Webサイトやメールを防災に生かそうとする自治体が増えている。住民の生命や財産を守るために自治体は何ができるのか。現場では模索が続いている。
昨年は大きな災害が頻発する1年となった。台風23号など、大型の台風が次々と上陸。各地に大きな被害をもたらした。また、10月23日には、多くの人が亡くなった「新潟県中越地震」も発生した。
大きな災害が続いて発生したこともあり、防災に対する自治体の関心が高まっている。Webサイトやメールなどを利用して、住民に防災情報を伝えようとする自治体も多い。
下のグラフは、防災に関する自治体の取り組みをまとめたもの。Webサイトに防災情報を掲載している自治体は52.8%。昨年の40.4%と比べて、10%以上増加している。防災情報をメールで住民に配信する仕組みを整えている自治体も、昨年の3.9%から8.4%に増えている。
こうした取り組みも、自治体の規模による差が大きい。防災情報をWebサイトに掲載する自治体は、市区の77.9%に対して、町は43.2%、村は23.9%にとどまっている。
28.6%の自治体にしか防災情報へのリンクがない
防災の取り組みには、都道府県などの防災情報へのリンクのように、手間を掛けずにできることがある。ところが、こうしたリンクを用意している自治体は28.6%しかなかった。
災害発生時に、Webサイトで迅速に情報を提供する体制を整えている自治体もある。新潟県柏崎市は、災害発生時にトップページを災害情報を中心としたページに差し替えて、最新情報を逐次掲載している(左図)。熊本県は、雨量や川の水位、潮位、風速など、さまざまな情報を地図上に表示するWebサイトを開設。県下の市区町村の状況を一覧できるようにしている。
一部の自治体は、住民の安否情報を集めて第三者が確認できるようにする「安否確認システム」を用意している。今回の調査では、9.7%の自治体が何らかの安否確認システムを整備。小田原市は、東海大地震に備え、安否確認に加えてボランティアの募集などもできるシステムを導入している。
災害発生時には、多くの住民が情報を求めて自治体のWebサイトにアクセスする。緊急時に信頼できる情報を迅速に住民に伝えることは、住民の生命や財産を守ることにつながる。今や自治体のWebサイトには、災害時の情報発信という新たな責務が生まれているといえるだろう。
新潟県中越地震の際には、被害地域の多くの自治体が、住民に対してリアルタイムに情報を発信しようと試みた。しかし、実際には、災害対策に追われての人手不足や現場の混乱が原因で、情報発信は担当者が思うようには進まなかった。
緊急時に住民に向けて十分な情報を発信するには、どのような準備が必要なのか。新潟県中越地震を体験した自治体の経験が参考になる。
サーバーの配線が損傷サイト復旧までに2日間
新潟県小千谷市では、Webサイトを1人で担当していた総務課広報広聴係の西方広幸主査が、サイトでの情報発信に携わった。小千谷市では、緊急時にWebで情報を発信する体制が決まっていなかったため、西方氏は「地震直後に駆けつけた市役所内で、助役から口頭で情報発信の許可を得た」という。
ところが、Webサーバーの設備がある市役所は地震で停電。自家発電装置は動作していたものの、配線系統が損傷。結局、Webサーバーが復旧して情報の発信が可能になるまでに、2日間を要した。その後も、広報担当の西方氏は、数時間ごとに開く記者会見への対応に追われ、記者向けの資料をWebに掲載するのが精一杯だったという。
これに対して、同じ新潟県内の柏崎市は、災害対策本部を設置した直後から、集まった情報をWebサイトで順次公開した。これができたのは、Webサーバーを耐震設計のデータセンター内に設置したり、緊急時の情報発信体制を決めたりするなど、事前の対策を進めていたためだ。
実は、柏崎市は、昨年7月13日の「新潟豪雨災害」の際に、災害時の情報発信にともなう混乱を経験。「もっと被害が大きいケースではどうすべきか、職員が議論を重ねた」(情報化総合戦略室の渡部智史室長)。その後、柏崎市は大きく3つのことをルール化した(上図)。
その一つは、携帯電話への情報発信。災害の渦中にいる住人にとっては、パソコンより携帯電話の方が最適な情報収集ツールになると判断。市の携帯電話用ページから登録した住民に対し、Webに掲載する情報を同時にメール配信することにした。柏崎市では現在、地震の経験を踏まえて、住民の避難状況を把握するシステムの開発なども進めている。
今回の調査では、緊急時のWebサイトの運用規定を定めている自治体は3.0%。その規定に沿って定期的に訓練を実施している自治体は、わずかに0.9%だった。残念ながら災害発生時に、住民が本当に欲しい情報をタイミングよく発信できる自治体はごくわずかなのが実状だ。
大規模な災害に対して1つの自治体だけでは対応できることに限界がある。市区町村の管轄ではない道路の情報や、外国人被災者に対する外国語での情報発信などは、市区町村単独では難しい。国や都道府県との適切な協力や役割分担も、市区町村の防災対策の課題だ。