図1●ユーザー参加型で行方不明者を捜索している例
図1●ユーザー参加型で行方不明者を捜索している例
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 インターネットで新しいビジネス・モデルを模索していた人々の注目を集めた本がある。米国で2004年に出版され,経営書ベストセラーになった「The Wisdom of Crowds(集団の知恵)」(James Surowiecki著)である。

 「The Wisdom of Crowds」の言わんとすることを一言で表現すると,「少数の専門家のグループよりも,多様な人々のグループ・集団の方がよりよい意思決定ができる」ということになる。

 日本的な表現で言うと,一流大学出のエリートが集まって会議をやっても,よい結果が出ない,ということになる。

 なぜこの本が注目を集めたのか。それは,この「グループ」,「集団」というコンセプトがインターネットに非常によくマッチするからだ。

 そして,「グループの知恵」「集団の知恵」を活用できる時代が実はもう来ている。

 その道具建てとして「Web 2.0」という概念が登場してきた。Web 2.0は,最近のWebに関する動きを象徴する言葉。2001年のドット・コム・バブルの崩壊以前は,作り手からの一方向パブリシングが主流であり,これを「Web 1.0」と呼ぶ。崩壊後,Webはユーザー参加型に質的変化を遂げた。これがWeb 2.0である。Web 2.0はまさに,「集団の知恵」を活かすための強力なツールである。われわれはこのWebのパラダイムシフトを目撃しつつある。

 複数の人間がコラボレーション(共同作業)を行い,意見を集約するというような,通常の企業活動や個人のグループで行っているものを,インターネットを活用して実現するためのツール・手法を紹介する。


グループのコラボレーションに便利な「Wiki」

 インターネットでは既にホームページ,BBS,フォーラム,ブログなど多様なツールが登場しているが,グループのコラボレーションに盛んに米国で利用されだしたのが,「Wiki」である。

 Wikiは,だれもが編集・書き込みできるホームページであり,操作はワープロ感覚でできる。最も有名なWikiの例は皆で作る百科事典「Wikipedia」だ。このWikipediaは,出版社が編集作業を行うという,従来のコンテンツの作り方の概念を劇的に変えるもので,インターネット界に大きなインパクトを与えた。記事の内容の正確さは,多数の人が読み間違いを直せば,より良いものに進化していくというオープンソースの考え方で確保している。米国では上位100サイトにランキングされており,近い将来にトップ10入りするであろうと考えられている。

 元々Wikiは,ソフトウエア開発のプロジェクトの関係者に対して,手軽に情報交換を行うページを作るために開発されたものである。現在では,個人,企業,政府での利用が拡大しつつある。米国では,インターネットやコンピュータの専門家ではない普通の人々がWikiを活用している。

 ・企業内の小グループのコラボレーション(汎用)
 ・コンサルティング企業の顧客とのコラボレーション
 ・消費者との双方向お客様窓口
 ・国防総省での予算説明
 ・企業内プロジェクト管理
 ・同好会,クラブでのイベントに関するコラボレーション

 最近の活用事例では,2005年に大きな被害をもたらしたハリケーン「カトリーナ」の被災者救済ボランティア活動でWikiが威力を発揮した(関連記事)。このプロジェクトでは,2カ月半で5万個のランドセルを被災児童に届けることができた。

 一方,行方不明者の捜索をユーザー参加型で行っている例がある(図1[拡大表示])。

 このページのto do listにあるように,非常に広範囲の捜索を皆で手分けして行っていることが分かる。まさしく「集団の知恵」の例である。

 Wikiを実現するソフトウエアは米国で3種類ほどあるが,Webを利用するWikiとして「seedwiki」がある。これは日本語が使える。次回はこのseedwikiを取り上げる。