“ホリエモン・ショック”で一時1000円を割ったが、富士通の株価は1月中旬から3年8カ月ぶりに1000円台に乗せ、NECに300円弱の差をつけている。証券アナリストによれば、ここ数年、下方修正の常連だった富士通が2005年度は踏ん張りを見せているところが支持され、株価を戻したという。

 富士通の04年度は惨憺たるものだった。04年10月に一度修正し、2005年1月にも下方修正。05年3月に締めた結果はさらに割り込んで1月時点の修正値を実現できなかった。最大の理由はサービス事業、つまりシステム開発の不採算によるものだ。

 昨年5月25日の黒川博昭社長の経営方針説明会での資料によると、04年10月時点で150億円の採算割れとみられたソフト・サービスが、05年1月には300億円に膨らみ、04年度実績は570億円にまで傷口が広がっていた。ほとんどが02~03年度までの間に発生していたシステムインテグレーション(SI)案件。富士通の経営状態が最悪の時に無理して受注したものであった。

 説明会で黒川社長は「不採算プロジェクトにSEの33%を投入し、フェーズアウトに全力を傾けた。04年度は新規案件を凍結するという悲壮な覚悟さえした。05年度にも敗戦処理は一部継続するものの、そこへのSE投入は7%で済む」と、05年度に何とか平常状態に戻す見通しを述べていた。今のところ有言実行の様子である。05年度の中間期で損失を前年度の8分の1に削減したソフト・サービス事業は、期初目標の前年度比45%増、1400億円の営業利益を確保できる見込みであるからだ。

 富士通幹部は、貢献要因を2つ挙げた。(1)04年6月からの営業・SEの統合組織化とアカウントプランの徹底が、05年夏から定着してきたこと。これは営業にも、従来の売り上げ責任に加え、利益責任を厳しく付加した結果である。

 もう1つは、(2)社内の俗称“ゲシュタポ(ゲハイム・シュターツポリツァイ)”が絶大な効果を発揮したことだ。社長・経営会議直属の「SIアシュアランス本部」をゲシュタポと呼ぶあたり、サービス事業に少し余裕が出てきた証かもしれない。05年4月に発足した「SIアシュアランス本部」の言い出しっぺで、同本部担当の野副州旦経営執行役常務(ソリューションビジネスサポートグループ副グループ長)を指し、「すごみのきく容貌はどこかハインリヒ・ヒムラーを彷彿とさせる」と、ある営業幹部がにが笑う。

 「権限を持ちノーと言える」、営業からゲシュタポと恐れられようが、SIアシュアランス本部のベテランPM(プロジェクト管理)経験者30人の存在は、赤字プロジェクトの撲滅に貢献したことは間違いない。年百数十件にも及ぶ商談規模3億円以上のSI案件を、すべてプロジェクトのフェーズごとに監査し、大きな問題のある場合は常務以上が出席する経営会議に継続か否かの判断を仰ぐ。既に、赤字幅が大きくなるという判断で、一旦プロジェクトを中断し同本部が介入。顧客と綿密な相談をし再スタートを切ったり、やむを得ず辞退した案件も出てきている。

 同本部の八野多加志本部長代理は、「本音は“不採算撲滅本部”という分かりやすい名称にしたかった」と闘いの日々を振り返る。その名の方が相応しいほど、いい加減な、見せかけは黒字だが、投入人数を見ると赤字は必至。そういう案件が暴露し始めたのだ。だが、すべてにノーと言うわけでもない。赤字覚悟でも将来の横展開を期待した戦略プロジェクトもある。それは同本部の補填で遂行する。現在3つほど走っている。

 約9カ月を経て分かった赤字発生の原因は、「結局組織の問題。必要な時に必要な人材がいないからだ」(八野本部長代理)。そのため1月末から人事権を1つ下げ、業種の事業本部長に委ね、人の配置を柔軟にした。

 黒川社長は、SI売り上げの2~4%、最大120億円の赤字は許容範囲だという。朗報は、このように締めてもSI売り上げが減らなかったことだ。やればできるのである。