2006年1月9日に米国ワシントン州にイニシアティブ919(I-919)が提出された。I-919は,非営利団体のForum Foundation代表Dick Spady氏が作成した。I-919はインターネットを利用して,市民と州政府,市,町とのコミュニケーションを改善しようという狙いを持つ。イニシアティブとは,住民発案のことであり,2006年7月7日までに224,880の署名を集めれば,州の総選挙で賛否を問う段階に進む。

 I-919の背景は,政府に対する信頼の低下がある。住民からのフィードバックを円滑にしようというニーズが高まっている。州政府は,当然のことなら政策に関する広報活動を通じて,市民とコミュニケーションを図っているが,マス・メディアに頼る従来の方法では,市民とのコミュニケーションがうまくいかない。マス・メディアは利益追求でニュースを流しているので,すべての州政府の発表がマス・メディアで市民に届けられることはまずない。

 大規模な公聴会を開催し,市民と対話するという方法もあるが,大規模な公聴会は,距離,時間の問題で多数の市民の参加を得ることは困難である。そこで,インターネットを利用し,市民との対話を実現しようという提案がI-919である。


I-919が提案しているシステムの概要を紹介する。

 まず,州監査人(State Auditor)が,ボランティアである市民評議員(Citizen Councilor)コーディネータと副市民評議員を任命する。州監査人は,公開して議論すべき問題を選択し,運営委員会(Sterring Committee)に諮る。運営委員会が審査した問題を市民評議員に割り振る。市民評議員は資料を準備するバリュー・リポータを割り当てる。

 市民評議員は,コミュニティ・サービス,教育,ビジネス,組合,宗教などの組織から市民評議員グループを勧誘する。学者,専門家,役人,指導者などにインタビューするバリュー・レポータを任命する。このように,市民評議員はできるだけ公平に州監査人に資料を提供する。そして,市民評議員は,市民評議員コミュニケータにこれらの承認された資料を電子メールで送付する。宛名ラベル,市民評議員レスポンス・シート,資料が関連する組織に提供される。

 4人から12人の市民評議員の集会を,自宅ないし職場で開く。市民評議員は,インターネット上のインタラクティブ手法または,Opinionnaireというマークシートを使って,質問に答える(Opinionnaireのサンプル)。市民評議員はレスポンス・シートを州監査人に送付すると,集計される。この際にFast Forumというソフトウエア(Webページ)を使用する。Fast Forumは,2006年3月1日以降に掲示される(Fast Forumの例)。集計は市民評議員コーディネーターが行い,報告書を州職員,市民評議員のグループ,ライブラリーに提出する。Webサイトにも公開する。

 Fast Forumの手法は,これまでに,
・Bellevue Public Schools,学校中心の意思決定に関する政策開発,1988年
・Redmond,Washington,“Community Forum”プログラムで小グループの市民参加に使われた,1990年から1994年。
・United Methodist Churchが1994年に実施した全国プロジェクト。
・Everywoman’s Coalition of Seattleが1995年に北京の国際会議で使用した。
・1999年にロシア人少女人身売買の問題についてUnited Nations Women's OrganuizationとSoros FoundationそしてForum Foundationがスポンサとなったプロジェクト。
などに利用された実績がある。

 I-919が必要な書名を集められるかどうかは現時点では不明だが,このような市民との対話にインターネットを活用するという試みは注目すべきものがある。