静 脈 信頼性の検証が不可欠 |
銀行ATMで採用された静脈認証は,今,最も注目されている認証方式である。受け入れられたポイントは,指紋のように外部に情報が残留せず,センサーに触らずに済む点だ。しかし,認証技術としての信頼性の検証が必ずしも十分でないなど,課題が残されている。
現在実用化されている静脈認証は撮影する部位によって大きく三つに分かれる。手の甲,手のひら,指である。いずれも静脈のパターンを撮影し,分岐を基にして静脈の長さや角度などを数値化する。
情報量の手のひら,小型の指
三つの方式のうち,注目が集まっているのが,銀行ATMで採用された手のひらと指である(図4[拡大表示])。では手のひらと指,どちらが認証技術として優れているのか。ポイントは取得できる血管の情報量と装置の大きさである。
取得できる情報は手のひらの方が多い。「手のひらは指の第2関節付近に比べ30倍の面積があり,血管の密度も単純な面積比で10倍ほどになる。これらの数字で単純計算すると,情報量としては300倍の違いがある」(富士通 ユビキタスシステム事業本部バイオメトリクス認証システム部の若林晃部長)。また手のひらだと血管が太いため,低温下で血管が収縮してもさほど影響がない。
これに対し指静脈のベンダーは,指でも問題ないと説明する。「指静脈の情報量は個体を識別するのに足る情報量だ。低温下での精度については,確かに寒いと指先の血管は収縮するが,今のところ照合できなかったという報告はない」(日立製作所 情報・通信グループ セキュリティソリューション推進本部セキュリティマーケット開発部の金野千里担当部長)。
装置は,現段階では指静脈の方が小型化が進んでいる。指静脈は撮影する面積が小さいため,センサーは最小で縦4 ×横2cmと小型。開発当初は上から照射するため装置が大きめだったが,今は指の横からに方向を変えて小型化を図っている。一方,手のひら用のセンサーは現状では縦7×横7cmと大きめ。今後,4分の1程度に小型化するという。
いずれの方式もメーカーが公表している精度は高い。ただし,まだ新しい技術ゆえに静脈の特性や病気による影響など検証が必要だ。「1万数千本の指の中で静脈認証ができなかった人は出ていない。ただし,まったく不安な要素がないというわけではない。静脈パターンは変化しないが,体調によって太さが変化したり,病気が原因で撮影する血管のパターンが変化する割合を調査している」(バイオニクス 研究開発部の田中昌司氏)。
DNA認証——細胞核の情報で確実に本人を識別生体の各部位や動作を照合に使う場合,指紋や静脈などは複雑なパターンをデジタル情報に変換して,登録データとの類似度で判断せざるを得ない。しかも照明など,環境によるノイズが乗る。これに対し,細胞核のDNA情報は基からデジタル情報であるため精度が高いと言われている。アナログ情報から変換する際の誤差や,生体情報の変化や環境の変化による誤差がない。 DNAと聞くと,病気などに関係する遺伝情報を含むためプライバシー問題が懸念されがちだ。だが,「DNA認証でつかうのは遺伝情報を含まない部分。遺伝情報は持たないが,個人識別が可能なので認証に使える」(情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ研究科の板倉征男教授)。 DNAは,A(Adenine)G(Guanine)C(Cytosine)T(Thymine)という4種類の塩基で構成されており,この配列は2重のらせん構造を採る。同一の人物であれば,塩基配列はどの細胞でも全く同じになる。この並びのなかに,STR(Short Tandem Repeat)と呼ぶ一定の配列が繰り返されている部分があり,DNA認証ではSTRの繰り返し回数を複数の場所で数えてIDを作成する(図[拡大表示])。 例えば,2重のらせん構造のある部分を見たとき,片方の塩基の鎖では繰り返しが10回,もう片方では18回だとする。この場合1018がIDの一部となる。同様に,いくつかの個所で繰り返し回数を数えてIDを作成し,それを結合して桁数が多いIDにする。板倉教授によると16カ所程度で十分だという。 照合方法は確立しているが,実用に当たっては技術的な課題が残る。照合速度の高速化と細胞の採取方法の確立だ。照合には今のところ,早くて1~3時間ほどかかる。細胞の採取は,口の内部の粘膜を綿棒でこすり取っているのが現状だ。より簡単で抵抗感の少ない採取方法の開発が必要である。 |