通信について勉強を進めていくと,全2重方式,半2重方式という用語に出合うことがあります。これらはよく聞く用語ではありますが,イメージがつかみにくいのではないでしょうか。今回は,この用語の意味について調べてみましょう。

半2重は片側相互通行

 全2重通信とは,1本の通信路で送信と受信が同時にできることを指します。大したことではありません。電話のようなもの,と考えればイメージしやすいでしょう。話をしながら聞くこともできる,というものです。

 一方の半2重通信は,1本の通信路で送信と受信が同時にできないことを指します。AさんとBさんの通信で,あるときはAさんからBさんへ,またあるときはBさんからAさんへ,一方通行の通信しかできない状態を指します。トランシーバや無線通信などで「…です。以上,どうぞ」といって相手からの返事を待つ,あの使い方が半2重通信です。

 全2重と半2重は道路に例えてもわかりやすいでしょう。全2重は普通の対面通行,半2重は片側交互通行のようなものです。

 半2重通信は,私たちの日常からあまり見られなくなってしまったように思えます。しかし,実際には意外と多くの半2重通信が生き残っています。例えば,日本のISDN(総合ディジタル通信網)や,リピータ・ハブを使った10BASE-Tテンベースティー/100BASE-TXヒャクベースティーエックス のイーサネット,無線LANなどが半2重通信です。

 とはいっても,これらの通信はユーザーの目に直接触れない部分,つまり端末と端末の物理的な通信路部分で,非常に短い時間で「…です,どうぞ」の半2重通信が行われています。つまり,通信路自体は半2重になっていますが,短時間で高速に切り替わるため,ユーザーから見ると,電話と同じような全2重通信に見えます。

 ところで,全2重,半2重というときの「2重」という言葉に引っかかる方もおられるでしょう。この言葉は,そもそも通信用語が日本に入ってきた際にfull duplexデュープレックス,half duplexという用語をそのまま訳しただけです。しかし,これだけでは,「duplex」(英語で「2重の,二つの部分を持つ」)が,どうしてこう言われるのか,疑問は解決しません。

2重であることは,通信の本質

 2重ではない,「1重」の通信というものは存在するのでしょうか。あるとすれば,それはどのようなものでしょうか。実は,私たちの身の回りにある最も身近なものに「1重の通信」をイメージできるものがあります。最近はすっかり見かけなくなりましが,ポケットベルがそうです。

 ポケットベルでは,送信アンテナから番号で指定した特定の端末に向かって,一方的に電気信号を送ります。これは「1重の通信」ということになります。

 似たようなものには,放送もあります。これも,送信アンテナから受信機に信号を一方的に送るだけです。このため,放送も1重の通信に見えるかもしれません。

 ただ,放送は通信と明確に区別されています。通信の定義では,送り手は受け手にもなり,受け手は送り手にもなります。双方向で信号の送受信ができないと,通信とは言えません。通信は,そもそも2重でないと成り立たないのです。

 つまり,放送は通信の定義から外れるために,通信ではありません。ですから,放送は「1重の通信」にはあたりません。2重であるということは,通信の本質につながると言うことができるでしょう。