イーサネットを複数のパソコンで使えるように,配線を分岐させるときに使う「箱」の名前をご存じですか。日経NETWORKでは,このネットワーク機器を「LANスイッチ」と呼びますが,「スイッチング・ハブ(switching hub)」とか,「イーサネット・スイッチ(Ethernet switch)」などとも呼ばれています。

 ところで,なぜ「スイッチ」か不思議に思ったことはないでしょうか。日常生活でスイッチというと,部屋の照明やテレビなどをオン・オフするボタンを想像するでしょう。しかし,LANスイッチが何かをオン・オフしているようには見えません。

 「10Mと100Mを自動的に切り替えている」ですって? なるほど。たしかに,そういう機能を持つ機器がほとんどですが,残念ながら「スイッチ」の由来はそれではありません。

元の意味は鉄道のポイント

 「switch」を英和辞書で調べてみると,電源をオン・オフするスイッチ(開閉器)以外に,電話交換機や鉄道のポイント(転轍機)という意味があるのがわかります。実はLANスイッチの「スイッチ」は,電源のスイッチではなく,交換機やポイントと同じ意味で使われています。

 LANスイッチに外見が似たネットワーク機器に「リピータ・ハブ」があります。リピータ・ハブはリピータ(中継器)という名の通り,ポートに入力された電気信号を電気的に増幅して,ほかのすべてのポートに出力(中継)します。1台のリピータ・ハブに接続した複数のパソコンは,電気的には1本の通信路を共有している状態になります。どれか1台が通信を始めると,通信路がふさがるので,ほかのパソコンは通信できません。

 これに対して,LANスイッチは一つひとつのポートが独立しています。あるポートが受信した信号は,LANスイッチが行き先を判断して,目的のパソコンが接続されたポートに出力します。つまり,接続されたパソコン同士が1対1で通信できるように,装置の内部でLANのパケットが流れる通信路を切り替えているのです。

 交換機やポイントは,電話回線や鉄道の線路を切り替えます。これと同じようにLANスイッチは装置内でLANのパケットが通る通信路を切り替えているのです。

「ハードウエア処理で高速」という意味が強い

 LANスイッチ内部の処理は,電気的に行われています。具体的には,LANのパケット一つひとつに書かれているあて先のコンピュータを示す情報を読みとって,該当するコンピュータがつながっているポートにデータを送り出します。高速に処理する必要があるため,LANスイッチはスイッチング処理を行う専用のIC(集積回路)を使っています。

 そのせいもあり,最近は「スイッチ」の意味が少し変わってきました。これまでの「パケットの通信路を切り替える」に,「ハード処理で高速転送をする」という意味が加わったのです。

 その象徴が「レイヤー3(L3)スイッチ」という機器です。これはパケットに含まれるIPのアドレス情報まで読みとって,送り出すポートを切り替える装置です。この装置の用途は「ローカル・ルーター」と呼ばれる装置とほとんど同じで,実際,多くの企業で古いローカル・ルーターがL3スイッチに置き換えられています。

 つまり機能的にはほとんど同じ装置が,片方はスイッチ,もう一方はルーターと呼ばれているのです。ルーターは伝統的にパケットの転送処理をソフトウエアで行う装置です。一方のL3スイッチは専用のICを使います。ルーターとL3スイッチを決定的に分けるのは,パケットの転送処理をハードウエアで行うかどうかという点だけなのです。