はじめまして。コンサルタントの金子です。読者の皆様の大半はプログラマの方で,「コンサルティングなんてオレには関係ない」とか,「適当なことを言って高い報酬を得ている」などと思っているかもしれません。この連載は,そのような誤解を解くと同時に,等身大の身近なコンサルティング・テクニックを,いかにして情報戦略の立案といった難しいテーマに応用していくかをやさしく解説するものです。コンサルタントという職業につこうとしている人でなくても,役に立つところがあるのではないかと思います。初回は,コンサルティングの最も基本的な立脚点である「わからない」ということを中心に,お話を進めます。最後まで,気楽におつきあいください。

 世の中には,コンサルタントと呼ばれている人がたくさんいます。経営コンサルタント,建設コンサルタント,ブライダル・コンサルタント,カラー・コンサルタント…。コンサルティングは,クライアント(コンサルティングの依頼者のこと。クライアント・パソコンではありません)がいれば成立するので,非常に原始的で素朴な仕事だといえます。

「わからない」と認めたくない

 では,なぜクライアントは高い報酬を支払ってまでコンサルタントを雇うのでしょうか? それは,クライアントが,自分では決めかねている,あるいは解決できない重大な問題を持っているからです。複雑な状況に対処し切れずに混乱しているので,相談相手になってくれる人を求めるのです。具体例を引きながら,考えてみましょう。プログラム開発会社の社長さんとコンサルタントの会話です。

社長:どこかに私の言うことをチャンと聞く優秀なプログラマはいませんかねぇ。うちの者は,からきしダメで…。

コンサルタント:ハローワークなどの人材紹介機関に行きましたか?

社長:行ってますよ。もう5年も。でも,いい人が来ないんです。

コンサルタント:そうですよね。東京近郊のプログラマは,求人難ですね。学生アルバイトは,当たりましたか?

社長:学生? そんなもの使い物にならんですよ。一度も探していません。(以下,延々と社長のグチが続く)

 人間はおもしろいもので,わからないという事実を認めたくないものです。そして,そこに心理的な落とし穴があります。この社長さんは決して,「私は優秀なプログラマを探す方法がわからないのです。どうすれば探せますか?」とは言いません。自分に都合の悪いことは,あいまいにしておきたい誘惑に負けてしまっているのです。

 では,社長が本当にわからなかったことは何でしょうか。それは,有効な求人方法ではなく,「今まで実施した普通の求人方法では,優秀なプログラマを採用できなかった」という事実だったのです。うすうす気づいてはいたのですが,もう少し続ければうまく行くのではないかと,意思決定を遅らせていたのです。コンサルタントは,社長が何をわかっていないのかを社長自身にわからせるために次のように言います。

コンサルタント:一生懸命,求人しても見つからなかったんでしょ? だったら,社長のところに来てくれる人はいないんですよ。求人作戦が功を奏さないのは,社長も知っているじゃないですか。見果てぬ夢は捨てましょう。解決策は,少し手間ですが,良い素材を探して育てるしかないと思います。学生アルバイトを雇って,そのまま正社員になってもらえる方策を考えましょう。それもダメならば,地方をあたってみましょう。この解決策でうまくいくとは限りませんが,無駄と知りつつ,求人を続けるよりは,何倍も勝算があるでしょう。

「わからない」を「わかる」に変えるには

 コンサルタントは,わからないことに真正面から取り組まなければなりません。例えば,システム開発のケースで考えると,クライアント自身が,どんなシステムを開発したいのか,何の効果を期待しているのか,わからないことが多いようです(プログラマに対して,決してそんなことを言いませんが…)。わからないまま,とりあえず開発を始めてしまうから,出来上がってから,こんなはずじゃなかったと,仕様変更が多発してしまうのです。

 そんな悲しい結果にならないようにコンサルタントは,まずクライアントに,わかっていることと,わからないことを区別させます。そして,わからないことのうち,重要な部分についてわからせようと努力します。コンサルタントは,わからないことを,わかるに変えるためにいくつかのノウハウを持っています。それを紹介しましょう。

(1)わからないことをハッキリさせる

 バカバカしいと言えば,バカバカしいノウハウですね。でも,重要なんです。クライアントに対して,「あなたは,○○をわかっていない」と言わなければ,コンサルティングはスタートしません。顧客であるクライアントに「あなたは,バカだ」に近いことを言うわけですから辛いですし,プレッシャも感じます。

 しかし,クライアントとコンサルタントの共通目標をハッキリさせ,運命共同体であることを確認するためには不可欠なアクションです(儀式と言えるかもしれません)。もちろん,コンサルタント自身も,解決策がまだわかっていないのですから,一緒にスタート地点に立ったにすぎません。

(2)わからないことを分解し,定義する

 わからないことは,たとえ一言であっても,一般に複雑であり,交錯しています。例えば,電機部品の卸売業のシステム部長から次のような相談を受けたとします。

システム部長:社長からホームページのアクセス数が少ないとの指摘を受け,その改善策を考えなければなりません。私は,システム・エンジニア経験は長いのですが,コンテンツや広告宣伝の知識はあまりありません。アクセス数を増やすにはコンテンツの充実が必須と考えています。この方向で良いのでしょうか?

あなたは何と答えますか。効果がありそうな方法をいくつか考えて,並べ始めるかもしれません。しかし,コンサルタントはその前にクライアントに次のような質問をして,わからないことを徹底的に明確にしていきます。

コンサルタント:アクセス数とは何でしょう。ホームページのトップ・ページに来た人の数でしょうか? それとも,その先にある商品紹介や会社概要まで見た人の数ですか? それとも,ホームページ内に3分以上留まった人の数ですか? 次に,アクセス数が多いという状態はどういうことですか。1日に1000人以上の人が来訪することでしょうか? それとも,ライバル会社よりもアクセスする人が多いということでしょうか? 次に,なぜアクセスが少ないとわかったのでしょうか,自分で調べたのでしょうか,調査会社に委託したのですか,その数値の信頼性はあるのでしょうか? 次に,アクセス数が増えるだけでよいのでしょうか,その後に何か期待していませんか? インターネット経由の売上額増大など,本当に欲しいものはほかにあるのではないでしょうか? そのためには,アクセス数が単に多いのではなく,見込み客のアクセス数を増やさねばならないのではないですか?

など,クライアントが「勘弁してくれー。そこまでは考えていなかった」と言うまで質問ぜめにします。何がわからないことかがハッキリしないと,解決策がぼんやりしたものになり,結果が出ないからです。また,考え出した解決策を実施した後に,効果的だったのかどうかを評価するのも,あいまいになってしまいます。

(3)アイデアをとにかく多く出す

 わからないことがハッキリしたら,次は解決策の候補をできるだけ,たくさん出します。ホームページのアクセス数の例で言えば,(1)サーチ・エンジンに引っかかりやすい言葉(よくサーチされる言葉)をホームページ内のどこかに入れる。(2)リンク集などに自社のホームページのURLを入れてもらう。そのために相互リンクを張る。(3)ユーザーを目線を引くコンテンツを入れる。メール・マガジンを始める。動画配信を入れてみる。(4)懸賞やプレゼントなどのインセンティブをつける。(5)営業担当者が得意先を訪問した際にホームページを見てくれるように依頼する。(6)紙の商品カタログの構成を変えてホームページに誘導しやすくする。(7)サーチ・エンジンにバナー広告を載せる。(8)テレビ・ラジオ・雑誌・店舗内放送の宣伝でURLを強調する。(9)期間限定の激安・原価割れの販売をホームページ上でする。(10)ホームページで会員登録をしてもらい,会員にはメールでホームページを見たら得をすることを定期的に訴える,…などです。

 私は100という数字にこだわりを持っています。解決策も100個は考えたいですね。少なくとも20~30個は出したいところです。解決策の「候補」を考えるときには,それが実現可能かどうかは,いっさい考慮しません。荒唐無稽であろうと,無茶苦茶であろうと気にしません。数をひたすら求めます。ここがコンサルタントのがんばりどころです。ちなみにあなたは,食べたいもの,行きたい観光地,してみたいスポーツなどをそれぞれ30個ずつあげられますか。

(4)アイデアを三つ程度に絞る

 アイデアがたくさん出たら,わからないことと,アイデアのベストな組み合わせを考えます。ここの具体的なやり方については次回以降に説明します。

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 ここまで読んでいただいてわかるように,コンサルタントの仕事って,とっても地味なものなんです。スーパーマンが目の前の問題をズバッと解決する,なんてなことは,まずありません。地道にコツコツやっていくだけです。ただし,問題解決のために考え出すアイデアの量は,素人が考えるよりもはるかに多く,それがコンサルタントの腕の見せ所になっているわけです。


 私の趣味は,パラグライダーです。皆さんは,パラグライダーが飛んでいるところを見たことがありますか? パラグライダーは,風呂敷のような布きれを風神雷神のごとく,頭上に立ち上げ,山の上からエイヤッ!とばかりに飛び降りるスポーツです。行きたい方向には,ある程度は行けます。しかし,動力を持っているわけではないので,基本的に風まかせです。強風時には危なくて飛べませんし,時には,あらぬ方向に飛ばされたりもします。「そんな,おっかないことをよくやるねー」と友人にもよく冷やかされます。

 私は,体が空中に浮いて,気流に漂っている感覚が好きです。そう,まるで人生のように浮き沈みがあり,自由になる範囲も小さく,おっかなくもあり,楽しくもある。パラグライダーをやっていると,自分がいかにちっぽけな存在であるかがわかり,死の存在をハッキリと意識させられ,クヨクヨ悩まなくなります。皆さんも,パラグライダーで空を飛んでみませんか? スカッとしますよ。