライブの主な用途は,例えば個人情報保護法やe-文書法の施行により,各種のログ・データや財務/税務文書を安全かつ改ざんできないメディアに長期保存したい場合などである。CD-RやDVD-Rなどの光ディスクに保存してもよいが,テープのほうが高速で大容量に対応できる。

 WORMを実現するには,専用のテープ・カートリッジとそれを認識するドライブが必要だ。ドライブは,WORM用テープ・カートリッジだけに付けられた物理的なくぼみや,工場出荷時に書き込まれたテープ上の識別子でWORM用テープを認識する。両方の条件が満たされるときだけ,ドライブはテープの未書き込み部分にデータを書き込む。カートリッジ内に組み込まれたカートリッジ・メモリーの情報を使って,WORM用テープであることを認識する方法もある。

数世代にわたる互換性を確保

 同規格のカートリッジ・テープであれば,各メーカー間のドライブで読み取りと書き込みの互換性は確保されている。また,同規格のドライブの後継機種では,数世代前のドライブで記録したデータを読み取り可能であり,さらに書き込みが可能なこともある。

 データを長期保存するアーカイブ用途では,この世代間の互換性が気になるところだ。例えば税務関係の法定保存文書は7年間の保存が義務付けられているため,7年前のテープに記録したデータを現在のドライブでも読み取れる必要がある(あるいは旧式のドライブを故障しないように維持する必要がある)。テープ規格によって互換性の維持レベルには差があるが,SDLT320を例に挙げると,DLT4000(1996年)以降の規格で書き込んだデータを読み込める。


吉岡 雄
日本ストレージ・テクノロジー マーケティング本部 シニアスペシャリスト