情報システムの障害やトラブルが後を絶ちません。ITはいまや,人々の生活や企業活動を支える社会インフラの一つと言えますが,そのぶん障害が発生したときの影響は甚大になってきました。証券取引所の相次ぐトラブルはその典型例でしょう。情報漏洩などセキュリティの事件,事故も毎日のように起こっています。

 これらの原因は一概には言えません。個々に固有の事情があり,様々な要因が複雑にからみあっているでしょう。ただ,筆者が最近強く感じていることがあります。それは,度重なるトラブルの発生は,「システムの開発・運用を担う現場が弱っているからではないか?」という問題意識です。すべてをこれだけで片付けるつもりは毛頭ありませんが,トラブルの大きな共通要因の一つなのは間違いないと思います。

 いま,業種・業界を問わず“現場力”を見直す機運が高まっています。ビジネスが好調な企業は現場が強い,企業の強さの源泉は現場にある,と言われています。確かに,現場がもろくては,どんなに優れた戦略も絵に描いた餅に過ぎません。書店に立ち寄ると,ビジネス書のコーナーには現場力という言葉の入った本がずらりと並んでいます。「現場が弱っている」という意識を多くの人が抱き,「何とかしなければ」という思いでいることを示しています。

 ITの世界も同じではないでしょうか。今後,企業が厳しい競争を勝ち抜いていくためには,ITの戦略的な活用が欠かせません。これは,もう言わずもがなですね。ところが,このITへの投資も,導入現場の力不足のために思うように進まず,後押しすべきIT業界も全体的には勢いを失っているように見えます。

 つまり,現場が弱っているために,IT戦略を具体化するという役割を果たせないばかりか,プロジェクトの失敗,稼働遅延,システム障害,セキュリティ事故といった,トラブルを招いてしまっているのではないか。筆者はそう感じているのです。では,どうすればよいか。現場を強くすればよいのですが,もちろん簡単ではありません。それができていれば,いまのような状況にはなっていないからです。

 「ものづくり」における品質の高さは,日本が世界に誇るものです。システム開発だって「ものづくり」のはず。ところが情報システムの品質はなぜか,おろそかになっています。例えば,工場では極めて精緻な品質管理を行い,優れた商品を世に出しているような企業が,その一方で社内システムの開発では大量のバグを抱え込んだり,運用で単純なミスを繰り返したりしています。いったいどういうことでしょうか。残念ながら,情報システムの品質に対する認識不足,リスクの過小評価,そして,現場の当事者意識と力量の乏しさが原因に思えてなりません。

 IT Proの読者のみなさん,今年はITの現場も「ものづくり」の原点に戻って,システム開発・運用の“現場力”を見直してみませんか。現場が自律的に問題を発見し,解決する力を磨きましょう。そのために,個々のエンジニアやチームの持つ力を引き上げましょう。それが,トラブルを減らす確かなアプローチになるはずです。トップダウンによるトラブルの再発防止策やチェック体制の強化も必要かもしれません。しかし,現場が自ら強くならなくては,そんなものはただのお題目や締め付けに過ぎないし,何の実効力もありません。現場がすべきこと,現場から動くべきこと,がきっとあるはずです。

 筆者はいま『日経システム構築』という雑誌の編集長をしていますが,今年4月号(3月発行)で誌名を含む全面的なモデルチェンジを行います。新誌名は『日経SYSTEMS』です。現場のパワーアップという新しいコンセプトのもとに,ITエンジニアのみなさんに向けて,日々の問題解決のための情報や真の実力向上に役立つ情報を提供していきます。読めば元気になる,やりがいをもって仕事ができる,そんな雑誌を目指します。よろしくお願いします!


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