萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部長
奥村 康行 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト プロジェクトマネージャー
石井 比呂志 NTTアクセスサービスシステム研究所 アクセスサービスNWアーキテクチャプロジェクト グループリーダー
前回まで光アクセス・システムとして,PON(passive optical network)を使う,GE-PONやB-PON,G-PONを取り上げました。今回は,PON以外の光アクセス方式である,SS(single star)やADS(active double star)を紹介します。
SS方式は,通信事業者ビル(以下,収容ビル)とユーザー宅を光ファイバで1対1に結ぶ光アクセス方式です。全体の網形態が,星の輝きのように一つの放射源から何本もの光ファイバが延びるため,single star(SS)という名称が付けられました(図1)。SS方式は構成が単純なため,最初期のFTTHサービスから利用されています。なお,光ファイバと銅線の違いはありますが,従来の電話も同じ網形態です。
アクセス区間の光ファイバを専有
SS方式は,収容ビルとユーザー宅の間で,他のユーザーの影響を受けることなく通信できます。ユーザーごとに独立した光ファイバを使うからです。そのため,これまで紹介してきたPON方式よりも単純な装置構成となります。光ファイバとメタル線間で伝送媒体を変換するメディア・コンバータ(media converter)が代表的な伝送装置です。SS方式はニーズに合わせた速度を提供しやすいため,ビジネス向けのFTTHサービスにも利用されます。
SS方式は,ユーザーごとに1本の光ファイバを必要とします。光ファイバ資源は,必ずしも潤沢ではありません。また,1ユーザー当たりの導入コストも高くなります。
その点,前回までに紹介したPON方式は,低コストで導入可能という特徴があります。SS方式と比べると装置はやや複雑になりますが,光ファイバを途中で分岐して複数のユーザーで共有することで,光ファイバ量が少なくて済むからです。さらに,収容ビル内の伝送設備を分け合える利点もあります。
PON方式で分岐点に置かれるのは,光スプリッタと呼ばれる受動(passive)素子。PON方式の網形態は,収容ビルから1回,光スプリッタから1回の計2カ所で,スター状に光ファイバが広がる形になります。そのためPDS(passive double star)とも呼ばれます。
PDSに対してADS(active double star)と呼ぶ光アクセス・システムもあります。PONにおける光スプリッタを能動的(active)な装置としたものです。具体的には,L2スイッチを用いたタイプなどがあります。ただし設備コストが高価になってしまうことなどから,現在FTTHサービスで使われているのは,主にPON方式とSS方式の二つです。
SS方式のほうが速いとは限らない
SS方式では,1ユーザーが光ファイバを収容局からユーザー宅まで専有します。例えば1Gビット/秒のメディア・コンバータを使う場合,アクセス区間の帯域は常に1Gビット/秒となります。一方,PON方式は複数のユーザーで光ファイバを共有するため,伝送帯域も共有。GE-PONであれば,1Gビット/秒の帯域を16ユーザーや32ユーザーで共有します。
では伝送速度が同じであれば,SS方式のほうがPON方式よりユーザーが利用できる速度は速くなるのでしょうか。必ずしもそうではないことを以下に説明します。
SS方式は1ユーザーが光ファイバを専有するとはいえ,アクセス区間の速度そのままでコア・ネットワークに接続されることは通常ありません。複数ユーザーを収容ビルにて集線して,コア・ネットワークに接続します。結局,集線が行われるのはSS方式もPON方式も同じで,違いはそれがどこかという点です(図2)。
集線の比率は,サービス内容,ユーザー数,設備状況などによって変わります。従って,ユーザーが享受できる速度は,単純にSS方式,PON方式といった光ファイバ網の形態では決まりません。通信事業者がアクセスとコアのネットワークをどのように構築しているかに依存します。単にSS方式だからといって,一概にPON方式より速度が速いわけではないのです。
次回は光ネットワークにより提供される映像サービスを支える技術を紹介します。