![]() 若手部員 貴子さん |
デフォルト・ゲートウエイのIPアドレスを間違って登録したら,どうなるのかしら。それから,設定画面を見ると複数のアドレスが登録できそうなのよ。どうなっているのかな。 | ||
![]() 若手部員 宇田くん |
デフォルト・ゲートウエイって,LANの外部と通信するときに,パケットの転送を任せるルーターのことだろう。普通は正しいアドレスを1個しか登録しないけれど,試してみようか。 |
宇田:前回(第5回)のサブネット・マスクの実験は大変だったね。
貴子:IPアドレスやサブネット・マスクを2進数に直して考えたからだわ。でも,得体の知れない化け物みたいに思っていたコンピュータやネットワークも,中でやっていることは意外とシンプルだとわかって安心したわ。
宇田:そうだね。わからないことが起こったら,原理・原則に立ち戻って考えてみるといいんだ。
貴子:でも前回の実験で,一つ気になることがあったのよ。
宇田:なに?
貴子:デフォルト・ゲートウエイの設定よ。
宇田:デフォルト・ゲートウエイの設定を間違ったらどうなるかということかな。それなら,予想できるけど。
貴子:それもテストして確かめてみたいんだけれど,だいたい推測できるわ。それよりも気になったのは,デフォルト・ゲートウエイのIPアドレスを複数設定できそうなのよ。
宇田:それは試したことがないな。
貴子:じゃあ,やってみましょう。
これまで5回にわたって,IPアドレスやサブネット・マスク,デフォルト・ゲートウエイに関する実験をしてきた。これは,IP設定で最も基本的な設定項目である。今回は,これまでの復習もかねて,デフォルト・ゲートウエイの設定について,実験してみよう。
「デフォルト・ゲートウエイの設定を間違ったらどうなるか」という実験と,「Windowsに複数のデフォルト・ゲートウエイを設定したらどうなるか」という二つの実験である。
■パケットを転送するルーターのこと
貴子:デフォルト・ゲートウエイは,LANの外部にIPパケットを送るときに,中継を依頼するルーターのことだったよね(図1)。宇田:そう,あて先が自分と同じネットワークのときはデフォルト・ゲートウエイを使わずに,相手にパケットを直接送信するんだ。だけど,異なるネットワークの場合は,いったんデフォルト・ゲートウエイに送り,デフォルト・ゲートウエイが転送するんだよ。
貴子:このとき,送信元のパソコンは,あて先が自分と同じネットワークに所属しているかどうかを調べるために,サブネット・マスクの値を利用するのよね。
デフォルト・ゲートウエイは異なるネットワークにIPパケットを送るときに利用するルーターのことだった。詳しくは第3回の本連載「間違ったサブネット・マスク設定のパソコンがLANにいたら?」で紹介したが,おさらいをしておこう。 IPの基本的な設定はIPアドレスとサブネット・マスク,そしてデフォルト・ゲートウエイの3項目である。サブネット・マスクは,IPアドレスのネットワーク・アドレス*部とホスト部を識別するための値である。送信元のパソコンは,あて先が自身のネットワーク内に存在するか,すなわちLANで直接つながっているかを調べる。
これを調べるには,あて先のIPアドレスと自身のサブネット・マスクの論理積*を求める。そして,自身のIPアドレスとサブネット・マスクから同じように算出した自分自身のネッワーク・アドレスと比較して,同じ場合はあて先が同じネットワーク内にいると判断する。
一方,比較した値が異なった場合は,あて先が別のネットワークに存在すると判断して,外部ネットワークとの出入り口であるデフォルト・ゲートウエイ(ルーター)へ送信する。
■LAN内なら誤設定でも通信できる
宇田:まず,デフォルト・ゲートウエイのIPアドレスを一つだけ登録して,その値を間違ったものにして試してみよう(図2)。貴子:Windows98マシンを2台用意して,PC1のIPアドレスは192.168.1.101,PC2は192.168.1.102,ルーターは192.168.1.254にするわね。PC1のデフォルト・ゲートウエイの設定はワザと間違えておくのよね。
宇田:そうだよ。192.168.1.1にしよう。サブネット・マスクはどれも255.255.255.0にしておこう。こうしておけば,192.168.1.0がネットワーク・アドレスになり,このLAN内に所属するパソコンのIPアドレスは192.168.1.1~192.168.1.254になるよ。
貴子:まずは,PC1から同一ネッワーク内のPC2にping*を打ってみましょう。パケットのキャプチャ*もしておいてね。
宇田:了解。予想はつくけれど,やっておくよ。
貴子:じゃあ,テストを始めるわね。「ping 192.168.1.102」と(図2(1))。予想通り,「Reply from ・・・」とメッセージが表示されているわ。デフォルト・ゲートウエイの値が間違っていても,LANでパケットを直接やりとりするなら問題ないみたいね。
宇田:そうだね。LANでパケットを直接やりとりするならルーターは関係ないから,デフォルト・ゲートウエイのアドレス設定が間違っていても通信できるのさ。パケット・キャプチャの結果も確認しておこう。
貴子:pingパケットが送信される前にARP*パケットが出ているわ(図3)。
宇田:ARPはIPアドレスに対応するMACアドレス*を調べるためのプロトコルだったよね。最初のパケットで,PC1からLAN全体に届くブロードキャストの形でARP要求パケットが送信されているよ。そこにはPC2のアドレス(192.168.1.102)が書かれているね。
貴子:PC1とPC2は同一ネットワークだから,LANで直接送るためにPC1はPC2のMACアドレスを調べているんだわ。
宇田:そして,2番目のパケットでARPの応答がPC2からPC1へ返信され,3番目以降でpingパケットがやりとりされているわけだ。
■LAN外への通信は応答なし
貴子:次は,PC1から外部のインターネット上のサーバーにpingを打ってみましょう。宇田:わかった。ここでも,パケットをキャプチャしておくよ。
貴子:じゃあ,始めるわね。「ping 210.145.117.132」と(図2(2))。今度は,「Request timed out.」とメッセージが表示されるわ。やっぱり,うまく通信できないみたいよ。
宇田:予想通り,通信できないね。パケット・キャプチャの結果を見てみよう(図4)。
貴子:PC1からパケットが送信されているの?
宇田:送信されているみたいだぞ。どこあてに送信しているんだろう。
貴子:ARP要求パケットが4回もブロードキャストされているわ。でも,応答はないみたいね。
宇田:ネットワークの外部へパケットを送信するには,デフォルト・ゲートウエイに転送を任せることになる。だから,まずはデフォルト・ゲートウエイにパケットを送り届ける必要があるんだよ。そのために,デフォルト・ゲートウエイのMACアドレスを調べようと,PC1はARP要求パケットを出しているんだな。
貴子:だから,ARP要求パケットの中にはPC1にセットしたデフォルト・ゲートウエイのIPアドレス(192.168.1.1)が書かれているんだわ。キャプチャ結果を見れば一目瞭然よ。
宇田:そうだ。でも,LAN上には192.168.1.1を割り当てた機器はいないから,だれも応答していないんだ。
貴子:PC1は4回もARP要求パケットを送信したけれど,だれも応答してくれないから,デフォルト・ゲートウエイのMACアドレスはわからず,pingパケットを送信できなかったのね。
宇田:だから,pingコマンドの実行結果は,「Request timed out.」とタイムアウト・エラーが表示されたわけだ。
貴子:もし,デフォルト・ゲートウエイの設定が正しければ,ルーターからARP応答パケットが返ってきて,pingパケットはルーターに送られたはずよ。
宇田:そうだね。ここまでは,予想通りの結果だな。僕たちも,かなり知識が身についてきたかな。
ここまでの2人のやりとりを読んでみて,読者のみなさんは話について来られただろうか。この連載コラムを第1回から読み続けていただいた読者の方なら,大丈夫なはずだ。もし,引っかかるところがあったのなら,あとで以前の記事を読み返してほしい。
■複数のアドレスを登録してみる
貴子:次は,ゲートウエイのアドレスを複数登録してみましょう。宇田:デフォルト・ゲートウエイに正しい値を追加しよう。おっ,ゲートウエイの設定値が2個になったぞ(図5)。やっぱり,Windows98は*ゲートウエイのアドレスを複数登録できるんだ。
貴子:一つめ(上側)がさっきの間違ったIPアドレス,二つめ(下)が今入力した正しいIPアドレスね。この状態で,外部のインターネットのサーバーと通信できるかしら。
宇田:複数設定できるんだから,正しい設定の方も有効になって通信できるんじゃないかな。
貴子:でも,ゲートウエイの設定が複数あると,パソコンはどちらを使ったら良いか判断できなさそうだわ。
宇田:たぶん,一つめのゲートウエイがだめなら,自動的に二つめに切り替わるんじゃないかな。
みなさんの予想はどうだろうか。これは,かなり難しいだろう。では,実際に結果を見ていこう。
■複数登録してもダメ
貴子:じゃあ,さっきのテストと同じようにpingコマンドを実行してみるわ。「ping 210.145.117.132」と。今度も,「Request timed out.」とメッセージが表示されるわ(図6a)。うまく通信できないみたいね。宇田:パケットをキャプチャした結果も,前のテストと同じように,間違ったIPアドレス(192.168.1.1)が書き込まれたARP要求パケットがPC1から出ているだけだ(図6b)。
貴子:正しいIPアドレスを追加登録しても,間違ったアドレスが残っていると,そちらに送られてしまうのね。
宇田:これじゃ,ゲートウエイのアドレスを複数登録する意味がないなぁ。
2人が実験したゲートウエイの複数設定の機能は,デッドゲートウエイ・ディテクションと呼ぶしくみである。図5のような設定にした場合は,1番上に書かれているIPアドレスのルーターにパケットの転送を任せ,このルーターが故障すると別のルーターに切り替わるしくみである。ただ,デッドゲートウエイ・ディテクションは,今回のように最初から動いていないルーターを登録しておいたのでは,うまく切り替わらないことが多い*。
■基本は正しいアドレスを設定する
貴子:さっきのデフォルト・ゲートウエイの複数設定について,先輩に聞いたら,デッドゲートウエイ・ディテクションと呼ぶ機能があるそうよ。宇田:デッドゲートウエイ・ディテクション?
貴子:うん,そう。でも,自動切り替えには条件があるみたい。やっぱり,きちんと正しい値を1個だけ設定するのが,大切みたいね。
寄稿者:ネットワークエンジニア集団 みずおか組●水岡 祥二 NPOアイタック代表理事●出口 雄一 株式会社タケキ IT教育事業部 ●久保 幸夫 情報・通信エンジニア |