図1 波長多重とIP通信の違い 波長多重は通信サービス用と映像サービス用で波長を分けて送信,IP通信は両者をひとまとめにする。
図1 波長多重とIP通信の違い 波長多重は通信サービス用と映像サービス用で波長を分けて送信,IP通信は両者をひとまとめにする。
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図2 PONを使った光波長多重による映像伝送 光波長多重を使うとデジタル放送のハイビジョン画質(HDTV)なら約110チャンネル,標準画質(SDTV)なら約500チャンネル分の映像をユーザー宅に伝送できる。
図2 PONを使った光波長多重による映像伝送 光波長多重を使うとデジタル放送のハイビジョン画質(HDTV)なら約110チャンネル,標準画質(SDTV)なら約500チャンネル分の映像をユーザー宅に伝送できる。
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萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部長
奥村 康行 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト プロジェクトマネージャー
青柳 愼一 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト

前回までPON(passive optical network)やメディア・コンバータなどFTTH(fiber to the home)の普及を支える光アクセス・システムについて解説してきました。今回は光アクセス・システムを使った映像サービスの提供方法について紹介します。

 光アクセス・システムを使って映像サービスを提供する方法には,大きく2種類あります。一つは波長多重,もう一つはIP通信を利用する方法です(図1)。

 波長多重は,映像サービス用の波長を通信サービス用とは別に割り当て,同じファイバに波長多重して伝送する方式です。通常のケーブルテレビで提供している映像信号をそのまま伝送します。また映像サービスだけで一つの波長を占有するので,他の通信の影響を受けずに安定した品質を確保できます。著作権上の解釈も「放送」となるため,地上波などの基幹放送の再送信も可能です。現在,オプティキャストなどの電気通信役務利用放送事業者が,この方式で映像サービスを提供しています。

標準画質で約500チャンネル送信可能

 PONシステムを使った波長多重の方式はITU-TのG.983.3として勧告化が完了しており,商用サービスもそれに準拠しています。ITU-TはB-PONの一部として最初に標準化しました。その後のGE-PON,G-PONもこの勧告に準拠しました。そのためPON方式が異なっても,同じ装置を使って映像の波長多重が可能です。

 映像信号は,通常のケーブルテレビと同じ770MHz帯を使い,光信号で伝送します(図2)。770MHz帯では映像信号を送るための約110本のキャリアを伝送できます。1キャリアのビットレートは,変調方式にもよりますが,ケーブルテレビで標準的に使われる64値QAMならば約30Mビット/秒。デジタル放送の標準テレビ画質(SDTV)で1キャリア当たり4~5チャンネル,ハイビジョン画質(HDTV)で1チャンネルの伝送ができます。従って,HDTVなら約110チャンネル,SDTVなら約500チャンネルもの配信が可能。IP通信を利用する映像サービスでは,これだけのチャンネル数のデジタル・テレビを同時に送ることは困難です。

 波長多重の映像信号は,強度変調方式(J.186)とFM一括変換方式(J.185)のいずれかの方式で変調後,光伝送します。強度変調方式は,770MHz帯の電気信号でそのまま光強度を変調する方式。一方のFM一括変換方式は,770MHz帯の電気信号を,いったん中心周波数約3GHzのFM信号に変換した後,光強度を変調する方式です。

 光変調された映像信号は,光アンプの増幅と光スプリッタによる分岐を繰り返すことで,多数のユーザー宅へ送出されます。また,光アンプによって変調器からの光信号を多段中継することで,複数の市町村,県規模の広域な配信も可能です。そのため波長多重方式の映像伝送サービスは,電波障害による地上波テレビの難視聴地域での利用も期待されています。

事業者ごとに異なるIP放送

 一方のIP通信は,Webアクセスなど他のデータと同じ伝送路に,映像サービスのパケットを多重する方式です。「IP放送」とも呼ばれます。ぷららネットワークスなどの「4th Media」,KDDIの「光プラスTV」,ソフトバンク・グループの「BBTV」などが,現在IP放送を提供中です。

 IP放送の仕組みは事業者ごとに異なります。そのため,それぞれ対応したSTBが必要です。また,品質,制度などの面から,地上波などの基幹放送を提供できるまでには至っていません。他サービスのパケットと多重することから,映像品質を保つためにQoS(quality of service)管理も必要になります。

 次回は海外における光アクセス・システムの動向を紹介します。