
Xerox Altoは,米ゼロックスの研究所「Palo Alto Research Center」(PARC)が開発したコンピュータである。当時主流だったコンピュータ(メインフレームやミニコン)は多くのユーザーが共同利用することを前提としたものだった。これに対しAltoは,ユーザーが1台のマシンを占有する「パーソナル・コンピュータ」の理想を具現化した最初のコンピュータである。
Altoが画期的だったのは,ユーザーとコンピュータの間で情報をやりとりするためのマン・マシン・インタフェースに,視覚を本格的に採用したことだ。現在のコンピュータでは一般的な「GUI」の先駆けとなった。
AltoはGUIを実現するために,マウスとビットマップ・ディスプレイを備えた。加えて,ディスプレイの表示内容として,ファイルを表現するアイコンやアクションを選択するメニューなど,今のパソコンで慣れ親しんでいるデスクトップ環境を初めて採用した。 プリンタ・メーカーでもあるゼロックスは,Altoによってコンピュータとプリンタの新しい関係を提案した。ディスプレイの表示内容がそのまま印刷される「WYSIWYG」(What you see is what you get)を最初に実装したのもAltoである。
Altoのために作られたイーサネット
Altoについて,もう一つ特筆すべきことがある。むしろNETWORK博物館で紹介する理由としては,こちらの方が重要かもしれない。それは,AltoをつなぐためのLAN技術として,イーサネットが開発されたことだ。イーサネット開発の中心となったのは,当時PARCの研究員だったRobert M. Metcalfe(ロバート M.メトカフ)とDavid R. Boggs(デビッド R. ボッグス)。その基本アイディアはMetcalfeが考えついたものだ。
要求仕様である数Mビット/秒の伝送速度を実現するには,従来型のパケット交換機を使うとコストがかかりすぎる。そこでMetcalfeは,全端末に同報で信号を送る無線通信のしくみを応用し,1本の同軸ケーブルだけで多くの端末が通信する方式を考案した。
ベース・クロックが決めた伝送速度
Altoに使われたイーサネットは,のちに「実験イーサネット」(Experimental Ethernet)と呼ばれることになる。その仕様は,1980年に標準化された「イーサネット1.0」の仕様と大きく異なっていたため,そう呼ばれた。実験イーサネットの伝送速度は2.94Mビット/秒。これは,信号を伝えるためのパルスの生成にAltoのベース・クロックである5.88MHzをそのまま利用したことによる(5.88Mの2分の1は2.94Mになる)。また,実験イーサネットでは端末に割り当てるMACアドレスの長さが8ビットしかなかった。接続する端末の台数は100台程度と想定していたからだ。
なお,イーサネット1.0の仕様は,伝送速度が10Mビット/秒,MACアドレス長が48ビットである。