ここ5年間で容量単価が10分の1~20分の1に下がったハードディスク・ドライブ(HDD)は,従来と比べて利用範囲が大きく広がった。そのため,格納するデータの用途やライフサイクルに合わせて,HDDの容量,性能,信頼性,コストを最適化することが求められている。これらの仕様を正しく読み解くために,HDDの内部をのぞいてみよう。

 ハードディスク・ドライブ(HDD)は,現在,市場で最も利用されているストレージの代表格である。最近の劇的な低価格化により,HDDはバックアップ・メディアとしても利用されるなど,その用途は多岐にわたっている。

 HDDといっても様々な種類があり,入出力性能を重視したハイエンド・モデルから大容量・低価格モデルまで,目的・用途に合わせて選ぶことが可能である。選択時の主なポイントは,(1)容量(記録密度),(2)入出力性能,(3)信頼性——である。この3つのポイントは,カタログの値からある程度判断できるが,その意味するところは意外に奥深い。今回は,この3つのポイントを理解する上で不可欠となるHDDの基本的な内部構造と,HDDの特性を理解する上で重要なスペックの意味を解説していく。

ディスク回転に伴う空気流で磁気ヘッドが浮上

 初めに,HDDの基本的な内部構造と各部の名称を押さえておこう(図1[拡大表示])。データは回転する「ディスク」の上に記録され,それを読み取る(あるいは書き込む)のは「磁気ヘッド」である。磁気ヘッドは「アーム」の先に取り付けられ,アームには磁気ヘッドを適度にディスク面に押し当てる「サスペンション」が付いている。磁気ヘッド,サスペンション,アームの3つが一体化された「ヘッド・アセンブリ」が円弧を描くように走査(シーク)して,先端の磁気ヘッドがディスク上のデータにアクセスする。

 HDDを横から見ると,実は数枚のディスクが積み重ねられていることが多い。これに合わせてヘッド・アセンブリも積み重ねられ,複数のディスクの間にくし状に挿入されている。ヘッド・アセンブリとロータリー・アクチュエータを合わせた形状が文字の「E」に似ているため,ヘッド・アセンブリを「Eブロック」と呼ぶこともある。

 ディスクが回転すると,その表面には回転方向に空気流が生まれる。磁気ヘッドはこの空気流に乗ってディスク面からごくわずかに浮上し,磁気信号をディスクに記録する。ディスクの両面には磁性層膜が形成され,この層の上にヘッドがデータに応じた磁化のパターン(N極とS極の配列)を記録する。記録されたデータを読み込むには,ヘッドで磁性層膜上に記録された磁化のパターンから磁界を検出し,データを再生する。

 ディスクを回転させるのは「スピンドル・モーター」である。現在,毎分4500回転から1万5000回転が主流となっている。HDDには,使用目的によって多様な回転数のものが存在する。一般に,回転数が高いHDDほど高性能かつ高機能であり,回転数は年々高速化する傾向にある。こうした基本構造を押さえた上で,容量(記録密度),入出力性能,信頼性を支える要素を見ていく。

◆ポイント(1):容量(記録密度)

 前回述べたように,HDDの記録密度はハイペースで上昇を続けており,その結果として400G~500Gバイトという大容量のHDDが出現してきた。その一方で,記録密度が上がればディスクの枚数が少なくて済む。ヘッドの個数も減らせるため,コスト・ダウンにも貢献している。

 記録密度(あるいは面記録密度)は,1平方インチのディスク面に記録できるデータの容量を示している(図2[拡大表示])。単位はビット/平方インチだ。記録密度は,ディスク面上の円周方向1インチに記録できるビット数と,同心円状に広がる帯(トラック)が1インチ当たり何本あるかを掛け合わせて計算する。前者は「線記録密度」と呼び,単位はBPI(Bits Per Inch)。後者は「トラック密度」と呼び,単位はTPI(Tracks Per Inch)で表す。最新の高性能HDDでは,線記録密度が70万BPI以上,トラック密度が9万TPI以上ある。線記録密度はデータの入出力性能や信頼性にも影響するので注目してもらいたい。線記録密度やトラック密度の数値がカタログなどに記載されていない場合は,1枚のディスク(プラッタ)当たりの記録容量を参考にするとよい。最近では80G~133Gバイト(ディスク両面の容量)に達している。

セクター単位でデータを記録

 トラック上に記録されるデータは,「セクター」と呼ばれる単位で書き込まれる(図3[拡大表示])。1つのセクターに書き込めるデータ・サイズは512バイトに固定されていて,それ以上に大きいデータは複数のセクターに分けて書き込む。

 各セクターにはユーザー・データ以外に,転送データの誤りを検査するCRC(Cyclic Redundancy Check)やエラーを訂正するECC(Error Check and Correct),同期のためのギャップなどが含まれる。さらにヘッドの位置を決めるためのサーボ・フィールドが各セクターの先頭や間に入ることがある。以前は,各セクターを識別するアドレスを記録したID部もあったが,最近は記録容量を増やすためにIDレス方式となっている。

 このセクターの数を増やすことでもHDDの記録容量は増える。以前のHDDは,ディスクの内周と外周のどのトラック上でも同一のセクター数だった。だがこの方式では,最内周のセクターには本来の線記録密度通りにデータが記録されるが,最外周では本来の線記録密度より低い密度でデータが記録される。これでは効率が悪い。

 そこで,外周側のセクター数を内周側のセクター数よりも多くすることで,できるだけ線記録密度を均一化するようにした(図4[拡大表示])。ディスク上のトラックを同心円状にいくつかの領域(ゾーン)に分け,外周に近いゾーンほど1トラック当たりのセクター数を増やした。この記録方式を「定記録密度方式」と呼ぶ。

記録密度の上昇に合わせ,信頼性の確保に工夫

 記録密度が高くなるにつれ,ディスク上にS極とN極の磁気信号が微細に記録されていくことになり,信号は次第に微弱になる。その微弱な信号を読むため,ヘッドとディスクの間隔をできるだけ接近させるようになってきた。

 現在のHDDでは,ヘッドとディスク間の距離(ヘッドの浮上量)は10nm(ナノ・メートル,1nmは100万分の1mm)程度である。これはタバコの煙の粒子(直径200nm~500nm)よりも,はるかに小さな隙間といえる。そのため,ディスク面の平滑度は非常に高い精度が求められる。ディスク面上の突起にヘッドが衝突すると,衝突時の熱によってノイズが発生し,データの読み取りを誤ることがある。現在のHDDは,検出回路や補正回路を用いて,この読み取りの誤動作を防いでいるが,記録密度の上昇は性能や信頼性にも大きく影響を与えていることが分かる。

◆ポイント(2):入出力性能

 HDDの性能は,どれだけ速く目的のデータを読み書きできるかに依存する。性能を見極めるには,まず目的のデータの格納場所(セクター)に到着するまでの時間(アクセス・タイム)が鍵となる。さらに目的のデータをすべて読み書きする速度(データ転送速度)も重要である。

平均待ち時間は回転数で決まる

 アクセス・タイムは,ヘッドを目的のトラックまで移動させる時間(シーク・タイム)と,そのトラック上で目的のセクターがヘッドに近づいてくるのを待つ時間(平均待ち時間)を加えたもので示している。

 最初に平均待ち時間の説明をしよう。回転するディスク上で目的のセクターがヘッドの位置に到着するのに,最大でディスク1回転の待ち時間がかかる。逆に,最小では直ちに到達して待ち時間なしのこともある。そこで,セクターへの到着時間は,ディスク半回転の時間を示す「平均待ち時間」で表している。

 平均待ち時間は,ディスクの回転数によって自動的に決まる。4500rpm(回転/分)で6.7ミリ秒,5400rpmで5.6ミリ秒,7200rpmで4.2ミリ秒,1万rpmで3ミリ秒,1万5000rpmで2ミリ秒となる。高速回転型のHDDほど待ち時間は短くなり,より速くデータにアクセスできる。

 ディスクの回転数は,使用目的(用途)によって異なる種類のものが存在する(図5[拡大表示])。一般に,回転数の高いものほど高機能であり,サーバーやワークステーション向けに用いられる。しかも,年々高速回転に移行していく傾向がある。

コマンド・キューイングがアクセスを向上

 「シーク・タイム」は,ヘッドを目的のトラックに移動させるロータリー・アクチュエータの駆動力の強さと平均的な移動距離によって決まる。多数の読み書きを並行処理するサーバー用で4ミリ秒台,コスト優先のPC用で8ミリ秒台だ。サーバー用のハイエンドHDDでは,ディスクの半径を小さくし,ヘッドの移動距離を縮めて3ミリ秒台のシーク・タイムを実現した製品もある。

 シーク・タイムは,データの読み取り時と書き込み時で異なる。書き込み時には,ヘッドが目的のトラックへ移動後,位置決めの安定に数ミリ秒の時間が必要なためだ。通常,カタログのシーク・タイムには,読み取り時と書き込み時の2種類が記載され,書き込み時が若干遅い。

 データへのアクセス時間を短縮する技術として,「コマンド・キューイング」が利用されている。FC(Fibre Channel)やSCSIのHDDには以前から搭載されているが,コスト・パフォーマンスの高いシリアルATAのHDDにも搭載されるようになり,注目されている機能の一つである。

 コマンド・キューイングは,データ入出力命令が一つひとつ完了するのを待つことなく,複数の命令を連続して実行する機能である。加えて,シーク・タイムと回転待ち時間の合計を少なくするよう,入出力命令を並べ替えてから実行し,全体の効率を向上させている。例えば複数のセクターにアクセスするとき,一方向のシークで,かつ回転待ちの少ないアクセス順序を割り出すことが可能になる。

データ転送速度は内周と外周で大差あり

 データ転送速度は,比較的大きなデータを読み書きする場合に大きく影響する。基本的に,記録密度が高く,ディスクの回転数が高いほどデータ転送速度は高くなる。記録密度が高ければトラックを1周する間に読めるデータ量は増え,回転数が高ければその時間も短くなるからだ。

 ただし,定記録密度方式により,ディスクの外側と内側で速度が変化する。最高速となるのは,1トラック上のセクター数が最も多い最外周のゾーンである。逆に最も低速なのは最内周のゾーンで,最外周と比べて40%以上の差が出る(図6[拡大表示])。カタログなどに掲載されているデータ転送速度(最大サステインド転送速度)は,最外周を基準とした値である。

◆ポイント(3):信頼性

 HDDは,ヘッドがディスク面上を浮上して動作するという構造上,振動や衝撃には弱い面をもつ。そのようなHDDの信頼性を示す指標として,故障を起こすまでの動作時間の平均値である「平均故障間隔(MTBF,Mean Time Between Failures)」が利用されることがある。

 HDDのMTBFは100万時間とか200万時間となっている。連続稼働させたとして,114年とか228年になる。しかし,「1台のHDDが100年以上故障しない」と言っているわけではないので注意してもらいたい。

 MTBFの考え方として,「100万時間MTBF」というのは「100万台のHDDを1時間稼働して1台故障する割合」を意味する。そうすると,もし1000台のHDDを24時間・365日稼働させると,総動作時間は24時間×365日×1000台で876万時間となる。この総動作時間をMTBFの100万時間で割れば8.76となり,1年間で約9台(8.76台)故障する計算になる。このように考えると,実際の経験値に近くなってくるはずだ。

 また,MTBFは,HDDの稼働率や温度環境によって変わる。通常,FCやSCSIインタフェースのHDDは24時間・365日のフル稼働を前提として設計されているが,主にPCで使われるATAインタフェースのHDDはその70%の稼働率を前提として設計されていることが多い。そのため,本来ならHDDの使用環境と同じ条件のMTBFを参照しなければ意味がなく,最近ではカタログに記載しないことが多くなっている。

衝撃には読み取りや書き込み方法で工夫

 HDDの信頼性を左右する「耐衝撃性」は,ヘッド・アセンブリのアーム,サスペンションの長さ,ヘッドの大きさの3つに依存している。最近のヘッドの大きさは1mm以下で,重さは0.6mg程度と小さく軽くなっている。このサイズになると慣性の影響が少ないため,振動や衝撃に有利である。ヘッドの浮上量の低減にも貢献している。

 アームとサスペンションの長さは,HDDのフォームファクタ(外形サイズ)によってほぼ決まる。小型の2.5インチや1インチ以下のフォームファクタでは,アームとサスペンションの長さが短いため耐衝撃性が高くなる。

 一般に,HDDに衝撃が与えられると,ヘッドとディスクが接触したり,ヘッドがトラックの中心から外れたりするため,何らかの悪影響が生じてしまう。例えば,「CSS(Contact Start Stop)方式」というタイプのHDDは,ディスク回転停止時に,ヘッドがディスクの内周にあるランディング・ゾーンに静止(ヘッド下面がディスク面と接触)している。この状態で衝撃が与えられるとヘッドが跳躍し,その後にサスペンションの押さえ付けによりヘッドが何度かディスク面をたたく現象が起きる(図7[拡大表示])。

 その結果,ディスク面を傷つけたり,ヘッドに亀裂を生じさせたりする。このときの微小なかけらや粉塵が飛び散り,ディスク回転時にヘッドとディスク間に入り込むと読み取りエラーを生じ,ディスクやヘッドを一層傷つける危険もある。CSS方式のHDDでは,振動や衝撃をうまく吸収するようにサスペンションの構造を工夫して耐衝撃性を高めている。一方,ディスクの回転停止時は,ディスク最外周のさらに外側にある「ランプ」上に停止させる「ロード/アンロード方式」のHDDもある(図8[拡大表示])。この場合,回転停止時の衝撃が原因でディスク面を傷つけることはない。

 次に,動作時における耐衝撃技術を見てみよう。データの書き込み時に衝撃や振動が加わると,ヘッド・アセンブリが揺れて,書き込みデータがトラックから外れて記録されてしまう。このように記録されると,データの再生は不可能である。この問題を防ぐため,HDDにショック(加速度)センサーを搭載したものがある。データ書き込み時に衝撃を感知するとデータを一時的にキャッシュし,衝撃の影響がなくなってからディスクに書き込む仕組みである(図9[拡大表示])。

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 次回は,ディスクと同様に代表的なメディアであるテープの基本構造を解説する。


吉岡 雄
日本ストレージ・テクノロジー マーケティング本部 シニアスペシャリスト