2006年は「パッケージ」から「配信」へと動く-----------今年のエンタテインメント業界では、送り手だけでなく受け手も含めて「パッケージ作品」から「配信コンテンツ」に大きくシフトすると考えられています。

 05年は音楽配信の利用者が爆発的に増えた年でした。アップルコンピュータは8月にiTunes Music Storeを日本でスタートしました(iTMS-J)。開始4日でダウンロード数は100万曲を突破。年末恒例の日経MJ「ヒット商品番付」では、西の横綱不在の中、東の横綱に輝き、なかなか浮上しなかった日本の音楽配信ビジネスを一気に広げたと評価されました。ここまで支持された最大の理由は豊富な楽曲数にあります。iTMS-Jは当初から百万曲を揃えており、さらに楽曲提供するレコード会社が増えています(ソニーの楽曲提供は未だにめどが立っていませんが)。また、プレスする必要がないため店頭に並べられないような古い作品も販売できることが拡大を後押ししています。

 動画の世界でも配信が広がりました。これまでも多くのプロバイダーが動画配信に取り組んで来ましたが、USENが4月に始めた「GyaO(ギャオ)」は視聴料金が無料ということで爆発的に人気が出ました。12月には登録者数が500万人に達しました。一部には重複登録者がいるようですが、それでも数百万人の視聴者がいることは確かです。無料ながら内容は充実しています。期間は限定されますが、映画なら「ノッティングヒルの恋人」から「愛のコリーダ」「シルミド」まで有名作品が見られますし、久米宏やテリー伊藤を起用したオリジナル番組も登場しました。もうニッチな視聴者向けのマイナーなプログラムではなくなっているのです。

 また、最新型のiPodでは動画が見られますし、プレイステーション・ポータブルでも動画を楽しむことができます。動画配信は身近なものになりつつあるのです。

 2006年は、この流れがさらに加速しそうです。特に動画配信では、ソフトバンクが無料の動画配信サービス「TVBank」を春にスタートさせる予定です(現在はβ版)。「TVBank」ではすでに「冬のソナタ」やNHKの「プロジェクトX」を配信しているので、視聴者としては期待できそうです。

 ただ、パソコンとブロードバンドという仕組みの配信ビジネスがすんなり広がるかというとそうでもなさそうです。携帯電話がコンテンツビジネスを狙っているからです。

 音楽業界がもっとも驚いているのは携帯電話での音楽配信です。auの着うたフルは昨年末の12月28日に累計3000万曲がダウンロードされるに至りました。04年の11月にスタートして以来、1年と1カ月あまりでの達成でした。当初着うたフルの楽曲数は1万曲足らずでしたが、この1年で6倍を超える6万曲以上になりました。特に新曲には力が入っていてトップ10ヒットの6割以上をカバーしています。単純には比較できませんが、聞きたい曲だけ買うという感覚のCDシングルが昨年1月から11までの生産実績で約4500万枚ですから(日本レコード協会発表)、遜色のないものになりつつあるのです。

 また、4月からは携帯電話で地上テジタルのテレビ放送が見られる「ワンセグ放送」がスタートします。地上デジタル放送の6MHzの帯域を13分けたうちの1つを使ってのテレビ放送で、カーナビやパソコンなどでも受信できます。こうした放送が始まると、ネット経由の動画配信との競争になると思われます。

 IT企業側からのエンタテインメント・コンテンツに対する期待はとても大きいのですが、メジャーになればなるほど、ユーザーにとって扱いやすくなればなるほど、競争相手は増えてきます。どこが伸びてどこが撤退するのか、コンテンツを巡る競争の行方は専門家にも(もちろん私にも)まったく想像がつきません。年末の日経エンタテインメント!の記事をご期待いただくしかないようです。今年一年もおつきあいいただければ幸いです。よろしくお願いします。