みなさん,こんにちは。コンサルタントの金子でございます。本号では,コンサルティング作業を開始した後で,すぐに問われるソリューション(解決策)にまつわる話を進めたいと思います。「ねえねえ,○○さんは,謎の人物からマル秘ノウハウを聞いて,大儲けしたんですって」なんていうオイシイ話は,怪しいですよね。そうなんです。きれいなバラにはトゲがある。信じる者はだまされる。解決策は自分で考えて,深く納得したうえで実行しましょう。という,とてもシンプルな話です。でも,皆さん,これをしないんですよねー。意外と。

 ことわざに「生兵法は大けがのもと」というのがあります。その意味するところは,「身についていない,生半可な知識や技術に頼って事を行うと,かえって大失敗をすることのたとえ」(大辞林)です。例えば,私はコンピュータのプロだとばかりに,ボーナスをはたいて新製品を買ってみたものの,期待した性能や機能が発揮されず,そのままお蔵入りになる,とか,パソコンなんて簡単さとカバーを外して改造していたら,マザーボードを壊したらしく起動すらできなくなったとか,まあ,さまざまな失敗が思いつくでしょう。

 かくいう私も,自分のパソコンではトホホな事件が多く,他人を笑える資格はありません。しかし,仕事での失敗は,笑っては済まされません。「生兵法は,自分の趣味の範囲で」がルールです。でも,どうしてトホホな事件は,後をたたないのでしょうか? 今回は,このあたりに焦点を置いて考えます。

あせりは禁物

 俺はトホホになんかはならないぜー,という読者の方もいらっしゃると思います。でも,人間には,スキができるときがあるのです。例えば,(1)自分が不利な立場にいて,一刻も早くそこから脱出したく,わらをもすがる思いになっているとき,(2)思わぬところから,とても有利な話が出てきて,有頂天になっているとき,(3)重大な案件が終わり,ホッとしているとき,などです。こんなときは,誰しも正しい判断ができにくくなっている状況であり,雨の日夕方5時の交差点のように,事故が起こる確率が高くなっているのです。

社長:コストダウンを図ろうと思って,プログラム開発に外注を使ったんですけど,逆にコストアップになってしまいました。どうしたら,いいんでしょう?

コンサルタント:なるほど,それは困りましたね。でも,そもそも,どうして外注を使おうと思ったんですか?

社長:プログラマ1人月当たりの社内単価は,経理部によりますと,60万円ぐらいです。これは,給与・賞与・家賃などの社内費用の合計を人数で割ったものです。これに対し,地方の外注プログラマの単価は,40万円強程度です。最近忙しいこともあり,この価格差に目をつけて,どんどん仕事を外注に出していたのですが…。

コンサルタント:それは,いけませんね。外注を頼む場合には,「外注を使用するのに必要となる社内コスト」を費用の計算に入れなければなりません。例えば,外注に仕事を依頼する,外注の仕事をテスト・検収する,外注を指導する,外注のバグを修復するなど,外注を管理するために社内の人は,相当の時間を費やしているはずです。そのコストを,地方の外注プログラマの単価である40万円強に加算して,はじめて真の外注コストが算出されます。おそらく,真の外注コストは,1人月あたり70万円程度になっているのではないでしょうか。

 この例は,社長さんが,外注の単価の安さに目がくらみ,また日常の忙しさもあって,ついつい失敗してしまったケースです。何事においてもあせりは禁物。急がば回れ,というではありませんか。仕事では特に,自分の心理の落とし穴にはまらないように,くれぐれも注意が必要です。

他社の事例を安易に取り入れない

 上記の事例においては,外注を安易に使って赤字になってしまったことが主な失敗点のように見えます。しかし,もう少し深いレベルに焦点を当てると,事の本質が見えてきます。

 今回の問題に対する社長さんのアプローチは,

(1)問題点:コストが高い。
(2)解決策:コストが安い外注を使おう。

と2段階になっています。しかし,正しいアプローチは,

(1)問題点:コストが高い。
(2)原因究明:なぜコストが高いのか? 原因は,○○だ,××だ,△△だ…。
(3)解決策:A,B,Cの中で,最も良いBを選択し,実施する。

の3段階です。

 「そんなことはないよ。原因も解決策も自分で考えてるよ」という方もいらっしゃるでしょう。しかし,コンサルタントから見るとたいていの場合,原因究明が徹底しておらず,しかも解決策のほとんどは,雑誌・新聞・友人・知人などから仕入れた他社の成功事例から引用されたもの,となっています。その結果,クライアント(依頼者)が置かれた状況とマッチしていないケースを,解決策として適用してしまっていることがあまりにも多いのです。

 例えば,さきほどの社長さんの会社の場合,コストが高い原因を調査してみると,次の事が判明しました。

(1)開発手順が要員によってマチマチであり,属人性が高い。標準化が進んでいないのでノウハウが蓄積できず,生産性にバラツキが大きい。

(2)特に,社歴1~3年の社員とベテラン社員とのスキル差が大きい。ベテラン社員は,開発中のプロジェクトに追われて,社歴1~3年の社員へのOJT(On the Job Training)が十分にできていない。

(3)過去に開発したソフトウエア部品が整理されていないため,ソフトウエアの再利用がほとんどされていない。もしくは,社内の特定の者同士でのみ時々されている程度である。

(4)共通関数・共通ルーチンの作り方が下手であり,似たようなプログラムをたくさん作ってしまう傾向がある。仕様変更のたびに大量のプログラム修正を余儀なくされ,テスト工数が増大し,バグも簡単には収束しない。

 このような状況下で外注を使うと,開発コストは上昇し,逆効果になってしまいます。なぜならば,

(1)外注に対して順守すべき標準手順を提示できないので,外注任せになり,結果的に開発手順がもう一つ増える。

(2)開発手順が異なるため,管理が困難になり,指導もできない。

(3)プログラムのコーディング手法が異なるため,修正や保守にかかる工数が増大する。

(4)スキルが低い社歴1~3年の社員では,外注になめられてしまい,外注を取り仕切ることができない。

といった現実が待っているからです。

問題点は収集するが解決策は収集しない

 コンサルタントの知恵の一つに,「問題点は収集してよいが,解決策は収集しない」というのがあります。雑誌などに書いてある問題事例や失敗は,収集・整理した方がよいものです。なぜならば,ある国のある時点の問題点は,時代背景を反映した類似したものが多いからです。そうした事例を押さえておけば困難に直面したときに,「ああ,あれね」と余裕も出来るし,理解も深く正確になります。

 逆に,解決策は収集しない方がよいものです。なぜならば,ほとんどの人は,解決策の類例を知っているとそれに頼ってしまい,考えなくなるからです。「問題点→解決策」といった1対1のペアを作り上げたい傾向が顕著にある人は要注意であり,特にノウハウと名の付くものをやたら収集したがるクセのある方は,トホホになる確率が高いです。

 それでなくても我々は,学生時代に受験勉強をし,マークシート方式に慣らされ,正解がない問題はないと思い,また複数の正解がある問題には困惑する傾向が大きいものです。しかし,現実の社会では問題はつねに変化しており,問題自体を定義できないまま過ぎ去ってしまっているケースがほとんどです。現実の問題に対処するためには,学生時代とは異なるアプローチをしなければなりません。

面倒でも自分で考える

 コンサルタントはクライアント(依頼者)に対して,面倒であっても考えるようにと仕向けます。もちろん,ヒントはたくさん言いますが,結論は言いません。これに対して読者の中には,「コンサルティングの仕事はクライアントに解決策を提示することでしょ? いじわるしないで,ベスト・ソリューション(最適な解決策)最初から言うべきなのでは? ひょっとすると楽をしようとしているの?」といった辛口のご指摘をする方もあろうかと思います。

 それに対する答えは,非常に簡単です。「人間は自分で決めたことにのみ,強く動機付けられ,その方向に努力し,他人が結論づけたことには反発する傾向があるから」です。コンサルタントは,解決策を提示することはできても,自分で実行することはできません。解決策の実行者は,常にクライアント自身なのです。

 解決策は,実行されて初めて意味をなすものであり,全力を集中して事に当たらねばなりません。全力を出し切るためには,その解決策にほれ込み,「これを実行すれば,自分にとってより良い未来が待っている。絶対に間違いない!」との確信に満ちた心理ステージにあがっていないとダメなんです。「まぁ,コンサルタント先生がそういうんなら,やってみようか」といった程度では,結果は失敗に決まっています。

 その意味でコンサルタントの仕事は,「解決策を一生懸命やってもらうために,クライアントが自ら問題を考え,自らのオリジナルな結論に到達させるように仕向けること」と言っても過言ではありません。「えーい,ようわからん。とりあえず,この解決策にしとこ」とクライアントに言われては,コンサルタントの負けです。この「とりあえず」は,コンサルタントにとっては,最大の禁句であり,悪魔のささやきなんです。クライアントが「とりあえず」と言うことは,「私は最適解が見い出せません」と言われたのと同じであり,事実上の敗北宣言なのです。


 スクーバ・ダイビングを始める人に必要な心構えは,なんといっても「Don't be panic!」。パニックにならないことです。海の中にいると,タンクの空気が切れるんじゃないかしらとか,サメが来るんじゃないかしら,などさまざまな心配が頭をもたげます。潜っている間は,水中メガネをしています。水中メガネをしていると鼻から呼吸をすることができません。口からしか呼吸してはいけないのです。初心者は,これを忘れて,よく鼻から空気を吸おうとしてしまいます。そうすると,水中メガネの鼻の部分に溜まっている海水が鼻にガツーンと刺さります! 思わず水中メガネを外して鼻をかみたくなる衝動に駆られますが,Don't be panic! 何事も冷静に対処したいですね。