大学生の間で情報システム分野の人気が下がって,すでに何年か経つ。昨年秋には東京大学で情報システム関連学部を志望する学生が減り定員割れになったという(こちらの記事参照)。東大に限らず,ITエンジニアの仕事はきつくて報われないと見ている学生は多い。学生は世相には敏感であり,実際に情報システムの現場が悲惨になるときはよくあるので,このような評判は致し方ない面もある。ただ,これは表層しか見ておらず,いま起こっている情報システムの世界の変化をとらえきれてはいない。

 日本に情報システムが本格導入されて半世紀が経ち,情報システムの役割は個々の業務の自動化・省力化から,社内外のビジネス活動の連携・改革へと変わってきた。これに伴いITエンジニアの役割と,その役割を果たすために必要となる能力は大きく変化している。現在は過渡期にあり混乱もあるが,今の学生が企業でリーダーになるころには,ITエンジニアが活躍する場は広がっているだろう。

 ITエンジニアの役割の変化は,ある大手企業のCIO(最高情報責任者)の言葉に端的に表れている。「昔のシステム案件は部門単位で,責任者は自動的にその部門長がなった。ところが最近のシステム案件は部門横断的になっており,IT部門がプロジェクトの責任を持つことが少なくない。ITエンジニアが複数部門の利害関係の調整に走り回り,新しい業務を固め,システムを作りあげている」。

 このようにITエンジニアは,全社システム構築など複雑な仕事を任されるようになった。そのため仕様変更や手戻りが頻発し,ITエンジニアが修羅場に立たされることも多い。しかし,この問題を解決する手がかりはすでにある。解決できれば,ITエンジニアの前途は開けてくる。

 これからのITエンジニアに求められる能力は何か。「当社のビジネスって結局,何なのか」,「基盤となっている業務は何か」というビジネス活動の基本を見極め,利害関係者の合意をとり,仕組みに落とし込んでシステムとして実装することだ。これはかなり高度な仕事だが,ITエンジニアはそのための考え方や実装手法を学びつつある。最近の言葉で言えば,EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)やSOA(サービス指向アーキテクチャ)がそれだ。

 これらを情報システム構築の手法と限定的にとらえる人はまだ多いが,源流をたどればいずれもビジネスの本質をとらえ,仕組みを作るための考え方である。最近また新聞やテレビの話題になってしまったシステム障害を克服するためにも,ビジネスの変化に強いシステムを作るためにも,今年はEAやSOAへの取り組みが本格化するだろう。また利害関係などの調整に必要なコミュニケーションやネゴシエーション・スキルを習得しているITエンジニアも増えている。

 これらによって今後,ITエンジニアはビジネスの本質やシステム基盤などを固めたうえで情報システムを作っていくことになる。ITエンジニアは企業や社会の仕組みを新たに作りなおす担い手として復権するはずだ。ITエンジニア自身がビジネスの表舞台に立つことはあまりないだろうが,参謀としてビジネスを支え続け,企業の仕組みを作る大黒柱になっていく。今年はその流れが明確に見えてくるだろう。