マイクロソフトが2006年2月3日に発売した「Windows Server 2003 R2」は,新機能をすぐに利用できる「即戦力OS」である。フォルダ単位のクォータ管理やActive Directoryフェデレーション・サービスなど,多くの新機能を搭載したにもかかわらず,価格は据え置きで,専用のCALも不要だ。R2の位置付けや新機能を詳しく紹介する。
2006年2月,マイクロソフトは「リリース・アップデート」と呼ぶ位置付けの新しいOS「Windows Server 2003 R2アールツー」(以下R2)を出荷する。R2は,Windows Server 2003を利用しているユーザーにとって実用的な機能を多く搭載する新製品だ。注目される新機能は3つある。
まず1つ目は,ファイル・サーバーの共有フォルダの管理を強化する機能である。共有フォルダごとに使用容量を制限したり,音楽ファイルなどの保存を禁止したりできるようになった。Windows Server 2003もクォータ管理機能で使用容量を制限できていたが,ボリューム単位でしか管理できなかった。
2つ目は,地方の支店など遠隔地に設置したサーバーの管理を効率化する分散ファイル・システム(DFS)の改良である。DFSでは,DFS名前空間の階層構造の表示機能などを追加した。クライアントからネットワーク上の仮想的なフォルダがある名前空間にアクセスするよう設定しておくと,1台のサーバーに障害があった場合でも,クライアントの設定変更なしに代替サーバーへ自動切替できる。
3つ目の機能は,アカウント管理の手間を削減するActive Directoryフェデレーション・サービス(ADFS)である。社外のActive Directoryと限定的な信頼関係を構築して,社外のユーザーに特定のアプリケーションを使わせる,といったことが容易になる。
すぐに使える即戦力OS
R2の魅力は,こうした新機能だけではない。Windows Server 2003 Service Pack 1をベースにしているため,Service Pack 1を適用済みのシステムであれば,事前の検証作業を大幅に省略して,新機能を利用できる(図1)。Microsoftは,「Windows Server 2003 SP1に対してテストされたアプリケーションは,R2で改めてテストする必要はない」としている。
図1●Windows Server 2003 R2に搭載される主な機能 2枚組のCD-ROMで提供される。1枚目にはService Pack1を適用済みのWindows Server 2003,2枚目にはR2で提供される追加機能,と分けて収められている。 |
導入コストについても心配ない。R2の価格は未定だが,役立つ新機能を数多く搭載したにもかかわらず,「価格は,従来のWindows Server 2003とほぼ同等になる見込み」(マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部Windows Server製品グループのホ田信純シニアプロダクトマネージャ)。また,ソフトウエア・アシュアランス(SA)またはエンタープライズ・アグリーメント(EA)で,Windows Server 2003を購入したユーザーには無償提供される。
例えば,R2で搭載されるクォータ管理機能を利用したい場合,サード・パーティ製のソフトなら1サーバー当たり10万円程度する。新規に購入したとしてもR2を選択するコスト・メリットは大きいだろう。
ライセンス体系でもコスト効果
R2は,ライセンス体系でも大きなコスト・メリットがある。まず通常,新製品として登場するサーバーOSには,専用のCALが必要になるのが一般的だ。だがR2には専用のCALは不要で,Windows Server 2003のCALをそのまま利用できる(表1)。クライアントが多い場合,サーバー・ライセンスよりもCALの購入費用が負担になるが,R2ではこうした心配はない。
表1●リリース・アップデートの位置付け 新製品だが,サポート期間はWindows Server 2003と同じ。CALは,Windows Server 2003用のCALをそのまま利用できる。価格はWindows Server 2003と同等になる見込み。
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仮想マシンでWindowsサーバーを利用している場合も大きなコスト・メリットがある。R2は,様々な新機能のほかに,新たに仮想マシン向けのライセンス体系を初めて採用する(図2)。仮想マシンでWindows Server 2003を利用しているユーザーは大幅にライセンス料を削減できる。
図2●Windows Server 2003 R2では仮想マシンOSのライセンス体系が変わる R2では,メモリーに展開されて動作しているOS数を基にしてライセンス料が決まる。 |
これまで仮想マシンOSのライセンスは,仮想マシンとしてハードディスクにインストールしたWindows Server 2003の数で計算していた。このため,動作していない仮想マシンOSがあってもライセンス料を支払う必要があった。R2からは,メモリー上で実行している仮想マシンOSを数えて,ライセンス料を計算する。
またR2 Enterprise Editionには,あらかじめ4つの仮想マシンOSのライセンスが含まれている。2007年に出荷が予定されているLonghorn Server Datacenter Editionでは,無制限の仮想マシンOSライセンスを含むようにする。こうしたMicrosoftの決断は,サーバーの仮想化を一気に進めることになるだろう。
今後は2年ごとに新製品が登場
Microsoftは,今後2年おきに新製品のサーバーOSを出荷する計画を立てている(図3)。この計画に沿って今回,初登場するリリース・アップデートがWindows Server 2003 R2に当たる。今後は,2007年にR2の次期サーバーOS「Longhorn Server」が出荷され,その2年後には「Longhorn Server R2」が出荷されるところまで計画されている。
図3●Windows Server 2003 R2の位置付け メジャー・バージョンアップから約2年後に機能を追加した製品が「リリース・アップデート」として提供される。 |
これまで,サーバーOSをメジャー・リリースした後は,Service PackやFeature Packといったものが無償提供されてきた(表1)。Windows Server 2003には,2005年4月にService Pack 1が提供され,セキュリティの構成ウィザードやデータ実行防止機能(DEP)といったセキュリティ関連の機能が大幅に強化された。
Feature Packは,メジャー・リリースの後,追加機能をWebサイトで提供するものである(該当サイト)。Windows Server 2003向けのものでは,情報保護のためのWindows Rights Managementサービスや,情報共有のためのWindows SharePoint Servicesなどが提供されている。
これらとは別に,R2として新たに提供される理由は,ユーザーが計画的に新機能を導入しやすくするためである。これまでのFeature Packは不定期に出荷されていたため,計画的に導入できなかった。MicrosoftでWindows Server 2003を担当するBob Muglia上級副社長は,「Feature Packは,ダウンロードで入手しなくてはならないし,OEMでは提供されないため,分かりにくい。リリース・アップデート(R2)でまとめて入手できると便利で,顧客に多く利益をもたらすだろう」と語っている(既出)。しかし,R2にはFeature Packで提供された機能がすべて入っているわけではない。Feature Packは今後も継続的に提供されると見られているが,「将来の計画は決まっていない」(マイクロソフトのホ田シニアプロダクトマネージャ)という。