インターネット経由で、さまざまな行政サービスの手続きができるのが「電子申請」。手続きのためだけに、わざわざ役所・役場まで足を運ぶ手間が省けるのが最大のメリットだ。
電子申請サービスを使えば、自宅や会社に居ながらにして行政手続きが可能。24時間365日申請できる場合も多く、平日は役所・役場に行く時間のないビジネスパーソン、役所・役場から離れた場所に暮らす住民など、多くの人にとってうれしいサービスだ(下の図)。
電子申請サービスを提供中、もしくは2005年度中に開始するとした自治体は、全体の34.5%。来年度から開始する予定の自治体も21.6%あり、2007年3月には約半数の自治体が電子申請に対応する見込みだ。
現在、最も多くの自治体が提供している電子申請サービスは、公共施設の予約。39.0%の自治体が対応済みだ。このサービスを使えば、公民館の会議室や公営のテニスコートなどを、インターネット経由で予約できる。週末にテニスの予定が入ったらその場ですぐに予約。これは重宝する。茨城県つくば市や小田原市のように、携帯電話向けサイトで予約できる場合もある(左図)。
粗大ゴミの収集申し込みも便利さを実感できるメニュー。東京都練馬区や茨城県守谷市のようにWebサイトから24時間365日申し込めれば、昼間は忙しい住民にとってありがたい。Webサイトで情報公開請求を受け付けている自治体もある。岡山市の場合は、事前の登録が不要で市民でなくても請求が可能。県外の自治体担当者が利用する例もあるという。
右上の表は、電子申請に対応する自治体の割合を、都道府県ごとに集計したもの。愛知県が98.5%に達している一方で、宮崎県では0%。都道府県による格差が大きい。
実は、全国で、都道府県と市区町村が共同で、公的個人認証を利用できる電子申請システムの開発を進めている。自治体の多くは、独自のシステムは開発せず、この共同システムで電子申請サービスを提供する。茨城県、山梨県、熊本県などは、すでにこの共同システムが稼動。このため、県下の大部分の市町村で、電子申請サービスが始まっている。
人気が高い電子申請は公共施設や図書館の利用
電子申請サービスで提供するメニューは、自治体によってまちまちである。実際に全国の自治体が提供している電子申請の種類をまとめたのが右下のグラフ。先ほど紹介した施設予約に加え、住民票の写しの交付、納税証明書の交付、図書館の蔵書貸し出し予約、といったサービスを提供する自治体が多い。
もっとも、提供する自治体が多いからといって、そのサービスが住民の支持を得ているとは限らない。2004年度のサービス利用実績を聞いたところ、利用率が高かったのは順に、図書館の蔵書貸し出しの予約と公共施設の予約。図書館の蔵書貸し出し予約の場合、人口比で27.5%の利用率だった。
ところが、提供する自治体が多いにもかかわらず、住民票写しの交付、納税証明書の交付、犬の死亡届、などは極端に利用する住民が少ない。例えば、住民票写しの交付の場合、利用件数は最大でも27件。1年間で、数件の利用しかなかった自治体が大多数を占めた。
利用率が低いサービスの多くは、共同システムを使って提供しているものだ。共同システムでは、提供可能なメニューを多数用意しているのが一般的。このことが、住民のニーズが高くないサービスの提供が進む一因になっている。
住民票写しの交付や納税証明書の交付は、一般に手数料が必要となる。手数料の支払いに手間が掛かることも、一部の電子申請サービスが進まない理由だ。
電子申請の手数料の納付方法を示したのが下のグラフ。82.1%の自治体は、窓口で手数料を納付しなければならない。いくら自宅のパソコンで申請できても、手数料を支払うために役所・役場に出向く必要があるのなら、電子申請のメリットはない。これはちょっと理不尽だ。
クレジットカード利用に向け法改正を検討する動きも
インターネット経由での手数料支払いを可能にしようという試みもある。1つは、主要銀行などが運営するマルチペイメントネットワーク(通称「ペイジー」)。これは、インターネットバンキングの仕組みを使って、自治体に手数料を支払うというもの(左下の図)。既に、国や一部の県、荒川区などが、国庫金や自治体が提供する電子申請の手数料の支払いに活用している。ただ、サーバー設備などの初期投資が必要だったり、住民側でインターネットバンキングの利用申請が必要だったりすることから、市区町村で電子申請向けに利用しているのは荒川区だけだという。
同ネットワークの利用を推進する「日本マルチペイメントネットワーク推進協議会」によると今後は、市区町村が共同で利用できるセンターを設け、初期投資の低減を図るという。
民間のサービスでは、インターネットでの支払いに、クレジットカードを利用することが多い。ところが、行政の分野では、クレジットカードで料金を支払える例はない。
そんななか、大阪府は2004年6月、窓口手続きで発生する手数料をクレジットカードでも支払えるようにする構造改革特区を国に申請した。見解を求められた総務省は「地方自治法では公金の徴収を第三者に委託できる記述がなく、現状でカード払いは不可」とコメント。一方で、関係者や識者を集めて、この実現に向けて検討する研究会を立ち上げた。総務省の検討によると、法改正すれば、カードでの手数料支払いが可能になる(左図)。関係者の話を総合すると、早ければ2006年度にも法改正がありそうだ。
この動きに対しては、業界団体の日本クレジットカード協会も「法律の問題がクリアになれば、導入を希望する自治体を積極的にサポートしたい」と前向き。数年後には、手数料支払いにカードを利用できるようになる可能性が高い。
住民へのアピールが利用率を左右する
過剰な本人確認が、住民の利便性を損ねている例もある。住民が、公的個人認証サービスを利用しようとすると、住民基本台帳カードの取得、電子証明書の発行、ICカードリーダーの購入といった作業が必要になる。現状では、電子申請のために、ここまでしていいと考える住民は少ないだろう。右上の図は、水道の開通・停止の届出に、公的個人認証を利用している自治体の割合。11.8%の自治体は、大勢とは異なり、サービス提供に公的個人認証を利用している。電子申請サービスを提供するに当たっては、住民の負担に配慮して、システム構築を進める必要がある。
電子申請サービスの存在や有用性を知らない住民も多い。住民の利便性向上を図るには、サービスの告知や説明に力を入れる必要もある。
東京都内では、18の自治体が同じシステムで、粗大ゴミ収集の受け付けサービスを提供している。ところが、自治体によって、サービスの利用率は最大4.4倍も違う。2004年に最多の1万2955件の利用があった練馬区では、区のトップページにリンクを用意するなどして、住民に対する告知を心がけている。
水道の開通・停止の届出の利用数が1268件と全国で5位の岡山市でも、家庭に配る水道料金明細書に申請用ページのURLを記載するなど、サービスの周知に向けて努力している。