2005年にデスクトップ分野で見られたデュアルコア化の波が、いよいよノートパソコンにも押し寄せてきた。2006年1月6日、インテルがノートパソコン向けデュアルコアCPU「Core Duo(開発コード名Yonah)」を発表したのだ。
早速、各社から発表されたCore Duo搭載のノートパソコンを使って、その実力をテストした。複数アプリケーションの並列実行時に強さを見せる、デュアルコアの特性が生かされた結果となった。
2次キャッシュを共有する
詳細なテスト結果を見る前に、Core Duoの特徴を整理しておこう。Core Duoは、2005年発売のデスクトップ向けCPU「Pentium D(開発コード名Smithfield)」と同じく、1個のCPUチップに2個の演算回路(CPUコア)を内蔵する。単純に仕様だけを見ると、動作周波数や、CPUとチップセットを結ぶFSB(フロントサイドバス)の速度などではPentium Dに及ばない。しかしCore Duoには仕様表からは分からない利点がある。
それが、2次キャッシュの共有。Core Duoは、2つのCPUコアが1つの2次キャッシュを共有する。各CPUコアが独立した2次キャッシュを持つPentium Dより、処理を効率化できる可能性が高い。
例えば片方のコアが使っているデータを、もう一方のコアが使う場合、Pentium Dでは、一旦そのデータを一度メモリーに書き戻し、もう一方のコアがメモリーからそれを読み出すという手順になる。これに対してCore Duoでは共有する2次キャッシュにデータがあるため、メモリーを参照する手間を省ける。
アプリ単体実行では差は出ない
こうした利点を含めて、Core Duoがどれくらいの性能があるのか。それを調べるため、Core Duo搭載のノートパソコンのうち、今回入手できた3製品に対してベンチマークテストを実施した。また比較のために、Pentium Dと、Core Duoの前のモデルでシングルコアのノートパソコン向けCPU「Pentium M(開発コード名Dothan)」搭載機でも同じテストをした。なお、NECの「LaVie RX LR900/ED」と「VALUESTAR L VL590/ED」は、試作機を用いた。
実施したテストは二つ。一つは、「本誌性能ランキング」欄で使用していたベンチマークテスト。このテストはWordやExcelなどのアプリケーションソフトを単体で動かして、パソコンの性能を測るというものだ。もう一つが、この性能ランキングのテストを実施しながら、25分の動画の圧縮を実行するものである。
まず、性能ランキングテストを単独で実行した結果を見ていこう。Core Duo搭載の3機種は、ほぼ仕様通りの結果といえるだろう。エプソンダイレクトの「Endeavor NT9500Pro」の性能の高さが目立つが、メモリー容量が他機種の2倍あることを考えれば性能が高くなるのは納得できる。デルの「Inspiron9400」とLaVie RX LR900/EDの差も、動作周波数などを考慮すれば妥当だろう。
また、シングルコアであるPentium M搭載機もこれらに引けを取らない結果となった。アプリケーションを単独で実行する場合は、デュアルコアの強みはあまり生かされないようだ。
ちなみにCore Duo搭載の3機種の結果は、どれもPentium D搭載機を上回った。Core DuoはPentium Mの後継なので、低い動作周波数でも性能を高められる構造になっていると考えられる。加えて前述の2次キャッシュなどが功を奏し、こうした結果になったのだろう。
同時実行で強さを見せた
デュアルコアの実力が発揮されたのは、動画圧縮と性能ランキングテストを同時に実行したときだ。性能ランキングテストの結果だけでは単体で実行したときと大きな違いはないように見えるが、処理にかかった時間を比べると差は歴然としている。
Core Duo搭載機では、性能ランキングテストが終了したあと、20~30分前後で動画圧縮処理も終了する。これに対してPentium Mは90分を超えた。実に3倍以上の差が出たわけだ。
この結果は次のように説明できるだろう。Pentium Mでは、性能ランキングテストと動画圧縮を同時実行している間は、CPUリソースの多くを性能ランキングテストに割いていた。だから性能ランキングテストでは他の機種と大差なかったが、その間動画圧縮の処理はほとんど進んでいなかった。そのため、性能ランキングテスト終了後の動画圧縮テストで長い時間がかかったのである。実際、性能ランキングテストと動画圧縮のそれぞれを単独で実行したときの処理時間の合計と、同時実行したときの処理時間にはほとんど差がなかった。一方、デュアルコアCPUは二つの処理を並列で実行した。このため動画圧縮も短時間で終了したと考えられる。
省電力は超低電圧版に期待
最後に、Core Duoのもう一つの特徴である省電力に触れておこう。インテルによれば、Core Duoはチップセットと無線LANモジュールを合わせて、従来に比べ最大で28%の省電力化を果たしたという。
今回は各製品の仕様がまちまちで、同一条件下でのバッテリー駆動時間の測定ができなかった。ただ参考として、エプソンダイレクトの公表値を紹介しておく。今回テストに用いたEndeavorNT9500Proのバッテリー駆動時間は2.5時間だが、Pentium Mを搭載し、それ以外のスペックがほぼ同じ「Endeavor NT 9000Pro」は4時間。同社によると「この差は主にCPUによって生まれた」という。
ただし現在発表されているCore Duoは、通常電圧版と低電圧版のみ。また今回テストしたCore Duo搭載機はA4サイズ以上でモバイル向けの性格は薄く、バッテリーの駆動時間はあまり問題にならないだろう。駆動時間は、モバイル用途の超低電圧版Core Duoの登場を待って改めて調査したい。