2005年は、“RFID(無線ICタグ)元年”と言われました。サプライチェーンの効率化やトレーサビリティ(生産・流通履歴の追跡)システムの高度化、小売店におけるCS(顧客満足度)の向上などを目指し、欧米に続き日本でもさまざまな業界で、ICタグシステムの導入を目指す動きが活発になりました。婦人靴売り場に導入し、CSの向上や売り上げの増加に効果を上げている三越や阪急百貨店、高島屋のケースがその代表例です。

 こうしたなか、関係者を最も驚かせたのが、ヨドバシカメラの2005年9月の発表でした。ICタグの国際標準化団体である「EPCグローバル」の最新規格「Gen 2」に準拠したUHF帯対応ICタグシステムを、2006年5月から導入する計画を打ち出しました。導入に向けて現在、「UHF帯対応ICタグをパレットやケースに張り付けて商品を納入してほしい」と、取引先の家電メーカーなどに要請しています。ICタグの普及をユーザー企業がけん引するという意味で、「日本版ウォルマート・ストアーズ」あるいは「日本版ベストバイ」とも言える積極的な取り組みといえます。

 さらに2005年は、個人情報保護法の全面施行を受けたセキュリティ対策、相次ぐ医療過誤の防止対策など、ICタグの活用に対するニーズが高まりました。子供が巻き込まれる事件や事故が続発したことで、ICタグシステムを利用して登下校中の子供の安全を守ろうとする取り組みも活発になりました。

 こうした分野でも、ICタグシステムの実用例が出てきています。例えば、秋田大学医学部付属病院では、病室における投薬ミスの防止に活用しています。東京の立教小学校では、児童の登下校をICタグで管理しています。京都の立命館小学校(今年4月に開校予定)では、阪急電鉄や京阪電車など関西の私鉄3社と協力して、通学中の児童が駅の自動改札機を通過したことを保護者にメールで知らせるサービスを開校時から提供する予定です。

バーコードの代替技術ではない

 そして2006年は、ICタグシステムの実用化を目指す動きが昨年以上に活発になるのは間違いありません。経済産業省や総務省、国土交通省、農林水産省など行政が中心になって取り組んできた実用性を検証する実証実験の段階から、実導入が本格化する新たなステージに入るでしょう。

 また2006年春には、UHF帯対応ICタグシステムが相次いで商品化されます。13.56MHz帯対応や2.45GHz帯対応のパッシブ型、300MHz帯対応や400MHz帯対応のアクティブ型といった現行システムに、「通信距離が長くて通信エリアが広く、高速で動くICタグでも読み取りやすい」といった特徴を持つパッシブ型のUHF帯対応システムが加わることで、ユーザー企業の選択肢は広がります。

 ただし、2006年をICタグシステムの本格導入期にするには、こうしたICタグの基本性能や特徴などを理解するだけでは不十分です。実際に現場で使用する際の注意点やシステム構築のノウハウだけでなく、どれだけの投資対効果(ROI)が期待できるのかを、前もって把握しなければなりません。

 確かにICタグシステムは、現行のバーコードシステムに比べると、導入コストがかさみます。しかしICタグシステムは、バーコードシステムを代替する技術ではありません。バーコードシステムでは対応できない分野を開拓し、「付加価値をいかに生み出すか」という新たなビジネスモデルを構築する必要があります。そうすれば、ICタグシステムの導入コストは決して高くないはずです。その典型例が子供の安全を守るシステムや、病院における医療ミス防止システムなどへの応用です。いった“付加価値”によって、導入コストのハードルは低くなっています。

 逆に言えば、ICタグシステムをバーコードシステムの代替技術としてとらえていると、導入コストの問題はいつまでたっても解決しません。昨年からの“RFIDブーム”は、浮ついたブームで終わってしまうのか。それとも、地に足が着いた本格的な導入期に移行するのか。その答えは、今年1年の関係者の努力にかかっているとみています。