クルマの性能は「走る」「曲がる」「止まる」という三つの軸で判断が下される。つまり,エンジン性能とコーナリング性能,ブレーキ性能が高いメカがよいとされてきた。しかし,メカの高精度化,電子制御の高度化によって,この3軸における性能向上は技術的にほぼ限界に達した感がある。
そこで今,自動車メーカーや研究機関が目を向けるのが「感じる」性能である。「感じる」には大きく二つの意味がある(図1[拡大表示])。一つは周囲の状況をクルマが認識すること。もう一つはクルマがドライバを常に見守り,その状態に応じたサービスを提供することである。
センサーと通信を武器に
「感じる」が重要なのは,主に安全を考えたときだ。いくら走る・曲がる・止まるの性能がよくても,ドライバが危険に気づかず判断が遅れれば,事故になってしまう。例えば,よそ見をしていて先行車両に追突するというケース。これを避けるためには,先行車両との距離が近づきすぎていることをクルマが認識し,ドライバに警告しなければならない。ただし,ドライバが危険だと気づいているのに,いちいち警告されたのではシステムに対する不信感を生みかねない。ドライバがよそ見をしていることを察知する必要が出てくる。
こういった「感じる」を実現するためには,センサーと通信の二つが武器になる(図2[拡大表示])。センサーはクルマの周囲状況を調べ,危険を予測するために利用するほか,人の状況の把握に用いる。通信はドライバやクルマが知覚できない事象を得るために使う。例えば,交差点でのクルマの飛び出し,見通しの悪いカーブの先における事故車の検知である。
搭載進む車外センサー
クルマの周囲を知覚するセンサーの搭載はすでに本格化しつつある(別掲記事「自動走行は永遠の夢か」参照)。高級車を中心に車間距離を測るセンサーや周囲の状況を監視するカメラが載り始めているのだ。
車間距離センサーはレーザーやミリ波を使って前のクルマや障害物との距離を検知するためのもの。制動距離よりも近づきすぎている場合に警告を発したり,ぶつかる瞬間に衝撃を軽減するための動作を取る(図3[拡大表示])。カメラは主に画像を解析し,周囲に危険なものがないかを検知したり,クルマが交通規制通りに走っているかを判断するために利用する。例えば,車線を認識し,逸脱していないかを検知するシステム(レーン・キーピング・システム)。また,本田技研工業がレジェンドに搭載している「インテリジェント・ナイトビジョンシステム」では赤外カメラの画像から人を認識し,警告を発する。
現在のところ,車載カメラを使ったセンサーは車線や夜間に歩いている人といった限定的な用途にのみ利用されている。昼夜問わず,人,クルマ,バイク,路肩のポールといったものを認識できるまでには至っていない。
これは画像認識の精度に問題があるからだ。例えば,天候や周囲の状況によって認識できないときがある。また,標識や人,障害物,クルマなど複数のものの種類まで見分けられるほど画像処理の技術が進んでいない。
しかし,今後は「画像認識の精度が向上することに加え,いくつかのカメラを総合して使ったり,車間距離センサーとカメラを組み合わせることで認識精度を向上させる,いわゆるセンサー・フュージョンが当たり前になる。これからクルマの認識能力はどんどん向上する」(日立製作所オートモティブシステムグループCTO兼アドバンスト・テクニカルセンタ長の児玉英世理事)。
人の状態で制御を変える
人の動きや状態を感じるセンサーは,これから搭載が始まるところだ。その一つがトヨタ自動車が2006年春に発表する「レクサス GS450h」に搭載予定のよそ見検知機能。よそ見をしている場合には警告タイミングを変える。
具体的には,ドライバをハンドルの奥に設置したカメラで撮影し,得られた画像を解析して,ドライバの顔の向きを導き出す。同時に,ミリ波レーダーとカメラによって周囲の障害物を検出する。ドライバが横を向いているときに,周囲の障害物との距離が縮まるなど衝突の危険が高まった場合,通常より2秒早めに警告音を発して注意をうながす。
搭載時期は未定だが,居眠り検知も部品メーカーを中心に活発に研究されている。カメラでドライバの目の状態を調べ,目を閉じている時間が長かったり,眠くてまばたき回数が多い場合に,早めの制御や警告を発するシステムだ。
例えば,2005年10月22日から11月6日まで千葉県幕張の日本コンベンションセンターで開催された第39回東京モーターショーでは,デンソーがまばたきを感知するシステムを展示した(写真1[拡大表示])。デンソーのシステムではドライバが眠りそうになると,首筋に風をあて覚醒をうながす。ただし「光の加減やメガネ,個人差などで検知できない可能性もあるため,製品化までに3年ぐらい必要」(デンソーの説明員)だという。
こういったカメラによる測定のほかに,脈拍を解析することで緊張や疲れ,眠さなどを測定しようというアプローチや,天候,ブレーキや方向指示器を出すタイミングからその人の状態を推測しようという試みも研究レベルで始まっている。