商法や有限会社法を再編した「会社法」が今年5月に施行される。新制度に対応するべくITの実需が見込めるのが、会計システムの更新と、非上場企業にも広がる内部統制だ。さらに、新法を顧客に「気付き」を与える手段に活用できれば、一過性で終わらない商機もつかめるだろう。
「大手から零細まで、すべての企業において商機がある」。こう言えるほど、会社法が顧客に及ぼす影響範囲は広い。半世紀ぶりに会社法制を整備し直しただけに、制度変更が多岐にわたるからだ。
新制度の中でも、IT商談の実需が期待できる2本柱が、会計基準と内部統制である。会計基準の変更は「『会計ビッグバン』と呼ばれた2002年以来の大きな規模」(エス・エス・ジェイ)だ。特に、保守契約なしにパッケージを使っている中小・零細企業からは、新規購入などの特需が期待できる。
内部統制については、非上場企業の顧客にもソリューションを提案できる点が、金融庁が進める「日本版SOX法」(今国会提出の金融商品取引法案に盛り込まれる予定)にない特徴だ。一定規模以上の株式会社すべてに対応を求めているからだ。日本版SOX法を待たずに、今春から顧客にアプローチしなければ商談に出遅れる。
会計パッケージは中小に商機
会社法にかかわる会計基準の変更点は、貸借対照表(BS)の集計や、役員報酬などの扱いなど数多い。特にBSは、項目のくくり方などが変わるほか、新設される「純資産の部」に新たな計算書が導入される。
システムの改修作業はロジックの変更や帳票の追加などで済むものの、変更項目が多いだけに「意外に手間がかかり、開発の負荷は小さくはない」(ミロク情報サービス ビジネスソリューション企画担当の濱谷博通部長)という。
この商機に対応を急ぐのが、中小企業向け会計パッケージのベンダー。今春から遅くとも中間期決算が相次ぐ9月までの間に、各社は新基準対応版を投入する予定だ。商機になるのは、中小企業には「3~5年前の製品を使い続けている顧客が少なくない」(弥生プロダクトマーケティング担当の竹之内学執行役員)ためだ。そこで、(1)有償バージョンアップや最新版の購入、(2)常に最新版を提供する有償の保守サービスへの加入促進—が期待できる。
例えば弥生は、製品販売に加えて、保守サービスのプロモーションに力を入れる考え。登録顧客数55万件に対して、11万件にとどまる保守契約件数の引き上げを狙う。
リプレースの攻防に備えよ
大手・中堅企業についても、顧客の状況に応じたフォローは必須である。「独自開発した会計システムを運用するか、ERP(統合基幹業務システム)パッケージなどを大きくカスタマイズしている顧客が少なからずある」(NTTデータ コンサルティングビジネスユニットの岡野哲也部長)からだ。新基準に対応するための開発案件が見込める。
残る顧客の大半が、保守契約付きの会計/ERPパッケージを使う企業。大手・中堅企業の多くが該当する。中小企業と異なり、保守サービスの範囲で新基準に対応するので直接の商談機会は少ない。
ただし、他社の顧客に目を向ければ話は変わる。「今回のような新制度のタイミングで、会計システムを見直す顧客が多い」と大塚商会スマイルプロモーション部の石井ふみ子次長は指摘する。石井氏によると、現状の会計システムに不満を持つユーザー企業は2割程度。他社の顧客には現行システムの不満を解消する提案をする絶好の機会だし、自社の顧客に対するフォローを怠れば他社からのリプレース攻勢にさらされるのだ。
また、独自開発した会計システムを運用する顧客には、ERPパッケージなどで巻き取る提案ができる。その際には、今回の新基準に加えて、2007年にも「国際会計基準への対応」が控えることも押さえておこう。「会計の2007年問題」とも呼ばれており、上場企業は対応を迫られる公算が大きい。この方向性も踏まえた上で、顧客と会計システムのあり方を話す好機だ。