虹 彩 サイズとコスト,使い勝手が課題 |
虹彩認証では,装置の小型化および低コスト化が開発の焦点となっている。コストを下げるにはカメラの制御機構を簡素化する必要があるが,使い勝手が損なわれかねない。日本人は目が細い人が多く,カメラの位置合わせ精度が悪いとすんなり認証できないといった事態が起こる(図5[拡大表示])。
こうした事情はあるものの確実に低コスト化は進んでいる。例えば松下電器産業や沖電気工業は1世代前の機種に比べて半額の製品を開発した。
松下電器産業は新機種「BM-ET330」の価格を従来の半分にするため,カメラの調節機構を簡易にしてユーザーが手動でカメラの向きを調節するようにした。自動調節する場合に比べ,慣れていないユーザーは位置あわせに時間がかかる。「安く導入したいユーザーには凝った機能は必要ない。用途によって割り切り方が変わってくる」(松下電器産業パナソニック システムソリューションズ社 先行開発グループの石原健グループマネージャー)。
沖電気工業の新機種「アイリスパス-M」はカメラの自動位置合わせ機能はそのままで,価格を半分にした。コストを下げるために,各部品を見直して安価なものに交換したり,部品点数を減らすなどした。また,従来製品では複雑だったカメラ機構を簡略化したことで照合時間は半分になった。
顔 技術は百花繚乱,用途はこれから |
ドアに向かって歩いていくと,瞬時に本人かどうかが判断されドアが開く。パソコンの前に座ると,正当なユーザーと認識され自動的にログオンできる。顔認証は,このように汎用のカメラを使って簡単に導入できる点で期待を集めている。顔を撮影するため不正を心理的に抑止する効果もあり,他の生体認証方式と併用する際に候補に挙がることが多い。
期待を集める顔認証だが,技術開発の焦点は基本的な精度の向上に当たっている。実は,顔認証の精度は他の方式ほど高くはない*3。照明や表情の変化,加齢による経年変化への耐性が低いためだ*4。
特定の向きから強い照明が当たると,顔に陰ができてしまい認証できないことがある。表情の変化は,顔の各部位の形が変化するため登録データとの類似度が極端に低下するおそれがある。加齢による経年変化も,各部位の形が変わってしまうため同じような問題が起こる。
各社はこういった課題への対策を盛り込み,精度の違いをアピールする。照明の変化に対しては,陰になる部分を参照しないようにしたり,あらかじめ変動を推定したりしている(図6[拡大表示])。経年変化に対しては,いったん登録したデータを,登録後の照合時に類似度が高かったデータと一部差し替えたり,「本人の顔の経年変化」の特徴を定義して加齢による変化を見分ける方法などが使われている。
照合方式に決定版なし
顔の照合方法はさまざまな手法があり,主流となるものはまだ見あたらない。照合方法は大きく三つに分けられる(図7[拡大表示])。まず,顔全体を照合対象とする手法。顔全体だと変化に弱そうに見えるが,東芝は動画像から100枚程度の画像を切り出して特徴量の集合で照合することで精度を高めている。1枚の画像によって照合する場合に起こり得る“一発モノ”による精度の低下を抑える。
また,顔全体のなかでも特徴的な部分の比重を重くして,他人との違いを際立たせる手法もある。グローリー工業は性別や複数の人種の顔から平均顔を作成し,平均顔を基に各認証用画像の特徴的な部分を抽出して照合に用いる(図8[拡大表示])。KDDI研究所は,顔画像全体から特に特徴が現れやすい目,鼻,口周辺から重点的に特徴量を算出している。
二つ目が,顔の局所を照合対象にする方法。NECは,登録データと比べて輝度の変化が激しい部分は重み付けを下げたり,削除したりして輝度が近い部分を使って照合スコア(類似度)を算出する。髪などで一部が隠れても,見えている部分で照合できる(製品化済みのもの)。
三つ目が,目や口などの個人差が大きく現れる部分に特徴点を打つ方法である。これはオムロンが採用している手法で,各特徴点の方向や特徴点間の間隔を数値化して基準となるデータと照合する。顔の向きの変化や照明の影響に強いのが特徴。顔の向きが変わっても特徴点の位置関係は変わらないので,強い照明があたって目や口の輪郭が一部見えなくても,200カ所の特徴点のうち大半の情報は取れるためだ。