萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 所長
前田 洋一 NTTアクセスサービスシステム研究所 光アクセスシステムプロジェクト主幹研究員
中塚 的志 NTTアクセスサービスシステム研究所 光アクセスシステムプロジェクト主任研究員
日本は,100万以上ものユーザーに対して光アクセス・サービスを提供しているFTTH先進国です。一方で地域によって格差はありますが,海外でも,欧米や韓国を中心に徐々にPONが広まりつつあります。今回は海外でのPONの導入状況を紹介します。
日本以外の国で,PON(passive optical network)の導入に最も熱心なのは米国です(表1)。通信事業者はケーブルテレビ事業者と激しい競争下にあり,対抗上トリプルプレイ・サービスを導入する必要があるからです。
規制撤廃で北米でFTTH導入が進む
米国ではインターネット接続にケーブルテレビ事業者のケーブル・モデムが広く普及しています。ケーブルテレビ事業者は,VoIP(voice over IP)の追加で,簡単に音声,データ,映像のトリプルプレイ・サービスを提供可能です。
一方の通信事業者は,トリプルプレイを提供するには光アクセス・システムが必要になります。以前は,要望があれば敷設した光ファイバ・ケーブルを他事業者に貸し出す義務(アンバンドル規制)があったため,通信事業者は光ファイバの敷設に消極的でした。
しかしFCC(Federal Communications Commission,米国連邦通信委員会)が2003年2月にアンバンドル規制の緩和を発表。これを機に,通信事業者は積極攻勢に転じました。同年5月には,米ベライゾン・コミュニケーションズ,米SBCコミュニケーションズ,米ベルサウスの大手3社が,B-PONを使ってユーザー宅の敷地(premises)まで光ファイバを敷設するFTTP(fiber to the premises,図1)のために,共同でRFPを提示しています。
中でもベライゾンは,B-PONの導入に前向きです。既存の電話サービスとデータ通信,映像サービスをセットにしたトリプルプレイ・サービス「FiOS」を発表。2005年末には,300万加入対応の設備を導入する計画を明らかにしています。
当初は映像伝送に波長多重技術を用いますが,将来的にはG-PONを導入し,映像もIP化して伝送する計画です。
SBCコミュニケーションズもPONの導入に積極的です。2007年末までに100万加入にFTTPを提供する「ProjectLightspeed」プランを発表。音声,データ,映像もIP化して伝送する計画で,既にサンフランシスコ郊外のミッションベイなどで導入が進んでいます。
欧州はまだB-PONのトライアル段階
欧州各国の主要通信事業者は,FTTH導入にそれほど積極的ではありません。石畳が多い都市の構造上,光ファイバを通しにくいためと,米国のようにケーブルテレビ事業者との競争がそれほど激しくない事情からです。
英BTやフランス・テレコム(FT)が過去にFTTHをPONの形態で一部地域に導入しましたが,大きな動きにはなりませんでした。とはいえ最近の日米の動きに刺激され,BTは2004年からB-PONのトライアルを始め,FTも2005年にB-PONのトライアルを開始予定。いずれも将来はG-PONの導入も検討しています。
DSL飽和の韓国はWDM-PONで新サービス
DSLの普及率が世界でトップの韓国(2004年6月末時点,DSLフォーラム調べ)は,ブロードバンドが既に頭打ち状態。そのため最大手通信事業者であるKTは,新たな収入源としてビデオやゲームのオン・デマンド・サービスを計画しています。このサービス用に2006年内に本格導入を計画しているのが,WDM-PONという新しいPON技術です。
WDM-PONは,波長多重技術を使って各ユーザーに1波長をそのまま伝送することで,GE-PONやG-PON以上の高速化に対応します。各ユーザーに対して75Mビット/秒程度の帯域が必要となる上記サービスには,WDM-PONが適しているわけです。
次回は光アクセス・システムの敷設技術について解説します。