図:東証のシステム構成概念図
図:東証のシステム構成概念図
[画像のクリックで拡大表示]

(島田直貴/金融ビジネスアンドテクノロジー)

 テレビや新聞などのマスコミは,昨年11月以来,続発する東証のシステム・トラブルについて,その責任を追及する報道を続けている。そしてさまざまな人たちが,それぞれの立場で,東証の問題を指摘している。しかし,「どうすればよいのか」という根本的な解決策は出てこない。「あまりにも多くの問題が複雑に絡み合っており,即,解決するのは難しい。まずは時間が必要だ」というのが,金融分野やシステム分野における関係者・有識者の本音ではないだろうか。

 金融とITを専門分野としてきた筆者は,多くのマスコミ関係者から東証の問題について,コメントを求められてきた。ただ,筆者は東証のシステムの詳細を知らないため,コメントするのは基本的に避けてきた。

 ただ少なくとも言えるのは,一連の「東証システム問題」は,東証固有の問題から発生したわけではない,ということだ。

 いまさら誰が悪いと責任追及するのは建設的ではない。まずは問題を洗い出し,十分に分析するべきである。東証システム問題の周辺には,経営者やIT技術者が知るべきさまざまな教訓が横たわっている。東証の報道内容や,筆者が金融関係・システム関係の専門家と議論した内容をベースに,東証の問題を分析していきたい。

付け焼き刃的なシステム増強では対処できない

 「東証のシステム障害はまた発生するのか?」新聞やテレビを見ていると,しばしばこんな問題提起がなされている。

 情報システムについて少しでも知る人はみな,東証のようなシステム障害は「いつ発生してもおかしくない」と考えている。だいたい壊れない機械などない。複雑なソフトからあらゆる不具合をすべて取り除くのは非常に困難だということも知っている。せいぜい,機械の故障やソフトの不具合がシステム全体を停止させないように,考えられる手段を尽くすだけである。その手だてをするにも,コストや技術面の制約がある。技術者の立場からは当然,「再度発生する可能性はある」などとはとても言えない。せいぜい,「再発防止に全力を傾ける」と言うだけだろう。

 ただ東証は今後さまざまな条件が重なることで,トラブルの再発防止はより難しくなっていくだろう。

 昔の取引手法は単純で種類も少なかった。だからシステムは例外的な処理をこなす必要は少なかった。加えて,注文は会員証券会社が端末から手で入力していた。つまり端末の数以上の注文は発生しなかったわけだ。

 それがいまや300万人以上のネット投資家が,小口に分散しながら集中して発注してくる。コンピュータが株価の動向を見ながら自動的に売買する「プログラム売買」も一般的になった。証券会社は,互いに処理能力を競い,猛烈なスピードで注文を取引所に流し込んでいる。