顧客とともに、再び成長軌道へ——。日本経済が「完全復活」に向けて力強く歩んでいる今年こそは、ソリューションプロバイダが再び成長の波に乗る好機だ。しかし、IT投資の復活に甘えていては、過去と同じ過ちを将来も繰り返すだろう。しかも、増加を続ける企業の設備投資の中で、IT投資の戻りは明らかに出遅れている。攻めの投資と同時に、IT資産全体をどう組み替えるか。景気回復期にある今だから、顧客は過去のIT資産に手を付けられる。ソリューションプロバイダにとっても、業績が回復しつつある今こそが、高付加価値のソリューションを生み出せる事業構造へと改革を進めるべき時だ。2006年の商談を勝ち抜き、顧客とともに復活を果たすための知恵を、10個のキーワードから紹介する。




図●2006年の商談を決める10のキーワード
 今年は、ITサービス業界が久しぶりに明るい展望を共有できるはずだ。日本の景気回復は持続力を伴っており、企業経営は完全に攻めの姿勢に入った。業績回復に出遅れていたソリューションプロバイダも、顧客の成長とともに反転攻勢に転じたいところだ。

 企業の攻めの姿勢は、設備投資からも分かる。財務省の統計では、2005年7~9月期における全産業の設備投資額は前年同期比で9.6%増と高い水準を維持し、10四半期連続で増加を達成した。

 IT投資についても「民間企業は完全に復調した」(NTTデータの浜口友一社長)と実感しているソリューションプロバイダは多い。永く投資を凍結してきた地方銀行がIT投資を再開するなど、地方経済にも攻めの姿勢が広がっている。

 しかし、浮かれてはいられない。大幅に伸びた生産設備などに対して、IT投資の回復は明らかに出遅れており、SE料金の単価も下落したままだからだ。「2006年度のIT投資は横ばい」という予測すらある。アビーム コンサルティングの西岡一正社長も「日本の経営者には、まだIT化へのためらいがある」と指摘する。

SIの収益モデルを変える時

 なぜ、攻めの時期にIT投資が後回しになるのか。ITが、収益力向上のための即戦力ツールにはなり得ないとみられているのだ。「ITベンダーに振り回された」といった、不信感を持つ経営者さえいる。

 「攻め一辺倒」の新規投資を促す提案ばかりでは、やはり顧客の心に響かない。運用コストが膨らんだ既存のIT資産をどうするか。顧客のITポートフォリオを組み替える提案があってこそ、顧客は攻めの投資にも耳を傾ける。日本オラクルの新宅正明社長は「“IT不良資産”を“良化”するメリットを、ソリューションプロバイダが顧客に気付かせるべき」と指摘する。業績が回復した今なら、顧客は思い切った過去の資産処理にも前向きになれるはずだ。

 ソリューションプロバイダも手組み主体やパッケージのカスタマイズといった従来型のSIに依存した収益構造を見直すべきだ。オフショアで対応できる領域は、価格下落が続いている。業績回復期こそ、国内での生産性を高め、コモディティ化しにくい高付加価値の事業モデルを探るべきだ。

 本特集では商談獲得に向け、2006年に即戦力となり得るキーワードを10個取り上げる。顧客に今提案したい「攻めの戦略投資」とITコスト削減などの「現場の効率化」、さらに自らの収益構造を変える「ビジネス改革」と、各テーマを満遍なく含めた。反転攻勢に転じるためのヒントにしてほしい。

内部統制で「攻め」を呼びかける

 最初のキーワードは、「内部統制」だ。約4000社ある上場企業すべてが規制の対象となるだけに、草案の段階でも顧客の関心が盛り上がっている。しかし「規制クリア」の提案で終わるのは実に惜しいテーマである点に気付いてほしい。内部統制の導入は、経営者にとっては業務プロセスの“見える化”なのだから、この仕組みを起点に、顧客を攻めのIT投資にもいざなえるのだ。

 SOA(サービス指向アーキテクチャ)技術は、対応製品が出そろい、顧客にも概念が浸透し始めた。しかし、日本企業は「他社での実績を見てから」と、リスクを避けたがるもの。こういう難しい時期は「プチSOA」、すなわち顧客が手軽に試せて、まずメリットを実体験できる提案を用意したい。

 「課題先進国」とは、今の日本の姿そのもののことだ。人口減少や高齢化、医療問題、環境、防災など、日本社会は多くの課題を抱えるようになった。ここに、ITの解決力が求められている。難しい挑戦だが、これらの課題に取り組んでこそ、日本でしか作れず、海外にも通用する高付加価値のソリューションを生みだせる。

 「プレ2007年」では、団塊世代の技術者が一斉に退職する「2007年問題」に代わって、にわかに深刻化する別の問題を提起する。次代の基幹系システムを担うべき、若手の技術者不足である。不人気職になった基幹系システムの運用をどうすべきか。2007年を前にした今年が、顧客の将来ビジョン作りを手助けするよい機会だ。

世代交代する経営者に提案を

 ショーケースとなるソリューション作りで協業する顧客像として、これからは「新興中小企業」に着目しよう。ITの支援を待っている新しいビジネスモデルは、大企業からは生まれていない。急成長を遂げている新興の中堅・中小企業と組んでこそ、後を追う同業他社にも横展開できるソリューションを作ることができる。

 「脱ライセンスビジネス」は、ソフト販売に頼らないという、オープンソースソフトウエア(OSS)で目指すべき事業モデルである。しかし、脱ライセンスだけでは利益を生む事業モデルにはならない。OSSで勝つには、その使い方に工夫が必要だ。

 「お客様マネジメント」は、SI事業の利益を守るために営業現場が取り組みたいテーマだ。営業が担う契約管理の重要性は浸透してきた。次は、意識の低い顧客にも契約の重要さを納得させたり、顧客との適切な関係を築いたりするための、営業技術を磨こう。

 ITサービス業界もようやく海外市場に目が向き始めた。しかし、顧客に密着するというITサービスの性格は本来、グローバル化とは相いれないものだ。国ごとの事情に応じた「マルチナショナル」こそ、海外展開の活路だ。

 攻めの企業経営に向け、経営者に語りかけたいテーマが「マネジメントコックピット」。経営指標をリアルタイムで把握し、スピード経営を実現するEPM(エンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント)の概念を具現化したものだ。今までは、そもそもEPMを必要とするトップダウン型経営者が日本に少なかった。しかし世代交代で、自ら“操縦桿”を握る経営者が台頭しつつある。

 「情シス再生」とは、顧客の情報システム部門を再生させるビジネスのこと。昨年末に東京証券取引所でシステムトラブルが相次いだこともあり、経営者にとって社内の情報システム部門の弱体化は人ごとではない。その再生に手を差し伸べることが今後はビジネスとして成立するだろう。