インタビュー結果を基に提案書を作成する際は、相手の意思決定を促すように、ロジックや盛り込む内容を工夫すべきだ。例えば、新規事業や新システムで得られるメリットを、企業が抱える現実の課題と絡めてイメージしやすいように描くことなどが求められる。

(小野 泰稔=コンサルティング・フェア・ブレイン代表取締役)



これまでの経緯
 ヘルシー食品の主要事業は会員制(約15万人)による有機食品の通信販売事業と店舗事業(10店舗)で、売上高は320億円、社員数は800人(内パート・アルバイト280人)。収益の伸び悩みについて、同社の事業開発室の梅田氏から相談を受けたコンサルタントの私は、インターネット通販事業について「プレ提案書」を作成し、スタッフの西本と訪問して説明した。

注)本記事に登場する社名、氏名はすべて仮名です



インタビューの結果を5つの視点で整理

 前回、私とスタッフの西本はヘルシー食品を訪問し、事業開発推進室の梅田氏と情報システム部の三浦部長へのインタビューを行った。

 事前に立てた仮説に基づいて作成した「インターネット通販事業のご紹介」と題する資料(プレ提案書)を使ったインタビューは、提案に向けての手ごたえを十分に感じることができるものであった。そこで我々は、8日後の2回目の訪問までに提案書をまとめることになった。

 まずインタビューした内容を思い起こし、ポイントを整理してみることにした。これまでの我々の認識が違っていた部分、新たに発見できたことなどがあったからである。

 インタビューの結果、ヘルシー食品のインターネット通販について次のように5つの視点から整理できた。

(1)インターネット通販を導入していない理由
●インターネットは一時的なブームではないかと疑っている
●他社の状況から、もうかる可能性は低いと見ている
●ヘルシー食品の会員は、インターネットからは注文してこないと考えている
●投資する資金が潤沢にあるわけではない

 インターネット通販について、思っていたより否定的な見方をしていることが分かった。しかし、その根拠は必ずしも明確ではない。インターネット通販の導入を推奨するためには、これらの否定的な考え方を変えてもらうための対策が必要である。

(2)インターネット通販の必要性
●導入の検討については、必要性を感じている
●店舗事業強化モデルについては、否定的であり、必要性を感じていない
●通販事業効率化モデルについては、強い興味を示しており、必要性を感じている
●特にインターネットの強みである「個別の会員に対する購買提案機能」は好評であり、期待も大きいようである

図1●「提案書」の表紙

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図2●目次を付ける

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図3●まずは「1.貴社を取り巻く環境」のページを設ける

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図4●「2.プロトタイプモデル構築の必要性」を書く

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図5●「3.1 重点検討課題」としてヘルシー食品の現状を述べる

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図6●「3.2 検討ステップ」として今後の方向性を合わせる

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図7●「3.3 作業概要および成果物」でイメージを合わせる

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図8●「4. プロジェクトスケジュール」を想定する

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図9●「5.プロジェクト体制」を想定する

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 インターネット通販について、否定的な面はありながらも、検討の必要性は十分に感じている。今回の訪問で、通販事業での効用や必要性についてある程度、理解してもらえたと考えられる。

(3)インターネット通販に対する今後の取り組み
●来年度の予算獲得に間に合うように検討し、意思決定したい
●もし、インターネット通販を導入するなら来年度に事業化したい

 前向きさが十分感じられる反応であり、インターネット通販の導入について提案すべきであると考えられる。

(4)インターネット通販以外でヘルシー食品が直面している課題
●受注業務を効率化したい
●しかしその半面、24時間受注を可能にしたい
●電話での問い合わせ対応業務の負荷を減らしたい

 これらの課題は、インターネット通販の仕組みの中で一緒に提案することが可能であると考えられる。

(5)その他の情報
【会員について】
●主婦層が主力で年齢層は広い
●会員数はあまり減少していないが、単価が下がっている
●仕事や子供の有無などのライフスタイルによってニーズが大きく異なる
【競合他社について】
●インターネット通販への取り組みが活発
【顧客情報の活用について】
●会員への購買提案が弱い
●会員の購買情報はほとんど活用されていない
●会員同士の情報交換が、非常に効果的と考えている

意思決定を促すための情報を提供する

 インタビューの内容とそこで得た感触から、今回はインターネット通販の提案を行うことにした。しかし、「本当にもうかるのか」といった懐疑的な見方も強いと思われるため、このままでは意思決定することが難しいと考えられる。その上、否定的な見方についての根拠も明確とは言えないのである。状況は混とんとしている。

 これを打破し意思決定を促すためには、ヘルシー食品に提供すべき情報が、まだ不足しているのではないか。こう考えて、提案書では次の2つを基本方針とした。

(1)意思決定するためには、具体的な実現の姿を定義し、費用を見積もるべきであると訴えかけること (2)インターネット通販を導入することで得られるメリットを、ヘルシー食品の抱える課題と絡めてイメージしやすいように描くこと

 その結果、作成したのが図1~図9の提案書である。

 例えば、「1. 貴社を取り巻く環境」のページを設けたのは、前回の訪問時に出ていた「インターネットは一時的なブームで終わってしまうのではないか」という疑念に答えるためだ。インターネットが既に消費者の購買行動に大きな影響を与えていること、その変化への対応が企業に求められていること、を指摘している。さらに「2. プロトタイプモデル構築の必要性」を入れた。ヘルシー食品のインターネット通販に対する認識を我々が理解していることを示すとともに、このまま意思決定が遅れると、環境の変化に後れを取ってしまうことを指摘している。そして「3.1 重点検討課題」としてヘルシー食品の現状を述べ、プロトタイプ構築について現実感を持って理解してもらう。「3.2 検討ステップ」は、どのような道筋でプロトタイプによる検証を実現するかを説明するための資料である。「3.3 作業概要および成果物」は、検討ステップで描いた各ステップの作業内容を、一段詳細化した資料である。

 「4. プロジェクトスケジュール」は、この時点で想定されるスケジュールである。意思決定のタイミングを重視して、2カ月で終了することを提案した。「5. プロジェクト体制」も、この時点で想定できる体制案である。「ステアリングコミッティー」で経営者層にも参画していただき、プロジェクトリーダーもヘルシー食品が務めるなど、ヘルシー食品が主体的に行うプロジェクトであることを意識付けている。

 次回は、この提案書を用いたプレゼンテーションとその後の顧客からの評価を解説する。

筆者が作成した「プレ提案書」「提案書」(いずれもパワーポイントのファイル,ZIP形式で圧縮)の全ページは、こちらからダウンロードできます。

著者プロフィール
情報サービス会社でシステム構築の一連の業務に携わった後、トーマツ コンサルティングのマネジャーのほか、社団法人・日本能率協会の専任講師も務める。IT戦略、システム化計画、システム開発方法論のカスタマイズ・提供など、ITを中心としたコンサルティングと人材育成を行っている。現在はコンサルティング・フェア・ブレイン代表取締役