みなさん,こんにちは。コンサルタントの金子でございます。本号は,コンサルティング作業を効率よく行うためのテクニックをご説明したいと思います。「スピード感を共有する」という題からすると,F1レーシングとか,ジェットコースター,ブランコなどを想像する読者もいらっしゃるでしょう。コンサルティング作業は,コンサルタントの思考スピードとクライアントの思考スピードがマッチしていないとトンチンカンなことになるのです。もちろん,コンサルタントが複数いて,コンサルティング・チームを編成している場合でも,チーム内のスピード感共有は,大事な問題です。では,つぶさに見ていきましょう。

社長:今度のCRM(カスタマ・リレーションシップ管理)システム開発に,全社をあげて取り組むことにしました。どんなCRMシステムを開発すべきかのミーティングには,部長を筆頭に,営業担当者全員を参加させることにしました。それでいいですよね。

コンサルタント:いえ,開発方針を決定するミーティングには,最も優れた営業担当者2~3人を招集してください。その方々と私で原案を作成し,残りの方は,原案の実行可能性を検討してほしいと思います。

社長:えっ! そんな少人数で大丈夫ですか?

コンサルタント:はい。極論すれば,担当者一人が一番良いのです。私とマンツーマンでするのが理想ですね。

社長:そういうものですか…。

 なんだか社長さんは,納得できない様子ですね。このあたりの誤解を解くのが,今回の話題です。

情報交換スピードには差がある

 私たちは毎日,なにげなく情報交換をしています。そこでは,「A店の焼き鳥は抜群!」とか,「B店のお茶漬けはマズイ」とか,問題点・解決策・課題などがゴチャ混ぜに話されます。日常生活では,問題が深刻ではなく,雑談する時間も結構あるので,情報交換スピードの差がさほど目立ちません。でも,下の会話を見てください。

Aさん:あの店の焼き鳥,たまにマズイ時があったよ。

Bさん:えー,いつのこと?

Aさん:1週間ほど前かなぁ。

Bさん:何を注文したの?

Aさん:なんだったっけ。えーと。ハツかな?

Bさん:ハツがどうなってたの?

Aさん:焼きすぎてたのよ。

Bさん:どのくらい? 真っ黒?

Aさん:少し黒かったかな?

Bさん:黒いところがマズかったの?

 この会話では,Aさんが押され気味で,情報交換がスムーズに進んでいませんね。日常生活ならこんな会話も楽しいのですが,仕事となるとそうも行きません。各担当者の情報交換スピードの差が,問題解決の障害になるからです。

あなたは野球型人間? サッカー型人間?

 情報交換のスピードには適性があります。ある人はスピードが速く,展開が速い議論についていけますが,スピードの遅い人は情報の追加や変更に振り切られて,チンプンカンプンになったりもします。この適性を,サッカーと野球の例をあげて考えてみましょう。

 野球は,ピッチャーがボールを投げてバッターが打ちます。その間,守備陣の陣形はほぼ固定されている形式で試合が進みます。守備陣も攻撃陣も基本的に,ピッチャーが投げたボールの行方に集中すればよいのであり,処理すべき情報の源泉がボール周辺に集まっているスポーツだと言えます。加えて,バッターがアウトになって,次のバッターが打席に立つまでの時間は,自動的に休憩時間になり,ゆったりとした感じになります。さらにピッチャーの投球ごとに,監督がバッターに対して,バントをしろとか,打つな待てとかのサインを出す時間的な余裕もあります。

 これに対し,サッカーは,ボールをパスしながら敵のゴールを目指すため,ボールの位置,パスを受ける人の位置,それを阻止しようとする敵の位置が重要になります。ボールの位置,敵・味方のプレーヤの位置は,刻々と変化し,処理すべき情報の源泉は,ボール周辺以外の広い範囲に展開しているのです。ボールがサイドラインを割って,スローインするまでの間も,各選手は最適なポジンションを得るために動き続けており,気を抜く暇がないように感じられます。監督がある瞬間において,「B選手ではなく,A選手にパスを出せ!」といった具体的な指図を出すことはほとんど不可能です。プレーヤが各自の判断でパスを誰に出すのかを決めるしかありません。各選手は,状況を判断し,最適な配置をするように,常に求められています。

 では,野球とサッカーで,求められる適性にはどんな差があるのでしょうか? 野球では,与えられた状況に関する情報を蓄積し,ボール近辺の情報に集中して,打つ・取る・投げる・走る能力が必要であり,サッカーはボールを中心とした周辺の選手配置の適切さ(攻めやすさ・守りやすさ)をリアルタイムに判断して,走る・受ける・蹴る能力が必要です。コンピュータの用語に例えば,野球=バッチ処理,サッカー=リアルタイム処理,と言えるでしょう。あなたは,じっくり考える野球型人間,それも素早い状況変化を得意とするサッカー型人間?

コンサルタントに求められるサッカー型思考

 バッチ処理が中心の野球では,役割分担は明瞭です。バッターは攻撃であり,ピッチャー,キャッチャー,野手は,守備です。守備の中でも,ピッチャー,キャッチャー,野手は大きく役割が違います。各選手は自分に与えられた役割を確実に遂行することが求められます。

 これに対し,リアルタイム処理が中心のサッカーでは,役割分担は不明瞭になります。一応は,バック,ミッドフィールダー,フォワードと役割が分かれていますが,ミッドフィールダーがシュートを打つ場合もあります。ボールが中央付近にある場合,両軍は攻撃陣とも守備陣とも言える陣形になります。各選手は,自軍の陣形の弱い部分を補い,強い部分をさらに有利にするポジショニングを常に考え,指示がなくてもほかの味方選手と協調(ハーモニー)する行動が求められます。

 コンサルタントに求められる情報処理能力は,まさにこのサッカー選手に必要なものなのです。コンサルタントは,目的・手段・役割が不明瞭な状況の中で,クライアント(依頼者)から発せられる情報をリアルタイムに受け止め,クライアントに足りない部分を見抜き,阿吽(あうん)の呼吸で,意見を述べなければなりません。サッカー型思考の方が,コンサルタンティングの現場には適合するのです。

 また,コンサルタントが複数で編成されている場合,それぞれの役割は,杓子定規には決めません。各自の役割を,わざと重複させ,各自が重複した部分について意見を持ち,ぶつけ合います。コンサルタントAさんの誤りや思考の漏れをコンサルタントBさんが阿吽の呼吸で埋めます。逆に,Bさんの誤りをAさんが埋める時も,もちろんあります。

 こうした臨機応変のプレーが出来る人は,クライアントの中にも決して多くはありません。コンサルタントは,話し相手にするクライアントの担当者を絞り込まざるを得ないことを,体験上知っています。そこで,冒頭の社長さんとの会話のようになってしまうのです。

情報伝達時間を極小化する

 あるシステムの開発方針や情報戦略を考えようとする場合,前提となる条件や選択する手段の組み合わせ数は膨大になります。コンサルタントとクライアントの担当者が複数で話し合う際には,「この場合はどうなるのだろう」「あの条件を緩めたら?」と,刻々変化する条件設定に対し,的確についていけなければ話し合いが成立しません。情報交換スピードが遅い野球型思考の方は,残念ですが,疎外感や混乱を感じるだけであり,議論が過ぎ行くのを,ただ見守るだけの存在になってしまいます。

 素人がサッカーをしているところを思い浮かべてください。ボールのまわりに皆が集まって,陣形ができないシーンが多くなりますね。ボールのまわりは,情報の見通しが単純化できるため,先読みしなければならない時間の幅が少なくて済みます。素人は,ゲームの流れやボールの行き先を予測できないので,自分の情報処理能力と,現在ボールを持っている人のパス能力の限界にしたがって,ボールと自分との距離を自然に短くしてしまうのです。ボールから遠くはなれた場所にいたら,ゲームに参加していない疎外感を味わうだけになります。

 リアルタイム処理が不得意な方が,コンサルティングの現場に向かない問題の本質は,情報伝達や確認自体は価値を生まず,時間をムダにしているという点にあります。例えば,目の前にボールがあります。隣にいる人に,「ボールがあるねぇ」と言うこと自体に価値はありません。ボールが目の前にあることは見ればわかることであり,その場に居合わせている人々の共通認識になっているはずです。それを再度確認するような情報伝達は,時間のロスであり,ムダと言えます。

 同様に,議論している条件や仮定を何度も確認したり,伝達したりすることも,ムダな時間に該当します(もちろん,共通認識に至っていない点を確認することはムダではありません)。コンサルタントは,そのムダな時間に敏感に反応し,単なる情報伝達や確認を嫌います。そのため,情報伝達のスピードを共有できる担当者だけでミーティングを進めて,原案が完成し,解決策の骨格がしっかりした時点で,全員に説明する方策を本能的に選択してしまうのです。

 解決策がある程度固まったら,全員でレビューすることで盲点がないことを確かめます。このときには解決策の全体が提示されており,バッチ型思考の方でも混乱なく,じっくりレビューに取り組んでもらえるので,解決策の検討が進みます。


 海の中って,本当にきれいなんです。この世のものとは思えない美しさ。海底から見上げると,海面が太陽光を反射してキラキラと宝石のように輝き,泳いでいる魚たちの背景にぴったりマッチ。でも,海の中の美しさは,少し割り引いて考えなければなりません。それは,すべてのものが実物よりも大きく見えるからです。小さな魚はそれなりに,大きな魚はより大きく見えるんです。そうです。ダイバーはだまされているんです。とはいえ,「だまされてはいかん! 実物はそんなんじゃない!」なんて肩ひじを張って,潜っていてもチットモ良いことはありません。お化粧をしたきれいな女性に,だまされるのも男冥利に尽きるというものではありませんか? えっ,「オレはお前とは違うよ」ですって。失礼しましたぁ~。