図●「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実施上の取扱い(案)」の骨子
図●「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実施上の取扱い(案)」の骨子
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早ければこの4月に始まる会計年度から、ソフト取引の新ルールが適用される。付加価値部分だけの計上や検収時期の確定などを求める。会計の視点でみれば“原理原則”に過ぎないものの、あいまいな取引が横行してきたIT業界の混乱は避けられそうにない。

 日本での会計基準を定める企業会計基準委員会が3月にも、ソフト取引に関する新会計ルール「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実施上の取扱い(案)」を公表する。これは、ソフトの取引業務における会計上の注意点をまとめたものだ。

 一昨年に刑事事件にまで発展する不正取引が発覚したことなどを受け、経済産業省らはソフトに特化した会計基準策定を求めていた。その結果、「会計基準を大きく変えるわけではなく、あくまでも会計の“原理原則”に沿うことを求める」(企業会計基準委員会)形に落ち着いた。

 原理原則といえども、新ルールは、あいまいなままですませてきた取引内容の全面的な見直しを求めている。IT企業とユーザー企業のそれぞれに混乱が生じることは避けられそうにない。

 新会計ルールの主な言及点は、収益の表示方法、収益を計上できる時期、一式契約など複数の契約が含まれる複合的取引の扱い、の3点である([拡大表示])。収益の表示方法については、瑕疵(かし)、在庫、信用のいずれのリスクも負わない取引の場合、手数料のみを計上する純額表示を求めている。右から左に開発案件を紹介するだけで発注先とほぼ同額の売り上げを立てる「スルー取引」を抑制するのが目的だ。

 純額表示が基本になると、IT市場の規模は間違いなく目減りする。現状、手数料のみを求める取引でも総額表示している企業が少なくないからだ。

 収益の計上時期と複合的取引の扱いは、ユーザー企業にも商習慣の見直しを迫る。新ルールは、取引の実在性、成果物提供の完了、対価の支払いの成立の3条件がそろわなければ収益を計上できないとする。3条件がそろっていることの証明になるのが「検収書」。納品時やフェーズごとにユーザー企業が捺印した検収書が必要になる。「作業がここまですみました」などと口頭でやり取りするだけでは許されない。

 一式契約については、原則禁止になる。ソフトとそれに関連するサービスや、ハードとソフトなどが一体になった売り上げ計上を禁止する。例えば、システム開発の請負契約に保守サービス費用を含めるような契約は認められなくなる。システム開発は「モノ」の販売であり、「サービス」の提供とは収益の計上時期が一致しないというのがその根拠である。

 新会計ルールはIT企業の経営者に対し、財務諸表の内容すべてにコミットを求める。ルール策定の現場では、「取引先や顧客企業の意識改革に時間がかかるため、新ルール適用時期を1年間遅らせてほしい」といったIT企業の声もある。だが、会計基準委員会は“原理原則”を盾に、早期導入を図る考えだ。