今回は、2006年以降の日本の電子政府の方向性について考えてみたいと思います。

 といっても、日本の電子政府戦略は、既に政府から示されています。1月17日に、内閣の直轄組織であるIT戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)が発表した「IT新改革戦略」がそれです。日本の電子政府戦略は今後、この「IT新改革戦略」に沿って進んでいくことになります。

 ここでは「何をやるのか」についていろいろ示されているわけですが、それよりもまず注目すべきは「誰がやるのか」だと私は考えています。当たり前といえば当たり前の結論かもしれませんが、以下、改めて順を追って話を進めていきたいと思います。

 「e-Japan戦略II」を受けてスタートを切る「IT新改革戦略」は、5年後の2010年度までの国家IT戦略をまとめたものです。電子政府・電子自治体に関する部分は、同戦略の中の「世界一便利で効率的な電子行政 -オンライン申請率50%達成で小さくて効率的な政府の実現-」というパートにまとめられています。

 では、「世界一便利で効率的な電子行政」の目安として政府が掲げる目標、つまり「オンライン申請率50%」を達成するには、どうしたらよいのか。「IT新改革戦略」を読んでみると、府省の垣根を乗り越えて利用者視点に立った電子政府を構築していくことで、「オンライン申請率50%」を達成するつもりのようです。しかし、言うのは簡単ですが、府省を超えて全体最適を実現させるのは容易ではありません。そもそも、府省間の横の連携にしても、利用者視点のサービス開発にしても、“官”の不得意分野です。

 実際、日本政府のオンライン申請率は、低い水準にとどまっています。いまのところ1%にも満たない状態です(関連記事)。地方自治体に関しても、施設予約などごく一部を除いて、やはり電子申請は普及していません(関連記事)。

 また例えば、各府省の業務・システムの最適化を推進するために民間から各府省に任用されたCIO補佐官は、政府全体の業務・システムの最適化実現には、10年はかかると考えています(各府省情報化統括責任者(CIO)補佐官等連絡会議「第1ワーキンググループ(全体最適化) 報告書」より)。民間で経験を積んだITの専門家であるCIO補佐官が、官公庁のIT化の現場とかかわっての実感が「10年」です。「IT新改革戦略」では、それを5年で実現しようとしているのです。

 まさに戦略の名称にある通りの、“改革”という言葉にふさわしい大胆な手段に訴えなくては、目標達成は不可能でしょう。

 目標達成のために、「IT新改革戦略」では新たな組織・体制の創設をうたっています。各府省の業務・システムの最適化についての評価を実施する組織と、担当府省間の連携を図るために工程管理や仕様の調整などを行う体制を、2006年度早期に作り上げるとしています。

 この新組織・体制についてもう少し具体的にイメージするには、自民党のu-Japan特命委員会が昨年12月に発表した「新たなIT戦略構築に向けての提言」が参考になります(衆議院議員の平井卓也氏のサイトで公開されています)。u-Japan特命委員会の提言は、政府のIT戦略に強い影響力を持っています。これまでも特命委員会の提言が発端となり、レガシーシステムの見直しや独立行政法人の業務・システムの最適化推進などが実現しました。今回の提言では、府省横断的なプロジェクト管理組織(GPMO:ガバメント・プログラム・マネジメント・オフィス)」と、府省横断的な評価機関「電子政府評価委員会」が必要であるとして、その機能にも言及しています。

 こうしたミッションの組織をつくるとなると、新たな法律を制定する必要が出てくるかもしれません。IT戦略本部の下に新設されるであろう組織の、府省横断的な権限を明確に規定するためです。

 IT戦略本部の役割と権限については、IT基本法で定められています。しかし、そこでは「高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する重点計画を作成し、及びその実施を推進すること」「(関係行政機関などの代表者に対して)資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる」といった、きわめて抽象的な表現しかなされていません。権限を明確にし、その根拠となる法をしっかりと整備したほうが、(特に)官僚組織は動きやすくなるでしょう。

 ただし、もし仮に権限を付与された組織・体制が出来上がったとしても、まだもう一つ足りない要素があります。それは強力なリーダーシップを持った“人”あるいは“チーム”です。政府の全体最適実現のためには、各府省がそれぞれ、どこかで何らかの痛みを甘受せざるを得ない場面が必ず出てくるはずです(全体最適とは、理屈のうえではそういうものです)。権限を振りかざすだけでは、ステークホルダーは痛みに耐えてくれないでしょう。そんなときにポイントとなるのが、「誰がやるのか」という要素です。「何をやるのか」「どうやるのか」も、もちろん重要です。しかし、“改革”の実行フェーズにおいて、まず注目すべきは「誰がやるのか」ではないでしょうか。そして、予定通りに進めば、「誰がやるのか」は年内にハッキリすることになります。