ストレージの記録密度が急ピッチで上昇し続け,一方ではネットワークとストレージの融合が進み,ストレージ分野が大きく様変わりしている。今や,5年前の知識が通用するとは限らない。本講座は,今後のストレージ環境を読み解くための基礎知識や最新のスペックを紹介していく。1度基礎を学んだ方にも読んでもらいたい。

 ストレージは,急速に技術革新が進み,市場規模を拡大している。例えば,ハードディスク(以下,ディスク)の1Gバイト当たりの単価が最近5年間で10分の1~20分の1にまで下がっている。

 こうした技術革新は,情報システムにも大きな影響を与えている。バックアップを取得する際,従来ならテープに直接記録するところだが,安価になったディスクをバックアップ用ストレージとして利用する企業が増えている。バックアップ用のディスクに短時間でバックアップを保存してから,その内容を後でテープに書き出す方式だ(いわゆる「Disk to Disk to Tape(D2D2T)」方式)。場合によっては,差分/増分バックアップといった日次のバックアップをディスクだけで済ませて,テープに書き出さないことすらある。

データ増加率は30~70%

 企業におけるデータの取扱量も飛躍的に拡大している。あらゆる場面でシステム化が進み,Webシステムを中心に画像データを扱う場面も増えた。企業に蓄積されるデータは増大の一途をたどっている。実際に現場でヒアリングすると,データの年間増加率は30~70%との回答を得ることが多い。

 この動きを支えているのは,各種ストレージの記録密度の驚異的な伸びである(図1[拡大表示])。結果として,現在ではギガ(G)やテラ(T)の単位が当たり前に使われている。今や,タワー型のデスクトップPCに,1Tバイト以上のディスクを搭載することも容易だ。

 さらに,個人情報保護法*1e-文書法*2といった法令により,一層厳しい条件が突きつけられている。特に求められているのは,データの完全性やストレージの可用性である。データの改ざんを許さない機能やストレージ自体の障害発生率の低さ,障害発生後の復旧の迅速さがこれまで以上に重要になる。また,膨大な蓄積データの中から「必要なときに必要な情報を迅速に提供できる仕組み」を作る必要がある。

特性を知らないと適切な製品選択ができない

 複雑化する要件に対して,ストレージの種類や組み合わせ方は多様化している(図2[拡大表示])。サーバーに直接つなぐ従来型のストレージだけでなく,SAN(Storage Area Network)*3やNAS(Network Attached Storage)などネットワーク型ストレージの浸透が大きく影響している。

 予算が無制限にあれば,肥大化するデータをすべて高速・高信頼なストレージに格納すればよい。しかし,実際にはコストの制約があり,信頼性,性能とのバランスを最適化することが課題になっている。そのためには,各種ストレージの特性やスペックを正しく読み取れることが重要だ。

 このような課題に対して,最低限押さえておきたいストレージの基礎を紹介するのが本講座の狙いである。ストレージの基礎を1度学んだ方でも,最新の技術や仕様を再度チェックしてもらいたい。第1回では,代表的なストレージや関連技術の基礎知識,動向などを解説する。

◆ハードディスク

 ハードディスク・ドライブ(HDD)は最も身近に利用されているストレージである。データの入出力速度と信頼性を追求したものから,低コストで大容量なものまで種類が様々で,用途に応じて使い分けられるようになってきた。

 HDDの基本構造でまず押さえておきたいのは,「記録媒体(メディア)」と「ドライブ」の概念である。ストレージ全般に共通するが,メディアとドライブがそろって,初めてストレージとなる。

 HDDのメディアは,磁性体を塗布した何枚かのアルミ合金やガラスの円盤(ディスク)を一定の間隔で重ね合わせたものである。これらの円盤を一定のスピードで回転させ,磁気ヘッドを近づけて円盤上のデータを読み書きするのがドライブだ。HDDではメディアがドライブの中に密封されているが,テープのようにメディアだけを取り出せるリムーバブル型のストレージもある。

 現在,磁気ヘッドと円盤の間にある距離は10万分の1mm以下しかない。そのため,取り扱いにはデリケートさが必要になる。円盤の回転数は,低発熱や静音性に重点を置く低速回転(4500~5400回転/分)のものから,高速処理を重視した高速回転(7200~1万5000回転/分)のものまで様々だ。

 最近は,サーバーや外付けの大型ストレージのディスクにも,デスクトップPCで利用されている低価格・大容量タイプの「ATA(AT Attachment)ディスク」を搭載するようになった。このATAディスクは,バックアップ・データをテープではなく,ディスクに保存する場合に利用されることが多く,こうしたユーザーの動きを加速させる要因の1つである。さらに,ワープロ文書やスプレッドシートのような非構造化データのアーカイブ(長期保存)用途でも利用されている。

50年で1億倍の記録密度の伸び

 最初のディスク装置が販売されたのは,およそ50年前である。当時の装置の記録密度と比べると,現在の記録密度は実に1億倍近くもある。

 現行製品の記録密度は,1平方インチ当たりおよそ100Gビットである。数年前は同10Gビットが記録密度の限界で,その壁を越えるのにどのようなテクノロジが必要なのか盛んに議論されていたが,それが全く嘘のようである。このような大容量は,マイクロ(μ),ナノ(n)といった微小単位の磁性体技術で支えられている。

 記録密度ほどではないが,データ転送速度の伸びも大きい。昔のHDDの転送速度が不明のため,転送速度と密接な関係にあるインタフェースの速度から,データ転送速度の伸びを推測してみる。1980年初頭のSCSIのバス帯域幅は5Mバイト/秒。2003年にはUltra320規格となり,バス帯域幅は320Mバイト/秒となっている。約20年間で64倍に伸びた計算だ。この伸びからハードディスクのデータ転送速度は,20年間で2桁程度伸びたと推測できる。

 ところで,ストレージの容量を表示する方法には2つの系統があるので注意が必要である。一つは十進法を基準にした表示であり,もう一つが二進法を基準にした表示である。同じ「キロ」という単位でも,前者では10の3乗換算(=1000)で表示され,後者では2の10乗換算(=1024)で表示される(表1[拡大表示])。困ったことに,これら2系統の表示は混在して使われている。そのため,十進数ベースで表示されることの多いストレージ製品を,二進数ベースで表示するOSから見ると,容量が少なく見える現象が起こる(図3[拡大表示])。こうした違いは,ストレージを選択する際やストレージを管理する際に重要となる。


吉岡 雄
日本ストレージ・テクノロジー マーケティング本部 シニアスペシャリスト