現在、年末商戦の真っ只中。冬のボーナスが前年より増えた企業が目立った影響もあってか、百貨店や家電量販店といった売り場は例年にも増してにぎわいを見せている。この冬、高額なデジタル家電や冬物衣料を購入したという読者の方も少なくないだろう。

 デジタル家電の代表といえば、液晶テレビ。ご存知の通り、液晶テレビ市場は目下、シャープの独り勝ちが続いている。消費者の目に見えるところで派手な販売合戦を繰り広げる表舞台とは対照的に、実は同社では地道な改善活動が展開されている。しかも、この取り組みは町田勝彦社長の肝いりだという事実はあまり知られていないに違いない。

 大寒波が迫っていた12月中旬、記者は大阪市内のシャープ本社を訪ねた。そこへ現れたのは、同社指定のジャンパー姿の女性社員。この方こそ、全社改善活動「R-CATS活動」の推進役として、社内の隅々まで「カイゼン」を根付かせようと尽力してきた陰の立役者である。

 QCサークルをはじめとして、製造業では昔から小集団による改善活動が実施されてきた。とはいえ、それらの多くは、製造部門の取り組みにとどまっていた。R-CATSは、製造部門だけでなく、営業部門や間接部門まで対象を広げた真の全社改善といえる。だが活動を開始したころ、推進役を務めるCS推進本部品質戦略室の高木美作恵さんは多くの社員たちから抵抗を受けたと打ち明ける。

 「余計な事をやらせないでくれ」――。日々の業務で忙しい社員が反発するのも無理はなかった。それを想定していた高木さんらは、R-CATSを始めるに当たって記者発表を実施した。社内のこうした活動を広く公にするのは珍しい。小集団活動を全社で展開すると社外へ宣言することによって、社員たちに、「本気で取り組まなければならない」という意識を持たせようとしたのだ。

 R-CATSは、開始からほぼ2年が経過した。「今では、R-CATSを知らない社員はいない」と高木さんは活動が定着してきた手応えを感じている。現在は、全社で約3000に及ぶチームが自律的に業務の課題を見つけ改善している。この動きは、今年、さらに加速した。R-CATSの達成度合いを人事評価に加えたのだ。半年に1回、全社員が、どんな改善活動に取り組むかを上司と面談して決定する。活動の成果が、給与や賞与はおろか、昇格や退職金にまで影響を及ぼす。

 高収益を上げ続けているトヨタ自動車は、現場の社員が自律的に改善に取り組む企業として知られている。R-CATSも、「現場力」を強化したいという町田社長の思いから始まった。液晶テレビや太陽電池など、「オンリーワン」戦略を推進して成功を収めてきたシャープも、長期にわたって成長し続けるには自律型社員の存在が欠かせないというわけだ。シャープはR-CATSを通して、社員たちをどのように自律型に変えてきたのか。詳細は、2006年の早い時期に日経情報ストラテジーでご紹介する予定だ。