図3 アクティビティ単位で進ちょく率を計上する際の主な方法<BR>作業開始から終了直前まで進ちょく率を一定と考える「固定比率計上法」,<BR>
図3 アクティビティ単位で進ちょく率を計上する際の主な方法<BR>作業開始から終了直前まで進ちょく率を一定と考える「固定比率計上法」,<BR>
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表2 EVMにおける主な分析指標&lt;BR&gt;EVをPVやACと比較する指標(SV,CV,SPI,CPI)や,プロジェクト終了時点のACを予測する指標(EAC)などがある。前者は主に現在の問題点を把握するシグナルとして使い,後者は今後の傾向をつかむために使う
表2 EVMにおける主な分析指標<BR>EVをPVやACと比較する指標(SV,CV,SPI,CPI)や,プロジェクト終了時点のACを予測する指標(EAC)などがある。前者は主に現在の問題点を把握するシグナルとして使い,後者は今後の傾向をつかむために使う
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図4 EVMによる分析グラフの例&lt;BR&gt;11月1日時点での各指標の値を見ると,出来高の計画値に対して実績値が100人日分不足していることが分かる(SV=-100)。しかも,実際にかけたコストは出来高に比べて150人日分超過している(CV=-150)。このままプロジェクトが進むと,終了時点では299人日分のコストが超過すると予測できる(VAC=299)
図4 EVMによる分析グラフの例<BR>11月1日時点での各指標の値を見ると,出来高の計画値に対して実績値が100人日分不足していることが分かる(SV=-100)。しかも,実際にかけたコストは出来高に比べて150人日分超過している(CV=-150)。このままプロジェクトが進むと,終了時点では299人日分のコストが超過すると予測できる(VAC=299)
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図5 SPIとCPIの推移を示すコントロール・チャートの例&lt;BR&gt;SPIとCPIにしきい値を設定し,直感的に進ちょくの危険度が分かるように色分けした。
図5 SPIとCPIの推移を示すコントロール・チャートの例<BR>SPIとCPIにしきい値を設定し,直感的に進ちょくの危険度が分かるように色分けした。
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出来高の累積方法をルール化

 EVMを実際のプロジェクトに適用する前に,「出来高(EV)をどのように積み上げていくのか(累積方法)」についてルールを決めることを忘れてはならない。ルールがあいまいだと,進ちょく報告の内容にバラツキが生じるからである。

 このルールを「計上法」と呼ぶ。ここでは最も基本的な方法である「固定比率計上法」と「加重比率計上法」を紹介する。作業の特性に応じて両者を使い分ける必要がある。

 固定比率計上法では,作業に着手した時点から終了直前までは,予定コストの一定割合が進ちょくしていると見なし,終了した時点で100%進ちょくしたと見なす(図3左[拡大表示])。例えば,作業開始時点で予定コストの30%を出来高として加算し,終了時点で残りの70%を加算する(これを30:70法と呼ぶ)。

 この方法は,手戻りが発生した場合の影響が大きい設計工程などで,「レビューでの認可をもって作業を完了する」といった明確な完了基準を持つ作業に向く。要件定義のように,作業のやり直しが発生しやすい工程には,作業開始から終了直前までは予定コストを一切計上せず,終了時点で100%計上する方法が向く(これを0:100法と呼ぶ)。

 一方,加重比率計上法では,1つの作業に複数のマイルストーンを設定し,マイルストーンごとに完了基準と“進ちょく率”を決めておく(図3右)。作業がマイルストーンに達して完了基準を満たしたら,その作業の予定コストのうち,進ちょく率に相当する分だけ出来高に加算する。

 この方法は,時間をかければ出来高が増えていくタイプの作業に向く。作業量自体は多くないが期間が長い作業の場合,途中で実績を計上しないと計画とのかい離が大きくなる。マイルストーンを設定することで,このような誤差を抑えることができる。例えば開発工程で「モジュール仕様作成」,「コーディング」,「単体テスト」,「レビュー」などをまとめて1つの作業として扱う場合は,この方法を適用するとよい。

EVMの指標で今後を予測

 プロジェクトの実施段階では,メンバーが入力した作業の進ちょくデータ(EVとAC)を集計する注4)。これらと計画データ(PV)との差異などから,プロジェクト・マネジャーは全体の傾向を把握したり,今後を予測したりする。そして問題を発見した場合は,具体的な対策を検討・実施して再発防止につなげる。これが,進ちょく管理のプロセスだ。

 プロジェクトの現状を把握したり,今後を予測するために用意されたEVMの指標を(表2[拡大表示])にまとめた。

 現状把握のための指標は4つある。「SV(Schedule Variance)」,「CV(Cost Variance)」,「SPI(Schedule Performance Index)」,そして「CPI(Cost Performance Index)」である注5)

 SVとCVは“差異”を見るための指標である。SV(EVとPVの差)はスケジュールの遅れを,CV(EVとACの差)はコスト超過を示す。(図4[拡大表示])の例では,SVが−100人日なので,100人日分の作業が遅れていることが分かる。またCVは−150人日であり,150人日分のコストが超過している。

 一方,SPIとCPIは“効率”を見るための指標だ。図4の例では,SPI(PVに対するEVの比)は0.83,CPI(ACに対するEVの比)は0.77となる。これらの値から,スケジュールは17%遅れており,コストは23%超過していると判断できる。

 SPIとCPIは,折れ線グラフに加えて,(図5[拡大表示])のような「コントロール・チャート」(レインボー・チャートとも呼ぶ)を用いると管理しやすい。縦軸にSPIやCPIの値をとり,横軸に経過期間をとる。そして,SPIとCPIに設定した「しきい値」を境に上下に区切られた領域を色分けすることで,プロジェクトの“安全性”の度合いが一目で分かるようにする。この例では,SPIとCPIの値が0.98以上なら「青(順調)」,0.92以上0.98未満なら「黄(要注意)」,0.92未満なら「赤(即対応)」と設定している。このような視覚的な工夫は,発注者(ユーザー企業)や経営層への報告資料で大きな効果を発揮するはずだ。

 実際にSPIやCPIを測定して問題があった場合は,それが一過性のものかどうかを確認すべきだ。SPIやCPIが連続して下がる傾向にあるケースでは,作業の進め方や,要員・機器などリソースの投入方法に問題がある可能性が高い注6)

完了時点の状況を予測

 今後を予測するための指標は3つある注7)。その代表である「EAC(Estimate At Completion)」は,計画した作業がすべて完了するまでに実際にかかるコストの予測値を表す。計算式は「AC+(BAC−EV)/CPI」などがある。グラフの縦軸で見たEACの値が,完了時点のコストを表す(前出の図4)。これを横軸で見ると,作業が完了する時期を予測できる。

 このEACとBAC(完了時点での計画上の出来高)の差を,グラフの縦軸で見たものが「VAC(Variance At Completion)」である。これにより,完了時点でどれだけコストが超過するのかを予測できる。図4の例では,BACが1000人日であるのに対し,EACは1299人日である。このままプロジェクトが進むと,最終的には299人日分のコストがオーバーすることが分かる。

 EACとBACの差をグラフの横軸で見ると,完了時点におけるスケジュールの遅れが分かる。図の例では,12月13日に完了する計画だったが,それよりも2週間遅れる(12月27日に完了する)と予測できる。

 最後の指標が「ETC(Estimate To Complete)」である。これは,EACから現時点のACを差し引いたもの。プロジェクトが完了するまでに,あとどれだけの作業が残っているかを表す。

 これらの指標を使ってスケジュールやコストを分析する際には,まず全体を見て,問題がありそうな部分を発見したら詳細な分析を行うようにする。「全体を見る」にはEVMの差異や効率を測る指標のデータに注目する。ここで“異変”を検知したら,「どのサブシステムやコンポーネントに問題があるのか」,「どこのグループやチームの遅れが大きいのか」といったことを,現場から報告された進ちょくデータ(EVとAC)に基づいて特定する。このような「層別」による分析を,プロジェクト全体の計画と実績に差がある場合のみに行うのではなく,常日頃から実施することで問題の早期発見につなげられる。

EVMの精度はWBSで決まる

 ここまでEVMによる進ちょく管理の考え方やメリット,具体的な分析方法などについて解説してきた。プロジェクトはある日突然に大きな遅れが生じるものではない。1日1日と,徐々に遅れていくものだ。EVMのデータを「警鐘」としてとらえ,しかるべきアクションにつなげることが重要である。

 EVMを成功させる最も重要なカギは,その前工程である「WBSによる作業分割」にあると言っても過言ではない。確かに,規模が大きく期間が長いプロジェクトでは,あらかじめ先の計画まで詳細化しておくことは難しい。しかし,この作業がいい加減だったり漏れがあったりすると,ベースライン(PVのグラフ)の形状に凹凸ができて,指標の値もばらつく。全体の見積もりや適切なレベルまでの詳細化を,作業の進展に合わせてきちんと行うことで,データの精度が向上し,EVMを使う効果が高まるのだ。

 本稿により,読者にとってEVMに対する敷居が低くなったなら幸いである。まずは自分1人でも,また期間が短い作業でも,EVMを使ってみるところから始めてほしい。

箱嶋 俊哉/日本IBM 技術.ソフトウェア・エンジニアリング ITスペシャリスト

日本アイ・ビー・エムで開発プロセス標準化のコンサルティング,社内システムの開発リーダー,プロジェクトマネジメント・オフィス業務を担当。現在はプロジェクトマネジメントの手法やツールの社内展開を手がける