新年、あけましておめでとうございます。

 日経情報ストラテジー編集長の多田和市(ただ わいち)です。2006年も、経営改革と業務改善をテーマに、より具体的で深掘りしたケーススタディーをお届けします。

 さて昨年は、景気の踊り場を脱して、デフレ経済の終焉も見えてきました。日経平均株価も1年間で3割上昇し、日本経済に明るさが出てきました。

 ところが、後半にきて不安材料も噴出しました。マンションやビジネスホテルの耐震構造偽造事件をはじめ、東証のシステムダウンやJRの事故など、「とんでもないこと」、「あってはいけないこと」がたくさん起きたからです。改めて安心・安全について考えさせられました。

 明らかに、1990年初頭の土地バブル崩壊以降、国をあげて取り組んできたリストラの弊害が出ています。コスト削減を重視し過ぎるために、安心・安全を後回しにしてしまった結果です。デフレ経済下にあって、確かにコスト削減は重要なテーマでしたが、限度を超えてしまっては元も子もなくなります。

 そして、風向きは大きく変わりました。もはや、安さは最優先のテーマではなくなりました。一連の事件を通して、多少のお金を払ってでも、人々は安心・安全が保証された商品やサービスを求めるようになったからです。

 価格よりも価値へ。2006年以降、価値のある商品やサービスを提供できない企業は淘汰されるでしょう。しかも、安心・安全を保証したうえでのコスト競争力は不可欠です。そこで問われるのは、現場力です。リストラで痛んだ現場力を取り戻さなければなりません。

 今後、現場力が弱い企業は、生き残っていけないでしょう。逆に強い現場力を持っている企業は、ますます消費者の支持を受けます。

 その筆頭にいるのが、トヨタ自動車やキヤノンといった企業です。思い切ったリストラを断行できる経営トップに加えて、いずれも強い現場力を背景に、品質の高い商品を作って消費者から指示されています。さらに、より大きな目標に向かって突き進んでいます。

大きな目標のない企業は一気に落ちていく
存続のキーワードは、「社会貢献」と「助け合う現場力」

 昨年秋、次期経団連会長の御手洗冨士夫・キヤノン社長は、日経情報ストラテジーのインタビューでこう答えています。

 「経営者としての目標は、100年、200年続く会社にする基盤を築くこと」

 永遠に成長し続けるというのは、経営者にとって共通する願望です。では、永遠に続く会社とは一体どんな会社なのでしょうか。御手洗社長は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や米デュポンといった100年企業を手本にしているといいます。

 そのGEのジェフリー・イメルトCEO(最高経営責任者)は、企業存続のキーワードとして社会貢献を挙げます。例えば、地球環境問題への対応です。社会に貢献できる企業こそが存続を許されるという考え方に基づいています。

 環境に配慮したハイブリッドエンジンを搭載するトヨタ自動車のプリウスは、まさに社会貢献につながる商品です。そのトヨタは今年、生産台数で米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜きます。トヨタはどこまで大きくなり、永遠に存続する企業になっていくのでしょうか。

 それにしても、なぜトヨタが強いのか? 

 キーワードは、「助け合う現場力」です。日経情報ストラテジーで連載している柴田昌治スコラ・コンサルト社長は、「トヨタの強さは、社員同士がお互いを助け合うことにある」と断言します。盤石のトヨタにも問題はたくさんあるが、その問題を直視し、カイゼンしていく。その際に自分ひとりでできないときに、周りに助けをもとめ、周りもサポートを惜しまないというのです。

 柴田さんに限らず、トヨタが強い理由として、お互いに助け合う気持ちが強い組織であると指摘する識者は少なくありません。カイゼンという改革手法を持っているだけではないのです。カイゼン手法をオープンにできるのも、「助け合う」企業文化を築かないと真似することすらできないからです。そして、その根っこの部分に社会貢献があります。

 社会貢献を会社の目標に抱えてまさに急成長している企業があります。駐車場運営会社のパーク24です。西川光一社長は、こう話します。

 「我々の事業が発展することで、渋滞が緩和できればと考えている。人々にとって必要とされる、役に立つことにつながればいいと思っている」

 パーク24は、13期連続の増収増益を達成しました。しかも、その勢いはまだまだ続きそうです。「できれば二ケタ成長を目指しています」と西川社長は目を輝かせます。

【IT Pro編集から】初出時に前パラグラフ中にあった誤りを訂正(「15期連続」→「13期連続」)しました(2006年1月6日)。

 西川社長の目標は、御手洗社長の目標に近いものがあります。「売上高や利益の絶対額では、とてもトヨタに及ぶことはできない。でも、利益率やROE(株主資本利益率)といった経営指標に関しては、ナンバーワンを目指したい」

 「目標が小さいと、すぐに下り坂を転がり落ちる。創業時にいかに大きな目標を持てるかが、企業の命運を担っている」

 グッドウィル・グループの折口雅博会長兼CEOは言い切ります。ジュリアナ東京やベルファーレの大成功とその後の挫折を経てグッドウィルを創業したとき、折口会長は大目標を掲げたといいます。

 折口氏より10年以上前、ソフトバンクの孫正義社長は創業時、ミカン箱に乗って大目標をぶち上げました。現在、ソフトバンクの勢いはとどまるところをしりません。数多くの混乱はあったものの、日本におけるインターネットの普及は、ソフトバンクによる通信料金の思い切った値下げにあります。世界で最も安いブロードバンドサービスを提供しようとした行為は、まさに社会貢献につながりました。社会に必要とされる企業は、多くの人々から愛され、存続してほしいと思われます。だから存続できるのです。

 しかもトヨタのように、社員同士が助け合えば、組織としてより強くなり、存続し続ける原動力になります。最近、運動会を復活させる企業が増えているようです。例えば、アルプス電気です。なぜ、運動会なのか?

 答えは、助け合いにあります。運動会に勝つには、互いに助け合い、一致団結できるかにあります。

 永遠に続く会社を作るためのポイントは、社会貢献をベースにした高くて大きな経営目標を掲げること、そして「助け合う現場力」にあると確信する今日このごろです。

 最後に、日経情報ストラテジーからお知らせがあります。ご存じのように、弊誌は経営改革と業務改善にフォーカスしていますが、経営とIT(情報技術)を結ぶ人材としてCIO(情報戦略統括役員)をバックアップしています。その一環として2003年からCIOオブ・ザ・イヤーという賞を設けました。そして本日2005年度の受賞者が決まりました。

 川崎汽船の久保島暁常務です。久保島常務は、在任が約6年というベテランCIOです。IT投資額を売上高の0.5%に抑えるなど(ちなみに一般的には1~2%)、CIOとしての地道な努力やリーダーシップ力が高く評価されました。

 久保島常務は、「ノーと言わないクボシマ」と社内で言われているそうです。

 「誰かから助けを求められると、ノーと言わずできるだけのことをやるように心掛けています。米国赴任時代、ユーザー部門からシステムのパフォーマンスが落ちて困っていると助けを求められたとき、土日にシステム部門の社員を動員して、ユーザー部門の入力作業などを手伝いました。そうしたら米国の社員も、いろいろと助け合うようになり、トラブルが起きても皆で力を合わせて解決してくれるようになりました」

 まさに久保島常務は「助け合う現場力」を生み出してきた人物です。久保島常務には独自のCIO論や今年の抱負などを伺ってきました。詳しくは、2006年3月号の日経情報ストラテジーをお読みください。なお、3月号は、有力企業350社CIO調査に基づいて、2006年のIT投資を展望する特集記事を組んでいます。ぜひともお読みください。

 今年もよろしくお願いします。


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