●フィールド・サービスやサービス・マネジメントに進化した「PS8CRM」
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サービスによる差別化の可能性

 コトラーは、製品による差別化が困難な場合、次はサービスによる差別化を目指すべきだと指摘して、次の7つの分野を挙げている。

◎ 注文の容易さ(ordering ease)
◎ 配達(delivery)
◎ 設置(installation)
◎ 顧客向けトレーニング(customer training)
◎ 顧客向けコンサルティング(customer consulting)
◎ メインテナンスと修理(maintenance and repair)
◎ その他のサービス(miscellaneous services)

 注文の容易さでいえば、アマゾンの「1-Click注文」は出色だろう。ただ、頻繁に書評を読みながら月に何冊も購入する顧客にとっては使い勝手は必ずしもよくないし、そういう使い方はしないだろう。また、注文の容易さに比べると、配達は見劣りする。配達員がアマゾンのユニフォーム姿でないことや、筆者の自宅から最寄りの配達拠点が遠く、しばしば再配達でストレスを募らせる。

 そのほかのサービスで、コトラーはキヤノンの使用済みプリンター・カートリッジの回収サービスを例示している。確かにキヤノンに対するイメージや印象は向上するだろうが、そもそもキヤノン製のプリンターにはキヤノン製のトナーしか使えないのだから、新たなプリンター・ユーザーの獲得にしか威力を発揮しないかもしれない。

 興味深いのは、メインテナンスと修理で、タンデム社のダイアグノスティック・サービスを挙げている。遠隔で設置済みのプロセッサーを検査して、障害が発生しそうな部分の部品を事前に顧客に送っていたと説明されている。今どきのウインドウズのアップデートのようだが、筆者には似て非なるものと映る。アップデートは重層になってしまったウインドウズのバグをリビジョン・アップによって修正し続けているにすぎない。著作権は瑕疵(かし)という概念を認めていないからできる。

品質保証と保守・補修

 日本の消費者や顧客は、製品メーカーが供給する製品には瑕疵がないと思い込ませられている。しかし、三菱自動車にまつわるリコール事件を他山の石とするまでもなく、ほとんどの消費財には何らかの瑕疵が存在する可能性がある。

 いったいどれくらいの瑕疵があるかといえば、国民生活センターの「回収・無償修理等のお知らせ」のページ(http://www.kokusen.go.jp/recall/index.html)を参照してみるとよい。随分と多種多様な回収・無償修理が掲げられている。

 ここに公告をしている企業は、まだ優良な企業のはずで、世間には自社の製品に瑕疵が存在することさえ気付いていないか、気付いても「ま~いいや」とほおかぶりしている企業も少なからず存在しているだろう。

 かつて、NCR(当時)とPOS(販売時点情報管理)システムを開発して導入するという仕事に携わった際に、保守料が高すぎると社内で大問題になった。ところが、開発時点での仕様書などの資料を丁寧に読んでみると、設計時点でフィールドで使用される場合に故障発生率というのが織り込まれていることを知った。どのような製品であれ、何らかのトラブルが生じると、開発設計段階では認識されているのである。その前提があると、当然、トラブルが生じた場合にどう対処するかというのは想定されて、そのための準備もなされているはずである。

 サービスの準備とは、そういう性格のものだと考えると分かりやすい。

 サービスがよくないというのは、トラブルが生じた場合の対処策が準備されていないか、あるいは実効性が確保されていないのである。マニュアルが整備されている/いないという程度の話ではない。

 マニュアルが整備されていても、サービスに失敗することはしばしばある。実効性が確保されていないとはそういうことだ。国民生活センターの「回収・無償修理等のお知らせ」のページに回収・修理のお知らせを掲載している企業は、マニュアルが整備されていて、しかも実効性が確保されているのだろう。

 ある家電製品メーカーで聞かされた話が興味深かった。そのメーカーの製品の保守・補修をもっぱら担っている子会社が、コンビニエンスストアの設備機器の保守・補修を任されることになった。それまで、設備機器の製造メーカーごとにそれぞれの保守・補修子会社が対応していたのを、一括して任されたという。保守・補修が必要な店舗側にとっては極めて利便性の高い保守・補修サービスである。つまり、対処が必要になった時に連絡する先は1つで済む。保守・補修サービスを提供する側にも利便性が認められる。いわゆる責任範囲の切り分けなどという厄介な時間コストが必要なくなる。

 サービスとは、サービスを受ける側がサービスだと認識して、初めてサービスになるのである。

まとめに代えて

 さて、今回述べてきたサービスの可能性とソフトウエアがどう結びつくのだろうか。

 この連載の第1回と第2回を読んでいただければ、少し知っていただけると思う。筆者は、1990年代の初めごろから、コンタクト・トラッキング・ソフトウエア、SFA(sales force automation)、そしてCRM(customer relationship management)など、様々なアプリケーション・モジュールを調べてきた。どのような機能が提供されているか、どのような業務分野に適用されているか、そしてどんな成果をユーザーは認めているか、である。

 一例として、ピープルソフト(オラクルが買収)の「PS8CRM」のモジュールを調べてみると簡単に知れることがある。バンティブの時代(後にピープルソフトが買収)にはだれも関心を寄せなかったQuality Assurance(品質保証)というモジュールがあった。PS8CRMでは、フィールド・サービス(field service)やサービス・マネジメント(service management)に進化しているようだ。

 なぜそういうアプリケーション・モジュールがあるのかというのが筆者の抱いた単純な疑問だった。調べてみると、納得のいく理由があった。製品の販売をプロセスと理解して、そのプロセスの最終に顧客が利用するという段階があって、そこまでを販売プロセスのサイクルに含めているからである。つまりそのモジュールを導入することは、サービスのプラットホームを築くといえる。ちょうど、サプライチェーンの最終端が顧客に買われる場所であるとするか否かに似ている。

 よりよいサービスの顧客への提供は、間違いなく、ブランド・スイッチを抑制し、アップ・セルとクロス・セルを実現する。ただし、よりよいサービスの評価は顧客が参加して初めて得られる。サービスは顧客とともにしか創り出せない。

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 上述の京浜急行2100系最先頭車の進行右側の最前列座席(2席)は、電車運転ゲームの「電車でGO!」がリアルに楽しめる。試しに小さな子供を乗せてみた。品川駅から終点の三崎口駅まで見つめ続けていた。この席を予約制の着席整理券発行対象にしてはどうか。それはサービスだと思う(次回に続く)。

 (ミステリー・ショッピングやサービスの差別化については、筆者のブログでも論じている)

多田 正行(ただ まさゆき)氏:1947年生まれ。ロッテリア、チーズブロー・ポンズ・ジャパン・リミティッド、日本タッパウェアなどでシステム企画に携わった後、93年に独立。現在「eCRM塾」主宰。著書に「売れるしくみづくり」(ダイヤモンド社)、「コールセンター・マネジメント入門」(悠々社)、「コトラーのマーケティング戦略」(PHP研究所)など。「ITpro Watcher」で「CRM Watchdog」を連載中。