埼玉県の鳩ヶ谷市役所は今年1月、財務、人事システムを刷新した。競合の大手7社を押しのけて受注したのは、首都圏で全く実績がなかった熊本市のRKKコンピュータサービスだった。

=文中敬称略


 「プレゼンが下手。製品の良さが全然伝わらないよ」。2004年11月、鳩ヶ谷市役所の総合政策部総合政策課情報政策担当で課長補佐を務める望月昌樹は、プロジェクトメンバーがそろっている前で声を荒げた。RKKコンピュータサービス(熊本市、野田照幸社長)の提案は、それくらい不満だった。

 ムカッ—。中途半端なプレゼンになってしまったのは、自分でも分かっている。追い討ちをかける望月に、RKKコンピュータサービス・公共情報事業部企画推進部次長の金子篤は内心、腹を立てた。「1時間で、このシステムの良さを伝えきるなんて無理。プレゼンの上手下手でシステムを決めるのなら、うちはもういい」。

 金子はこの日のために九州・熊本から900km離れた埼玉に来ていた。RKKコンピュータサービスは自治体での実績が多いものの、九州以外では全く無名。「関東進出」という会社の期待を背負っているが、現実には、サポートの問題などリスクも抱える。無理して火傷するつもりはなかった。

ベンダーフリーにこだわる

 そもそもの商談の発端は2004年夏、鳩ヶ谷でも熊本でもなく、福岡にあった。金子は、福岡県庁 企画振興部高度情報政策課で情報企画監を務める溝江言彦に呼び出された。当時、溝江は複数の自治体でアプリケーションを共有する取り組みを進めており、その相談だった。新システムには、福岡県が自前で策定したオープンソースのシステム基盤を使うつもりだ。ところが、溝江は金子の説明を聞いて驚いた。RKKコンピュータサービスのシステムが、福岡県のシステム基盤とほとんど同じ仕組みだったからである。

 溝江は、ベンダーを問わないシステム連携を目指してシステム基盤を作った。RKKコンピュータサービスも、「自治体システムのオープン化が進めば、ベンダーに縛られらたくないと考えるはず」。そう考えて2002年に、ベンダーフリーでアプリケーション同士を連携できるシステムの開発を始めた。結果、同じコンセプトのシステムに行き着いたのである。

 「住民にワンストップサービスを提供できます」。開発にもかかわった金子はシステムに自信も愛着もあったが、福岡県の入札は条件面で断念せざるを得なかった。その時は、まさか関東に提案しに行くことになるとは夢にも思わない。金子は落胆したが、その提案を溝江は高く評価していた。

 同じころ、鳩ヶ谷市ではシステム刷新が始まっていた。9月に川口市などとの合併が解消したことがきっかけだ。合併交渉中はシステム刷新が凍結され、耐用年数を越えたシステムを騙しだまし使っていた。情報政策を担当する望月はさっそく、財務会計、人事給与、電子決裁、文書管理各システムを構築すべく利用部門を含め20人強のプロジェクトチームを発足させた。ところが、ソリューションプロバイダ7社から提案とデモを受けても、メンバーの評価は最も良い提案で「75点」。不満はあったが、残された時間は少なかった。