ヘルシー食品への訪問を8日後に控え、まず顧客の経営課題について仮説を立てるために、ホームページなどで情報を収集・分析した。この結果を基に顧客ニーズを想定したプレ提案書を作成するが、作成のポイントは「ストーリーの組み立て方」にある。

(小野 泰稔=コンサルティング・フェア・ブレイン代表取締役)



これまでの経緯
 以前、システム導入支援をしていたCFB社の室田部長からヘルシー食品の事業開発推進室の梅田氏を紹介していただいた。ヘルシー食品は食料品の店舗販売と通販事業を会員制で運営しているが収益面で伸び悩んでいた。まず私は梅田氏の問題意識を電話で直接聞き、8日後の訪問を約束した。そこで訪問に向けての準備を開始した。

注)本記事に登場する社名、氏名はすべて仮名です

ホームページなどで情報収集

図1●顧客企業の概要

▲図をクリックすると拡大表示
 
図2●ヘルシー食品の組織図

▲図をクリックすると拡大表示
 
図3●ヘルシー食品の会社沿革

▲図をクリックすると拡大表示
 
図4●ヘルシー食品の財務データ

▲図をクリックすると拡大表示
 
図5●主婦のインターネット利用動向

▲図をクリックすると拡大表示
 まず最初に行うべきことは、顧客の経営課題について仮説を立てることである。そのためには、顧客(Company)について知ることが先決である。ヘルシー食品は株式上場会社ではないため、入手できる情報には限りがあるものと思っていた。しかしホームページを見てみると、意外と多くの情報を入手することができたのである。その他、新聞や雑誌の記事についても調べてみたが、該当する記事は見当たらなかった。ホームページから得られた情報は、

(1)会社概要(図1
(2)組織図(図2
(3)会社沿革(図3
(4)財務データ(図4

るポイント」を参考にしていただきたい。

 さらに「顧客にとっての競合(Competitor)」や「顧客にとっての顧客(Customer)」について調べることにした。特に業界紙や業界団体のホームページなどを中心に調べてみた。

 Company、Competitor、Customerの3つの視点からの情報収集・分析は「3C分析」と呼ばれ、企業の置かれた経営環境を理解するためによく利用される分析手法である。

インターネット通販事業の市場推移を調査

 この提案活動を行った当時、インターネットを使った通販事業に業界内でも注目が集まってきていたらしく、多くの関連記事を見つけることができた。

 例えば、(5)主婦のインターネット利用動向(図5)では、今後のショッピングの増加傾向を示すデータを得ることができた。別の調査資料では今後のEC(電子商取引)市場規模の推移の中で、食品分野が順調に伸びることを示しているデータも見つかった。

 これらの情報に加え、初日に電話で得ることのできた情報(前回掲載)について、内容を要約すると次の通りである。

【CFB社室田部長からの情報】
(1)通信販売事業の売り上げは安定している
(2)収益性は悪化してきている
(3)顧客基盤を生かせていない
(4)店舗事業は中規模店舗であり、特徴を出しにくく業績が悪化している

【ヘルシー食品梅田氏からの情報】
(1)梅田氏は事業開発推進室の担当者であるが、新規事業の構想で行き詰っている
(2)上司からは、検討を急がされている
(3)インターネットを利用した通販事業に興味はあるようだが、採算性に疑問を持っている
(4)店舗事業は閉鎖を検討するくらい悪化している
(5)しかし、従業員の処遇や地域の顧客との関係の問題などから閉鎖できないでいる

図6●ヘルシー食品の経営課題仮説

▲図をクリックすると拡大表示
 以上の情報をもとに、ヘルシー食品が現在抱えている経営課題について、考えてみると図6のように仮説を整理することができた。通販事業については、収益性の悪化を売り上げとコストの両面から分析した。店舗事業については個別に不採算要因を分析した。

 通販事業の問題点としては、「1件当たりの購買単価が低下」「会員数の減少(休眠会員の増加)」「競合他社の有機食料品販売の参入による売り上げ減少」などが売り上げダウンを招いており、コストアップの原因では「有機食料品の原価コントロールが困難」「宅配費が不採算」などが想定できた。店舗事業では、「店舗周辺の地域における顧客の老齢化」が挙げられるほか、「パート・アルバイトの活用不足」「店舗の老朽化」などの問題点があると想定した。

「ストーリー」を構成する基本パターン

図7●ストーリー構成の1つ「三部構成」の基本パターン

▲図をクリックすると拡大表示
 この経営課題の仮説をもとに、顧客ニーズを想定したプレ提案書を作成するが、作成のポイントは「ストーリーの組み立て方」にある。ストーリーをどのように組み立てるかという問題は、悩ましいことではあるが、いくつかの基本パターンを知るだけでも、提案内容に合ったストーリーをイメージしやすくなる。

 今回は、代表的なストーリー構成の1つである三部構成のバリエーションについて解説する。三部構成の“三部”とは「序論」「本論」「結論」のことを指し、次のようなストーリー構成上の役割を担う(図7)。

■序論:提案テーマに関する背景や問題意識などを説明し、本論を述べる目的や意義を明らかにする。
■本論:序論で明らかにした目的や意義に基づいて、詳しい内容を説明する。三部構成では本論に最も重点が置かれ、ボリュームとしても大きく複雑になるため、本論を分かりやすく的確にまとめることが重要になる。そのため本論の展開についていくつかのバリエーションが存在する。
■結論:最終的に訴えたいことを的確に表現し、提案全体をまとめる部分。序論と本論の再確認という意味合いが強いため、プレゼンテーションでは必須であるが、提案書上は省略することもある。

【本論のバリエーション】
本論の展開には次のようなバリエーションがある。

(1)演えき的アプローチ:本来のあるべき姿や一般的原理などから、個別の課題を明らかにするトップダウンのアプローチ。業務やシステムなどのあるべき姿を最初に提示して、そこから現状とのギャップである課題を明らかにし、課題解決のための施策を提案するときなどのストーリーである。
(2)帰納的アプローチ:個別の事実を明らかにし、その積み重ねた事実から共通点を分析したり全体像を検討したりして、あるべき姿を探るボトムアップのアプローチ。いくつもの改善課題をもとに導入すべきシステムの姿を提案するときなどのストーリーである。
(3)問題解決アプローチ:最初に問題提起をしてから、演えき法または帰納法で課題分析をし、解決施策を提案するというストーリーである。その問題が、特に顧客にとって関心の高いものである場合に有効。
(4)因果的アプローチ:原因と結果の関係を中心に本論を展開するアプローチ。課題の原因と現状の関係を明らかにして、提案する施策の有効性を訴えるときなどのストーリーである。
(5) 時間的アプローチ:時間的な前後関係に従って本論を展開するアプローチである。事実関係や情報の確認を中心とする場合に有効なストーリーである。

 次回は、ストーリーを基に顧客ニーズを想定したプレ提案書を作成する段階を解説する。

著者プロフィール
情報サービス会社でシステム構築の一連の業務に携わった後、トーマツ コンサルティングのマネジャーのほか、社団法人・日本能率協会の専任講師も務める。IT戦略、システム化計画、システム開発方法論のカスタマイズ・提供など、ITを中心としたコンサルティングと人材育成を行っている。現在はコンサルティング・フェア・ブレイン代表取締役