【中級】電子メール・システム いま見直しのとき(後半) 運用を見据えてシステム構築分散したスプールを統合,アカウント管理を整備する図7●ユーザー・アカウント管理は3つのパターン
メール・ユーザーのIDやパスワードを管理する方法には,大きく3種類ある。(1)OSのユーザー・アカウントをメール・システムが利用すると管理コストが大きくなる。(2)ユーザー情報をメール・システム専用のDBで管理すると管理がラクになる。(3)LDAPを使えば,ユーザー情報を他システムからも利用できる [画像のクリックで拡大表示]
図8●企業によるメール・アドレス付けルールの例
企業はメール・アドレスの付け方で悩んでいる。同姓同名問題への対策は企業によってまちまちだ。数字やローマ字,サブドメインなどを氏名に付加することで対処している [画像のクリックで拡大表示]
写真1●トレンドマイクロのSPAM対策機能
トレンドマイクロのクライアント向けウイルス対策ソフトは,SPAMメール対策機能を持つ。(a)ウイルス対策と同様,SPAM対策用のパターン・ファイルを更新して利用する。(b)SPAMと判別したメールのタイトルに印を付けるといった運用も可能である [画像のクリックで拡大表示]
日々の運用コストを削減するためには,メール・システムを維持・運用していく仕組みと体制を整備しなければならない。 稼働を始めたメール・システムの主な維持コストは,ユーザー管理コストである。具体的には,ユーザーのアカウント情報をどう管理するか,ユーザーのメール・アドレスをどう割り振るか,ユーザー個別のメール設定をどう実施するか,などの運用項目を人手で実施していると,人件費がかさむ。これらの運用ルールを決めたうえで,システムに実装する必要がある。 LDAPを使うユーザーが増加認証IDとパスワードなどのアカウント情報を必要とするのは,スプール・サーバー上で動作するPOP3サーバーやIMAP4サーバーである。設定によっては,メール・サーバー自身が,送信メールを中継する際にユーザー認証を施す場合もある。 アカウント情報を管理する手段は,大きく3つある(図7[拡大表示])。従来の方法は,(1)OSのユーザー・アカウントをメール・システムが利用する方法である。OSのユーザー情報を管理する必要があるため,管理コストが大きくなる。 これに対し,メール・ソフトだけをOSのユーザーとして登録し,(2)個々のユーザー情報をメール・システム専用のDBで管理する方法がある*6。(1)の方法に比べれば,管理が容易になる。 さらに,他のシステムからも汎用的に使えるアカウント管理手段が,(3)LDAPなどの外部データベースの利用である。アカウント情報の管理をメール・システムから独立させることが可能だ。新日鉄ソリューションズやアイアイジェイテクノロジーなどのSIベンダー各社は「LDAPを使うのが一般的だ」と口を揃える。 例えば日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の社内ネットワーク・システムは,人事情報データベースを更新するとActive Directory*7へ自動的にアカウント情報が反映される仕組みを採っている。メール・システムのExchange Serverは,Active DirectoryのLDAPディレクトリ情報を用いてユーザー認証を実施する。NECソフトに至っては,メールに限らず,社内の情報系システム全般からLDAPを参照している。 アドレスは機械的に割り振るアカウント情報の管理システムを整備することは重要だが,メール・システムの運用で最も重要なのは,そもそもアカウントを発行する仕組みを整えることである。 「メール・アドレスの付け方には相当悩んだ。文献を調査して現状のルールに決めた」(大成建設 社長室情報企画部の松原利幸課長代理)と,企業の悩みは大きい。「メール・アドレスを決める際に人手が入ると,好みのメール・アドレスにしてほしいという要望が来る。対応し切れない」(NECソフト ITガバナンスグループの斉藤幸儀ITエキスパート)という声もある。 メール・アドレスの付け方は,企業によって様々だ(図8[拡大表示])。いずれの企業も氏名のローマ字表記をベースにしている点では共通している。企業によって差異が出るのは,同姓同名が存在した場合の対処方法である。日本HPの方法は,ユーザー名の末尾に数字やローマ字を付加するもので,一般的と言える。 NECソフトは,サブドメインを利用して同姓同名問題を回避している。サブドメインの利用により,名字だけの短いユーザー名を実現している。 寺岡精工は,同姓同名の人がすでにいた場合の2人目以降に社員番号を付加する。大成建設では,独自のルールを用い,メール・アドレスの分かりにくさよりもユーザー名を短くできることを優先している*8。 もちろん,こうした問題は企業の規模にもよる。社員数が約350人のジャノメクレディアの場合,「1年を通じて新規に入社する人は数十人程度。メール・アドレスを新規に割り振る際には個別対応できる」(情報本部データセンター情報計画課の松山政司課長)。 ユーザーに設定を任せるアカウント管理データベースを用意しただけでは,まだ足りない。ユーザーごとのメール転送設定やパスワード変更などの作業をユーザー自ら実施できる仕組みを用意する必要がある。 Sendmail Switchなどのメール・ソフト製品や米MiraPointのメール・サーバー・アプライアンス製品は,Webブラウザ経由でユーザーの管理ができる。例えば,パスワードの変更やメールの転送設定,受け取りたくないメールをフィルタする設定などだ。 オープンソースのメール・ソフトを使う場合は,管理ツールを自作する必要がある。OSのユーザー・アカウントを流用してアカウントを管理している場合は,Web連携アプリケーションの作成にも工夫が必要になる*9。
メール・システムのコア部分は“枯れた”技術だが,ここへ来て,ウイルス対策に続く新機軸がメール・システムに実装されようとしている。1つはSPAM対策機能,もう1つは情報漏えいを防止するコンテンツ・フィルタリング機能とアーカイブ機能である。 SPAM対策機能は,受信するメールが迷惑なSPAMメールかどうかを判別する機能。形態素解析の後に日本語の文法を考慮し,文字列が登場する頻度や文字列と文字列の距離などを「SPAMらしさ」の判別材料とする。 ウイルス対策大手のトレンドマイクロは,2004年にSPAM対策機能を持つメール・サーバーを市場に投入する予定だ。同社製のクライアントPC向けウイルス対策ソフトにはすでに,SPAM対策機能を実装済み(写真1[拡大表示])。 SPAM対策ではないが,ホライズン・デジタル・エンタープライズは,戻ってきたエラー・メールを処理するソフトを提供している。エンベローブFROMと呼ぶ部分を書き換えてメールを送信し,専用サーバーがエラー・メールを一括して受信し,エラーの種類を判別する。 情報漏えいを防止する時代にウイルス対策後の今後のトレンドは,送信メールを監視することによる情報漏えいの防止である(図9[拡大表示])。 コンテンツ・フィルタリングの主な適用場面は,社外秘の資料をメール送信者が誤って外へ転送してしまう事故を防ぐこと。例えば,「社外秘」と1行目に書かれたWord文書は中継しないというルールを設定しておけば,このWord文書を添付したメールが社外に出るのを機械的にブロックできる。 アーカイブの用途は,ビジネス履歴の保存義務という社会的な要請に応えること。送信メールを一定期間保存しておき,万一の際に検索・閲覧できるようにしておく。この前提として,暗号化メールは許可してはならない。「暗号化したらアーカイブの意味がない。顧客企業によっては,暗号化したメールはすべて中継を許可しないようにフィルタをかけている」(センドメールの小島国照社長)。 IIJは,ウイルス対策に加えてコンテンツ・フィルタとアーカイブの機能を備えるASPサービスを提供中だ。ユーザー企業の送信メールのフィルタリングとアーカイブを担当する。リコーが同サービスを利用している。 リコーがアーカイブするメールの量は多い*10。「自前でメール・システムのすべてを運用していた頃と比べれば,IIJにアウトソースしたことで運用コストは増えた。しかし,以前は取り組んでいなかったアーカイブを実現できることがアウトソースの決め手だった」(リコー IT/S本部IT/S技術センター技術2グループの太田篤宏氏)。 社内の情報システム部門と業務部門との間でSLA(サービス・レベル・アグリーメント)を取り交わす企業も多い。日本HPの場合,他社からのアウトソーシングを受託するプロフィット・センター「マネージドサービス統括本部」が,自社のメール・システムも管理する。 他社向けの事業であろうが自社向けの管理業務であろうが,メールの管理という仕事の内容は共通。「社内ユーザーからのアウトソーシングを受託していると位置付けて,SLAを交わしている」(インフラストラクチャーサービス本部ITオペレーション&アカウントマネージメント部の加藤武彦部長)。
出典:日経システム構築 2003年11月号
144ページより
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