オープンソースカンファレンス2005 Hokkaidoの模様
オープンソースカンファレンス2005 Hokkaidoの模様
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オープンソースカンファレンス2005 Okinawaの模様
オープンソースカンファレンス2005 Okinawaの模様
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Niigata Linux
Niigata Linux
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 2005年のオープンソースは,様々な領域にじっくりと浸透していき,あまり大きな波乱もなく1年が過ぎた。サーバーとしてオープンソースを利用するのは普通の選択肢になり,Windowsの話題が中心の一般的なPC雑誌などでも,FirefoxやOpenOffice.orgが大きく取り上げられるなど,波穏やかに順風が吹いていた1年だったと言える。そんな中で私が感じたのが,地域コミュニティの盛り上がりの息吹だ。

2005年の地域イベントでの成果

 昨年は7月に北海道,11月に沖縄で,コミュニティが集まるイベント「オープンソースカンファレンス」を開催した。予想に反して北海道で250名,沖縄では200名もの参加者が来場した(関連記事)。それぞれ100名程度の参加者ではないかと考えていただけに,嬉しい誤算であった。

 それぞれのイベントの参加者にはアンケートへの回答をお願いしたが,その結果から,大きく2つの特徴が見えてきた。

 一つはオープンソースソフトウエアに関する関心の高まりだ。東京で開催したカンファレンスでもそうだったが,普段はあまりオープンソース・コミュニティの活動に参加していない人が数多く参加している。

 そしてもう一つが,セミナーなどに参加する機会が少ないという意見だ。確かに東京などに比べると,企業が主催するセミナーやコミュニティ主体の勉強会などの数は絶対的に少ないので,ある程度はやむを得ないところだろう。

 総じて,首都圏以外の地域においてもオープンソースに関する情報取得に対する意欲が旺盛であると感じた。これらの声を受けて,2006年も北海道と沖縄でオープンソースカンファレンスを開催する予定だ。ただし,昨年と同じではあまり意味がないので,地域のオープンソース・コミュニティがさらに盛り上がるようになるために,少し提案をしてみたい。

Niigata Linuxの例に学ぶ

 まず始めに,地域コミュニティから生まれたLinuxディストリビューション「Niigata Linux」に注目したい。Niigata Linuxは,新潟で活動を行っている新潟オープンソース協会が開発したディストリビューションだ。Niigata Linuxのコンセプトは「目的をデータベースを利用したWebアプリケーションの開発に絞り込み,CD-ROMからインストールしただけで,開発環境が構築できるようしにしたLinuxディストリビューション」ということになる(Niigata LinuxのWebページより引用)。

 始まりはPostgreSQLを中心としたコミュニティだったが,その後Linuxディストリビューションを作るようになり,さらに「日本で1番オープンソースが盛んな県は新潟県!」を目標に活動を行っている。新潟で独自にオープンソースのイベントを開催しているし,東京を始め北海道や沖縄のオープンソースカンファレンスにも出展するなど,積極的な活動を行っている。活動を支えるのは地元のIT企業をオープンソースを使ったシステム構築で活性化したいという想いがある。実現手段の一つがNiigata Linuxだという。長岡技術科学大学という地元の大学が活動に積極的に参加していることも特徴だ。

 新潟に限らず,北海道にも沖縄にも同じように地域で盛り上がっていくぞ,という意気込みを感じた。それ以外の地域でも,多分同様だろう。しかし反面,どのようにして地域コミュニティを盛り上げていけばいいのか分からないという声も聞く。もし,その地域にオープンソースのコミュニティらしいコミュニティがないとして,どのようにすればいいのだろうか。

集まるところから始めよう

 私の経験からすると,コミュニティ活動を始めるのは考えるほどは難しくない。ソフトウエア主体のコミュニティ活動については,本連載の第19回で少し触れたが,地域コミュニティの場合には若干違うところがある。とりあえず「3人寄れば地域コミュニティ」ぐらいのつもりで,オープンソースに興味がある人で集まるところから始めてみるといいのではないだろうか。

 集まる人は,ある人はLinux中心だったり,人によってはBSD系のOSを使っていたり,あるいはOSにはあまり関係なくWebアプリケーション開発がメインだったりと多種多彩だ。この多様な参加者の間で自分の興味の垣根を越えて情報交換ができるのが,地域コミュニティの面白いところでもある。

 集まり方としては,形式張ってセミナーとして資料など用意しなくてもよいので,お互いに最近やったことを簡単に報告し合う勉強会形式で始めてみよう。意外と新鮮な発見があるはずだ。あまり手間暇をかけず,とにかく気軽に集まってみるというところが重要だ。

何事も継続は力なり

 そしてこの集まりは,できるだけ定期的に集まるようにしていくことが肝心だ。曜日なり日にちを決めて,毎月開催するぐらいの頻度で集まれると理想的だろう。無理に毎回出席する必要はないので,集まれる時に集まるぐらいのペースで進めていってはどうだろうか。

 そして2回目,3回目ぐらいからは,誰か新しい参加者を連れてくるようにする。そうすれば自然と人も増えていくし,新しい参加者がいれば話題も広がっていく。少しずつでも構わないので,参加者の輪を広げていくことができれば,コミュニティ活動も軌道に乗っていくだろう。

 実はコミュニティ活動を続けていく上で,マンネリ化を防ぐのが一番難しい。集まるメンバーが固定化されてくると,そういつもいつも新鮮なネタがあるわけでもなく,なんとなく集まることに意義を感じられなくなっていってしまう。それがまた,仲間内だけで集まっているように見えてしまい,新しい人が入りにくい雰囲気を醸し出すという悪循環に陥ってしまう。

 コミュニティも一種の生き物なので,新陳代謝という意味でメンバーの入れ替わりは避けて通れないと考えて,新しい人が入ってくる仕組みを用意するとよいだろう。場合によっては,ITにはあまり縁のない,エンジニア以外の人が入ってこれるような工夫も必要かもしれない。

 今までのオープンソース・コミュニティでは,やはりネットワークやサーバーといった技術が主眼に置かれているため,参加者もエンジニアに偏りがちだった。だから地域コミュニティではFirefoxやOpenOffice.orgといった一般ユーザーでも入ってきやすい雰囲気のソフトウエアを取り上げてみるといいかもしれない。また,高校生や中学生といった若い層にもアピールしていくことができると面白そうだ。これまでのオープンソース・コミュニティとは一線を画す,地域コミュニティならではの活動も展開できそうだ。

 2006年は,地域コミュニティが活性化する1年になることを期待したい。

■著者紹介
宮原 徹(みやはら・とおる)氏
株式会社びぎねっと代表取締役社長/CEO。1972年,神奈 川県生まれ。中央大学法学部法律学科卒。 日本オラクル株式会社で「Oracle 8 for Linux」などのマーケ ティングを手がけた後,オープンソースのマーケティングを志し, 2001年,株式会社びぎねっとを設立。「オープンソースカンファレン ス」の運営など,様々なオープンソース・コミュニティの盛り上げ役と して全国を飛び回っている。最近では,IPAの「未踏ソフトウェ ア開発事業」へのプロジェクト管理組織としての参加や,早稲田大学非 常勤講師として若い才能を育てる活動も精力的にこなしている。(宮原氏インタビュー「会社に閉じこもらず交流しよう」)。