長さ212ミリ。オレンジ、青、ベージュ、白、の4色がある。約600円(撮影:廣田幸喜)
長さ212ミリ。オレンジ、青、ベージュ、白、の4色がある。約600円(撮影:廣田幸喜)
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 パリのマレ地区にある店で綺麗な箸を買った。長い狐の耳の下に笑顔がついている。素材はプラスチック。おそらくABS。簡単な金型の成型品らしくバリを磨いた手の痕跡がどことなく工芸品の風情を残す。

 店主はデザインも生産もフランスだという。丸い鼻と円弧だけの口もユーモラスだが、黒眼がちの銀の輝きが魅力を増す。透明で球状のプラスチックの裏に黒の点をつけた銀色のフォイルを貼り、それを箸本体に貼っただけ。ナイフ・フォーク文化圏に住む人々のためだから我々から見ればエキゾチックだが箸文化へいざなう愉快なデザインだ。日本の学校給食用に登場した先割れスプーンよりはるかに優れている。割れた先端をフォークがわりに使っても、主たる機能は細い先端にある。だから箸文化の崩壊にはつながらない。

 箸に狐の笑顔があってもいいじゃないか、というアイディアは我々には浮かばないだろう。その意外性に驚くと同時に、日常用品に洗練されたユーモアを付加したメイド・イン・フランスの箸を前にして、楽しさといえばキャラクター商品に流れがちな日本のデザインを振り返った。