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ライト、ついてますか ―問題発見の人間学― Donald C. Gause, Gerald M. Weinberg 著 木村 泉 訳 共立出版 発行 1987年10月 161ページ 2100円(税込) |
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コンサルタントの秘密 ―技術アドバイスの人間学 Gerald M. Weinberg 著 木村 泉 訳 共立出版 発行 1990年12月 254ページ 2940円(税込) |
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コンサルタントの 道具箱 勇気と自信がもてる16の秘密 Gerald M. Weinberg 著 伊豆原 弓 訳 日経BP社 発行 2003年7月,264ページ 2310円(税込) |
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ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ Robert L. Glass 著 山浦 恒央 訳 日経BP社 発行 2004年4月 309ページ 2310円(税込) |
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熊とワルツを リスクを愉しむプロジェクト管理 Tom DeMarco,Timothy Lister 著 伊豆原 弓 訳 日経BP社 発行 2003年12月 238ページ 2310円(税込) |
問題を発見する力を養おう
良い分析/設計をするためには,技術的な知識に加えて広い視野とバランス感覚が必要になります。年をとるにしたがって,むしろそちらの方が重要になるとまで言えるでしょう。以下ではそうした目的で読むべき本を紹介します。
まずは,思考プロセスを鍛えてみるのはいかがでしょうか。このあたりの本は,本屋に行くとびっくりするぐらいたくさん出版されています。「ロジカル・シンキング」や「システム・シンキング」をキーワードにインターネットで検索してみるのもよいでしょう。ソフトウエアに携わっている方であれば,Gerald. M. Weinbergの著作をお薦めします。なかでも,「ライト、ついてますか」「コンサルタントの秘密」「コンサルタントの道具箱」の3冊は特にお薦めです。どの本もエピソードが多く,読んでいる最中に多くのことを考えさせられますが,読了感がとても心地よいです。
ソフトウエア分析/設計は,現実に存在する問題に対して解決索(Solution)を考える作業です。解決策を考えるには,問題がなくては始まりません。極端な言い方をすれば,問題さえはっきりすれば,8割くらいは解決策が見つかったのも同じだと私は思っています。「ライト、ついてますか」では,問題とは何かをテーマに取り上げ,深く解説しています。学校の教育では,まず問題ありきだったのが,自分自身で問題を設定しなくてはならないという,難しさと楽しさの両面を学べることでしょう。
「コンサルタントの秘密」では,誰でもがコンサルタントになれるという夢を与えてくれる一冊です。コンサルタントの視点とは何かということも取り上げています。この2冊は10年以上も前の本であるにもかかわらず,装丁以外に古臭さをまったく感じさせません。つくづく,本質的なことは変わらないということを実感させてくれることでしょう。
「コンサルタントの道具箱」は,満を持して出版された感のある「コンサルタントの秘密」の続編に当たります。「イチゴジャムの法則」など,筆者独特のユーモアあふれる表現はあいかわらず。ユーモアがわからない人には読んでほしくない,と思えるほど私としてはお気に入りの一冊です。
問題を発見するためには,常に問題意識を持って行動することが大切です。問題意識のないところに問題は発生しません。そこでお薦めしたいのが「ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ」です。ソフトウエアの開発にまつわる格言は,いくつもあります。それらを真実として受け止めている方もいらっしゃるかもしれませんが,もしかしたらそれはウソかもしれません。当時は,真実だったかもしれませんが,今はウソとなっているものも中にはあります。これらの真実やウソについて,その背景や反対意見を示しているのがこの本です。
問題を発見できるようになることは大事ですが,そもそも最初から問題が発生しないようにするべきです。将来発生するかもしれない問題のことを一般に「リスク」といいます。このリスクとの付き合い方を述べたのが「熊とワルツを」です。著者のDeMarcoは「リスクがないプロジェクトを行うのは,そもそもそのプロジェクト自体の価値が低い」とまで言い切り,リスクから逃げるのではなく,立ち向かうよう主張しています。心構えから,実際にどのように対処していけばよいかという実践的なことまで書かれていて,現場ですぐに役立つ良書です。
ところで,これまで紹介してきた書籍のほとんどが,海外の書籍の邦訳であることに気づかれたでしょうか。ソフトウエア開発,特に分析/設計については,まだまだ日本は遅れているのが現実です。邦訳が出版されるのを待ってから読んでいては,なかなかその差は縮まらないでしょう。
とはいえ,原著を読むには英語の文法や単語を理解していることはもちろん,文化まで理解していないと,何が書かれているのかがわからないことがあります。こうした文化的な壁を乗り越えるには,不思議の国のアリスやマザーグースを読んでみるのがお勧めです。ちょっと意外に思われるかもしれませんが,啓蒙書やアジャイルの本はなぜかアリスやマザーグースの一節を引用することが多いのです。技術書や啓蒙書ばかり目を通してないで,たまにはこうした本も読んでみてください。