図 Wireless USBの概要
図 Wireless USBの概要
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 「Wireless USB」(WUSB)は,パソコンと周辺機器をつなぐインタフェースとして最も普及しているUSBを無線化した新しい規格である(図)。2006年には,高速版のUSB 2.0を無線化した新しい規格「Wireless USB」(WUSB)に対応した製品が登場しそうだ。周辺機器などの大手メーカーから具体的なアナウンスはまだないが,チップ・メーカーでは開発が進んでいる。例えば,WUSB向けチップを手掛けるNECエレクトロニクスでは,「2006年の夏には量産できるように準備を進めたい」という。

 WUSBは基本的に,最大伝送速度480Mビット/秒という「USB 2.0の無線版」を目指した規格である。480Mビット/秒という最大伝送速度や,1台のホスト(パソコン)に最大127台のクライアント(周辺機器)を接続できるといった基本仕様は,同じになるよう作られている。

 ただし,無線であるがゆえに,有線のUSB 2.0とは異なる部分もある。一つは,無線伝送にかかわる部分だ。WUSBでは,電波の強度に応じて伝送速度が変化する。480Mビット/秒で通信できるのは3m程度まで。距離が長くなると電波の強度が弱くなるので,速度が落ちていく。これは,無線LANなどの一般的な無線通信と同じである。また,データを盗み見られないように,無線区間はデータを暗号化して送受信するようになっている。

 WUSBは,「UWB」と呼ばれる無線伝送技術を使って高速伝送を実現している。UWBは,非常に広い帯域を使うことで超高速通信を実現する。UWBにはいくつかの方式が存在するが,WUSBは「マルチバンドOFDM」という方式を採用する。約500MHz幅の周波数帯(バンド)を1本の伝送路として,「OFDM」という変調方式でデータを送る。さらに,バンドを三つ用意して,切り替えて使う。

 UWB向けの帯域としては,3G~5GHzを利用する方向で検討が進んでいる。いち早く帯域を割り当てたのは米国で,通信関連の規制を策定するFCC(連邦通信委員会)は3.1G~10.6GHzという広大な帯域をUWB向けに割り当てた。このうちWUSBのマルチバンドOFDMは 3.1~4.9GHzを使う。WUSBではほかの通信システムと帯域を共用することになるため,ほかの通信システムに影響を与えないように最大送信出力はかなり低く抑えられている。

 日本では,総務省のUWB無線システム委員会で検討中だ。当初は米国並みの帯域を検討していたが,現在は3.4G~4.8GHzと7.25G~10.25GHzの帯域をUWB向けに割り当てる方向で提案をまとめている。WUSBは,前者の帯域を使うことになる見込みだ。加えて,ほかの通信システムへの干渉を避けるための「干渉軽減技術」の搭載も条件に加えられる模様である。総務省は,2006年3月までに報告書を作成し,情報通信審議会に諮りたいとしている。

 WUSBでデータを送るしくみについて,もう少し詳しく見てみよう。WUSBでは,「UWBパケット」という単位でデータをやりとりする。このパケットは,パケットの先頭の識別などに使われる「PLCPプリアンブル」,さまざまな制御情報が入る「PLCPヘッダー」,データ部などからなる。

 PLCPプリアンブルとPLCPヘッダーは,距離や周囲の電波環境にかかわらず受信側で読み取れるように,常に同じ伝送速度で送るようになっている。一方,データ部は,信号の強度に応じて伝送速度のモードを切り替える。電波が十分強い3m程度の距離なら,最大伝送速度の480Mビット/秒を出せる。

 UWBパケットは,決められたサイズのデータに分割される。各データは一つの信号(OFDMシンボル)に変換され,OFDM方式によって一つのバンドを使って送られる。さらに,OFDMシンボルごとに三つのバンドを切り替えていく。三つのバンドを切り替えるのは,信号を広い周波数帯域に分散させることで送信出力のピーク値を低く抑えるため。一つのバンドだけを使って同じ伝送速度を実現すると送信出力が大きくなってしまい,同じ帯域を使うほかの通信システムに干渉する可能性が高くなる。WUSB は,広い周波数帯域をまんべんなく使うことで,送信出力のピーク値を小さくしているわけだ。