図1  実用段階に入った生体認証<BR>確実な本人確認のニーズから,生体認証が注目され始めた。生体認証はユーザーに大きな負担を強いることなく,セキュリティを高められるのが特徴である。研究・開発段階では,精度向上,抽出・照合の高速化,小型化が課題だった。実際に使われるようになった今,あらゆる状況での使い勝手,相互運用に必要な標準化,安全性を保証する認定制度,法的解釈など実用段階における課題が見えてきた。
図1 実用段階に入った生体認証<BR>確実な本人確認のニーズから,生体認証が注目され始めた。生体認証はユーザーに大きな負担を強いることなく,セキュリティを高められるのが特徴である。研究・開発段階では,精度向上,抽出・照合の高速化,小型化が課題だった。実際に使われるようになった今,あらゆる状況での使い勝手,相互運用に必要な標準化,安全性を保証する認定制度,法的解釈など実用段階における課題が見えてきた。
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確実な本人確認に使う

 こうして広がりを見せる生体認証は,セキュリティ確保および利便性の向上を実現する技術として,昔から研究されてきた。最近になって急激にブレークしたきっかけは,厳格な本人確認の必要性が多方面でぐっと高まったことだ(図1[拡大表示])。

 具体的には,大きく三つの出来事が背景にある。まず,2001年9月11日米国で起こった同時多発テロ。「ホームランド・セキュリティ(国土安全保障)」という観点から,セキュリティ向上手段として生体認証が浮上した。本人しか持たない特徴を使うため,ブラックリストとの照合でテロリストなどの人物を割り出せる。「2001年のテロ以降,生体認証はパスワードを代替できる利便性だけでなく,安全性を向上させられるという認識が広まった」(国土交通省 総合政策局情報管理部情報企画課の黒須卓課長補佐)。

 二つ目が,日本で2004年後半から2005年前半にかけて社会問題化した偽造キャッシュカードによる被害である。既存の磁気ストライプを用いるカードは簡単に偽造できるうえ,4桁の暗証番号は誕生日を基にするなど推測しやすい場合が少なくない。偽造に対してはICカード化することで対処し,本人確認の強化策としては生体認証に白羽の矢が立った。銀行の場合,生体認証を単体で使うのではなく,4桁のパスワードと併用する。

 三つ目が2005年4月から施行された個人情報保護法。「ガイドラインに沿って,個人情報にアクセスした人物の記録(ログ)を取る場合,なりすまされた人物のアクセス・ログをとっても意味がない。IDとパスワードを知っていれば他人でもアクセスできるからだ。生体認証などで認証段階でのしきいを高くするのが効果的」(日立製作所 情報・通信グループ セキュリティソリューション推進本部セキュリティマーケット開発部の金野千里担当部長)。扉に装置を取り付けて入退室を管理する物理セキュリティ,および装置をパソコンに接続して,アクセス(ログイン)時に認証する情報セキュリティの両面で使われている。

利便性のニーズは根強い

 利便性向上のニーズは根強く,主に個人が所有するパソコンでの利用や,ホーム・セキュリティへの適用が考えられてきた。これまで問題は価格だったが,最近になって,センサーのコストが下がり導入できるレベルになった。

 個人で所有するパソコンには,セキュリティ意識が薄いということもあり,ユーザーに大きな負荷をかけないセキュリティ技術が必要となる。そこで導入されたのが生体認証だった。パスワードを指紋情報と対応付けておけば,指紋でパソコンにログオンしたり,パスワードが必要なWebサイトにアクセスすることができる。確かにユーザーの利便性は高まる。認証されないときは,通常のパスワードや代替のパスワードを使えばよい*2。安全性と利便性を兼ね備えた生体認証は格好のソリューションとなった。

 防犯が目的のホーム・セキュリティ分野でも利便性が受け入れられた。「高齢化によって必要性が増している一面がある。例えば、お年寄りが鍵を忘れたり,なくしてしまった場合,指だけで家に入れる。いわばバリアフリーのセキュリティといえる」(生体認証システムのコンサルティングを手がけるマックポートバイオセキュリティーの中野裕二バイオ認証・主席研究員)。

 このほかマンションのエントランス(共用玄関)でも採用が進む。日本綜合地所は1998年から指紋認証、2003年から虹彩認証を導入した。「両手に荷物を持っていても解錠できる“ハンズフリー”が評価されている」(日本綜合地所 建築部1課の初澤和晃課長代理)。今後はすべての物件に導入する考えだという。