図5 QoSでは通信の内容を見て優先度情報を書き込む<BR>IPヘッダーやポート番号で優先度を判断して,IPヘッダーのTOSやイーサネットのヘッダーにあるCOSを設定する。IPヘッダーのTOSとして設定されている優先情報を,イーサネット・ヘッダーのCOSに変換して書き込む製品もある。
図5 QoSでは通信の内容を見て優先度情報を書き込む<BR>IPヘッダーやポート番号で優先度を判断して,IPヘッダーのTOSやイーサネットのヘッダーにあるCOSを設定する。IPヘッダーのTOSとして設定されている優先情報を,イーサネット・ヘッダーのCOSに変換して書き込む製品もある。
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ルーターの故障も自動で切り替え

 障害が発生するのはインターネットだけとは限らない。ブロードバンド・ルーターそのものが故障することもありえる。このような事態が発生した際にも通信を継続する「機器向けのバックアップ機能」も,ほとんどのオフィス向けブロードバンド・ルーターが提供している。

 これは簡単に言えば,バックアップのルーターを設置し,故障した場合にはそのルーターに自動的に切り替えるというもの。VRRP*というプロトコルを使うことで,パソコン側のデフォルト・ゲートウエイ設定を変更しなくても使い続けられるようになっている。

 VRRPでルーターを切り替えるしくみを見てみよう。VRRPでは,ネットワーク上に仮想のIPアドレスと仮想のMACアドレスをもつ仮想ルーターを定義し,その仮想ルーター向けの通信をその時点で有効なルーターが処理するようになっている。仮想ルーターのIPアドレスを各パソコンのデフォルト・ゲートウエイとして指定しておくことで,パソコン側とは無関係に通信を処理するルーターを切り替えられる。

 通常時に使うマスター・ルーターは,一定のタイミングでバックアップ・ルーターに存在を通知している*。この通知が一定時間途絶えると,マスター・ルーターに障害が発生したと判断して仮想ルーターあての通信をバックアップ・ルーターが処理するようになる。

 マスター・ルーターが復帰すると,今度はバックアップ・ルーターが定期的に発信している通知を受け取って「自分がマスター・ルーターとなるべき存在だ」と気づき,バックアップ・ルーターに通知する。通知を受け取ったバックアップ・ルーターは仮想ルーターとしての処理をやめ,元の待機状態に戻る。

必要な優先情報をパケットに記入

 オフィス向けブロードバンド・ルーターの三つ目の特徴である品質確保のための機能がQoSだ。QoSとは,早いもの勝ちが原則のIPネットワーク上で,急ぎの通信を優先させたり,必要な帯域を確保したりするための技術である。ほとんどのオフィス向けブロードバンド・ルーターでは,データの重要度に応じて処理の優先度を変える「優先制御」と,通信の種類ごとに割り当てる帯域の分量を決める「帯域制御」の2種類のQoS機能を提供している。

 このうち優先制御では,ブロードバンド・ルーターはパケットに付いている優先情報を基に順番を決め処理していく。さらに,転送の際に必要に応じて各パケットに優先度を表す情報を付加するといった仕事をしている。

 優先度の情報は一般にIPパケットで優先度を設定するTOS*と,イーサネットのMACフレームで優先度を設定するCOS*の2種類が使われている。ブロードバンド・ルーターは,送られてきたパケットのIPアドレスやポート番号などを見て,適切なTOSまたはCOSを設定して相手のルーターに転送する(図5[拡大表示])。

 TOSとCOSのどちらを使うかは,拠点間の接続に利用している回線によって違ってくる。例えば,TOSでの優先制御ができるIP-VPN*を使っていればTOSを,COSでの優先制御ができる広域イーサネットを使っていればCOSの情報として優先度を書き込む。いずれの場合でも,「このIPアドレスあて(あるいはこのポート番号)の通信は,どの優先度にする」という対応付けをユーザーがあらかじめ設定しておけば,外部に転送する際にルーターが必要な優先情報を書き込んでくれる。

 必要に応じてTOSとCOSを相互に変換するTOS-COS変換機能を提供している製品もある。例えば,社内ネットワークではTOSを使って優先制御しているユーザーが広域イーサネットを利用した場合は,IPパケット内にあるTOS情報に応じてCOS情報をマッピングしMACフレームに書き込んでくれる。

使っていない帯域を他の通信に活用

 もう一つのQoS機能である帯域制御も見てみよう。帯域制御機能では,利用しているインターネット接続サービスの帯域をなるべく有効活用するように工夫している。

 単純に通信の種類に応じた帯域を確保するだけでなく,それぞれの帯域がフルに利用されていない場合は,その空いている帯域を,他の通信に動的に割り当てたりできる。

 ヤマハの製品の場合でもう少し詳しく見てみよう。ヤマハでは「Dynamic Traffic Control(ダイナミックトラフィックコントロール)」という名前で,この動的な帯域制御の機能を提供している。この機能を使う際には,それぞれの通信ごとに保証帯域や上限帯域を設定する。これにより最低限の保証帯域を確保しながら,他の用途向けに割り当てた帯域に空きがある場合は上限帯域として設定した範囲内で利用できるようになる。この保証帯域と上限帯域を,それぞれの通信ごとに設定することで,契約している回線の帯域を有効活用するわけだ。

 例えば,10Mビット/秒という帯域の回線を契約しているユーザーが,VoIP(ボイップ)*向けに2M分を常に確保しながら,残りの8M分を重要なデータを使う基幹系とそれ以外の通信で使う場合を考える。このとき,例えば基幹系とそれ以外のそれぞれに保証帯域が3Mで上限帯域が5Mと設定する。そうすれば,基幹系での通信が少なければ,それ以外の通信が最大5Mまで広げた帯域で利用できる。その場合でも,基幹系のために最低でも3Mは常に確保されている。

帯域に合わせたシェーピングを実施

 ブロードバンド・ルーターの帯域制御機能は,利用しているインターネット接続サービスに合わせて通信量を調整する機能としても重要だ。これは,「シェーピング」と呼ばれる。

 一般にインターネット接続サービスには契約に応じた帯域の制約がある。契約帯域を超えるようなデータを送信してしまうと,サービス側で勝手にパケットを廃棄されてしまう。このため,送るパケットの種類を考えずに送信していては,音声や重要なデータが相手に届かないことがある。

 しかし,ブロードバンド・ルーターのところで,外部に送信する帯域をあらかじめ決めておけば,それ以上のパケットは送信しなくなる。優先制御と併用すれば,もし帯域を超えるような通信が発生した際にも,音声や基幹系のパケットは送信され,優先度の低いパケットのみが廃棄される。