任天堂の携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」が,ますます見逃せない存在になる。この15日に開催された同社のイベントでは,ノルウェーのオペラ・ソフトウエアと共同開発するWebブラウザ(関連記事1)や,ワンセグ放送の受信モジュールの発表があった。「通信と放送の融合」が既にゲーム機の領域にも及んでいることを認識した。

 それにしても進化の速さには驚くばかり。この分では,超高速無線LANの「IEEE 802.11n」(関連記事2)や超広域ワイヤレス・ブロードバンドの「WiMAX」(関連記事3)への対応も,そんなに遠くないのではと思えてくるほどだ。

 こうした将来の機能拡張に期待するところは大きいが,ここではニンテンドーDSで今でも使える通信機能「ピクトチャット」について述べてみたい。ピクトチャットとは,文字メッセージや手書きのイラストをチャット形式で他のニンテンドーDSとワイヤレス通信できる機能のこと(ピクトチャットの説明ページ)。遅まきながらこの機能が,小学生世代のコミュニケーション手段として大いに使われていることを実感する機会があった。その姿をみていると,「これぞ新世代のコミュニケーター」と確信すら覚えるほどだった。

 それは関東で記録的な大雪が降った1月中旬の週末のこと。幕張メッセは早朝から異常な熱気につつまれていた。「日本最大のこどものための展示会」をコンセプトとする「第23回次世代ワールドホビーフェア」が開催されていた。同事務局によれば,初日の土曜日が4万8600,2日目の日曜日に6万4600の参加者を集めたという。

 筆者が小学5年生の息子とその友人の3人で出かけて行ったのは2日目の日曜日。開場の約2時間前に着いたものの,既に見渡す限りの長蛇の列が出来ていた。実はこのイベントには昨年も参加しており,その経験から早めに行ったつもりだったのだが,結局は会場に入るまで2時間ほど待つことになった。

 さて子供たち2人は列の最後尾につくなり,カバンからニンテンドーDSを取り出しゲームを始めた。時折,お互いの画面をのぞき込みながら何やら話をしている。最初はゲームの話だろうと思って聞き流していたら,「いま12人」「へー,埼玉から来たんだ」「やっぱりこいつもレア・カード目当てだってさ」と,どうも様子が違う。それはすべてピクトチャットによるやりとりだったのだ。聞いてみると,12人というのはそのときの参加メンバーで,最初は自己紹介から始まり,今日の“獲物”で盛り上がっていたらしい。

 改めて辺りを見渡すと,ニンテンドーDSの画面を見つめている子供の多いこと多いこと。昨年に比べて明らかに増えている。増えているといえば,今年の列には女の子の姿も目立つ。彼女たちの中にもニンテンドーDSをプレイしている子が少なからずいる。まあ何といっても,今日のイベント内容はニンテンドーDS関連がかなりを占める。だから特殊かなとは思いつつ,後で息子に「女の子の友だちでニンテンドーDSを持ってる子いる?」と聞いてみたところ,「うん,いるよ。この前塾の友だちと文化祭の見学に行って食堂で待っているとき,みんなでディーエスで『遅いねー』とかチャットしてた」。ちょっと待てよ。「みんな同じテーブルに座って目の前にいるのにチャットしてるのか?」と聞いくと,「そうだよ」となぜそんな当たり前のことを聞くのかといった表情で答えてくる。

 この瞬間,筆者の頭をよぎったのは,かつてはパソコン,今なら携帯電話で視界の届く範囲にいる仲間とチャットしている若者たちの姿だった。いまや携帯電話は,外出時はもとより,ひと時も身から離せないコミュニケーターになった。これから若者になる新世代の間では,ニンテンドーDSがその役割を担うのではないだろうか。一方でこうも思った。電源入れてすぐ使え,手書きで参加できるというピクトチャットの簡便なインタフェースは,高齢者にも使いやすそうだ。あるいは既にそういうソフトもあるようだが,認識能力を生かして外国語の自動翻訳ツールとして使えないだろうか・・・このような可能性をいくつも想像させてくれるニンテンドーDSだからこそ,次世代のコミュニケ—ターと思ったゆえんだ。