学校や図書館などの教育機関やインターネットカフェのような複数のユーザーが1台のパソコンを共有しているところは多い。こうした場所ではスパイウエアを組み込まれてパスワードが漏えいするなどのセキュリティ上の問題が起こりやすい。不特定多数の人間が使用するためセキュリティへの対策がおざなりだったり、そもそもシステムの管理者がおらず、担当者が片手間で作業していたりすることが多いためだ。
「Trustworthy Computing(信頼できるコンピューター環境)」構想を進めるマイクロソフトはこうした状況に対して、2005年12月、システム管理者ほどの知識がなくても、不特定多数のユーザーが利用する共有パソコンを安全に設定・運営できるシステムツール「Shared Computer Toolkit for Windows XP」(以下、SCT)の配布を開始した。同社のWebサイト(http://www.microsoft.com/japan/)からダウンロードできる。
SCTはWindows XPを搭載したパソコンで動作する。導入するにはHDDに5MB程度の空き容量が必要。起動すると、ボタンと導入手順を示した画面が表示される。設定するにはそれぞれのボタンを押すか、手順に従って作業していけばよい(画面左下[拡大表示])。
無料で使えるのが強み
SCTの主な機能は3つある。一つは「ユーザーの制限」。ユーザーアカウントの作成や削除が簡単に行えるので、他人のアカウントを使わなくても済む。
二つめの「共有PCの設定」では、利用するユーザーによって使えるソフトウエアを決めておいたり、一定時間使用すると強制終了などが可能。三つめの「Windowsのディスク保護」を使えば、システムの設定を変更したり、ソフトウエアを勝手にインストールしても簡単に元に戻すことができるようになる。
このような機能を持つソフトは同ソフト以外にも、既に他社から販売されている。システムの復元ならアルプス システム インテグレーションの「WinKeeper」、システムの保護であればアーク情報システムの「HD革命/Win Protecter」など多くの製品がある。これらの製品は実績もある。マイクロソフトのSCTは、無料という点と、難しい知識を必要としないという点が普及の鍵を握る。
米国では2005年9月に配布が開始されており、国内でも既に試験導入を開始している機関がある。三鷹市教育センターはその一つ。2005年11月から職員や訪問者用に4台のパソコンを導入し、年明けには数十台規模での導入を計画している。三鷹市教育センターの大島克己所長は導入した理由について「今は専用のソフトを使っているが、動作が不安定でも原因が分からなかったり、導入するためにある程度の予算が必要。SCTなら導入費用が基本的に無料で、専門ソフトに比べ設定が楽な割に教育現場で求める機能はすべて満たせる」と費用と手軽さの2点を高く評価している。
導入の手順は簡単
では、導入や使い勝手はどれくらい簡単なのだろうか。共有パソコンを設定するには、まず、共有アカウントを作成する。そして利用するアプリケーションを決めたり、使用時間などを指定する。これらの設定はチェックを付けたり、時間を指定するなどの簡単な作業で行える。
元の状態に戻せるWindowsのディスク保護も、パーティションを作成する必要はあるが、設定自体は簡単だ。パスワードのチェック機能を使えば、設定したパスワードが解読されにくいかどうかなどもチェックできる。
使用するソフトを制限する場合は、ソフトをインストールできないようにしたり、Internet ExplorerやOutlook Expressしか使えないように機能制限もできる(画面右下[拡大表示])。
ある程度、パソコンの知識があれば有料ソフトを買わなくても安心して共有パソコンを使えるようにできるのは便利だ。
今まで予算や知識不足から手が届かなかった共有パソコンへも目が届くようになれば、全体としてセキュリティが向上する可能性はある。SCTが、ほかのセキュリティ対策ソフトの市場を奪うよりも、有料の製品が使えない市場で使われるようになれば、パソコン環境全体のセキュリティ向上に寄与することは間違いないだろう。