●集客事業として駅前ビルでイベント開催
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●増えつつある外国人観光客へ対応
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●数々の話題が秋葉原ブームを引き起こした
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●「ポイントサービス」対「現金値引き」の価格競争も
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 「子連れ、年配、若いカップル。アレから、アキバでは見かけなかったお客さんが増えたねぇ」。老舗パソコン店の店員は感慨深げにこう語る。アレとは9月のヨドバシカメラ開店。この冬、客層の変化に秋葉原関係者の多くが驚いている。新線開業、駅前再開発、電車男にメイド喫茶。数多のキーワードに彩られて一気に盛り上がったアキバブーム。ボーナスシーズンを迎え、街は活気づいている。が、一点の曇りもないわけではない。秋葉原の街を再び追ってみた。

一大観光地と化した「アキバ」

 秋葉原は世界有数の電気街だが、言わずと知れたマニアの街、オタクの街でもある。店員の言葉を借りれば「アレ」以前は、通りを歩いているのはマニアやオタクが中心だった。ところが、この冬は、どこの街でも見かける普通のお客さんが目立つ。人の数も増えており、休日になると、駅前も中央通りの歩行者天国も人でごったがえす。アキバブームの到来だ。

 この1年を振り返ると、秋葉原はかつてないほど話題に溢れていた。3月には、駅前の再開発で地上31階のダイビルが完成。8月には新線のつくばエクスプレスが開通。“アキバ”系の主人公が登場する「電車男」もテレビや映画で人気に。アニメなどのフィギュアを扱う店や、コスプレ姿の店員をそろえたメイド喫茶に、テレビクルーが殺到した。

 ピークが9月の「ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba」開店。巨大な量販店を一度見てみようと、これまで秋葉原に来たことのなかった人が押し寄せた。開店4日間で来場者は100万人、1カ月後には350万人を超えた。秋葉原駅の9月の乗降者数は前年比4割増という。

 「秋葉原は変革の真っ只中。再開発はまだ半分程度で、来年3月にはダイビルの隣のUDXビルも完成する」と秋葉原電気街振興会の鈴木 淳一 副会長(九十九電機社長)は、秋葉原のさらなる発展を強調する。22階建てUDXビルには、オフィスのほか、レストラン、スーパーなど複数のテナント、ホール、800台収容の駐車場が入る。就業人口は約1万人。これだけでもかなりの経済効果が見込める。

 再開発以外でも、イベントやサービスで秋葉原の魅力を高めようという取り組みも進められている。NPOの産学連携推進機構は、秋葉原先端技術テーマパーク構想を掲げ、電気街振興会と協力して、数々の集客事業を立ち上げている。

 11月26~27日には、駅前のダイビルで「アキバ・ロボット文化祭2005」が開催された。ロボット製作教室や開発者セミナーを通して、親子でロボットについて楽しみながら学べるというもの。12月24~25日には「アキバ・理科室2005」を実施する。約1000点の理科教材を販売するほか、実験ショーを実演する。

 外国人観光客も、広くなった駅前に観光バスを横付けして、大挙、アキバにやってきている。昨年は39万人の外国人が秋葉原を訪れた。これを商機と捉えたラオックス・ザ・コンピュータ館は、1階に英語や中国語が話せる店員を常駐させて、免税コーナーを設けた。

郊外の火種を呼んだヨドバシ

 「地盤沈下」などと新聞にかき立てられた頃が嘘のように活気を取り戻した秋葉原だが、電気街はこれまで以上に厳しい変化を迫られている。価格競争だ。電気街の店は、ポイントサービスに対して現金の値引きで対抗してきた。ツクモパソコン本店の戸苅 義之店長は「現金で安いほうがいいという人はいる。タイムセールなどで積極的に安値を出す」と秋葉原最安値と張り出した値札に自信を見せる。

 実は、ヨドバシも電気街も適正な利潤の出る範囲で価格競争をしたいのが本音。開店当初、ヨドバシの大幅な値下げは目立たなかった。「ヨドバシは秋葉原進出にあたり、アキバブランドを殺さないため、地元電気街との共存を選んだ」(大手パソコンメーカー営業担当部長)という見方もある。ところが、値下げ圧力が意外なところからかかってきた。秋葉原の外だ。

 秋葉原の集客力が上がれば、顧客を奪われるのは、郊外店や周囲の街に点在する量販店。こうした郊外店や量販店が価格を下げてきたのだ。こうなると秋葉原のヨドバシも対抗せざるを得ない。当初、10%だったポイント還元率は、製品によっては、じわじわと上昇している。同じ秋葉原の電気街も何らかの対策を打たざるを得ない。秋葉原で波風を立てたくなかったヨドバシだが、郊外から波風を呼び込んでしまった格好だ。

専門性、独自性を強める電気街

 電気街の中には不毛な価格競争以外に活路を見いだそうという動きもある。量販店とは競合しない得意分野での勝負だ。ソフマップは中古製品の販売や買取を強化。九十九電機は自作パーツのほかロボットのような新分野にも力を入れている。石丸電気では、DVDなどソフト販売に特化した店舗を作るなど店の再編をしてきた。「価格は安くするが、価格だけで売ることはしない」と石丸電気パソコン本館の寒河江 勤店長。丁寧な説明やサポートで顧客との信頼関係を重視する。

 秋葉原は家電、無線、オーディオ、パソコンと、時代に合わせて売るものを変えてきた。客の求めに応じて絶えず変化を繰り返してきたのが秋葉原だ。変化のスピードも速い。小さな店ほどその傾向が顕著だ。「価格.com」などで安さをアピールしている販売店のPCボンバーでは、DVDレコーダーのほか、掃除機や電気釜など家電の比率を高めている。5年ほど前までパーツ店だった「あきばお~」は、店舗によっては台湾から輸入した雑貨や食品を販売する。「他店にはないものを売っていく」(あきばお~運営のハーマンズ 営業部 加藤 幸司 副部長)という秋葉原ならではの処世術だ。

 さて、お祭りのようなアキバブームとその影で激しさを増す店舗間のサバイバル。電気街はどこへ向かうのか。前出の産学連携推進機構を率いる妹尾 堅一郎 東京大学 特任教授は「ヨドバシと電気街の関係は代替ではなく、補完あるいは相乗の関係」と語る。専門店では、部品からジャンクまで量販店にはないものが手に入る。量販店にはない面白さが客を引きつけるというのだ。

 秋葉原の萌えをテーマにした著書を最近上梓した経済アナリストの森永 卓郎氏は「一過性のブームではなく、構造変化」と見る。秋葉原の店が扱う商品は「多様化が進み、さらに深化する。ひとつひとつの商売は小さくても、全体のマーケットは大きく成長する」と見通す。

 両氏のコメントからおぼろげに浮かび上がる未来の秋葉原。多様性と奥深さを兼ね備えた街。電気街ではないかも知れないが、なかなか楽しそうな街ではないだろうか。