日経新聞が10月中旬に実施した「社長100人アンケート」によれば、M&A(企業の合併・買収)向け投資を積極化する企業は4社に1社を上回った。リストラを経て、M&Aを柱に長期戦略を描こうとする企業が増えている。

 回答者の中にITサービス専業は1社なので、この業界の経営者の意識を読みにくいが、M&Aを仲介するコンサルタントによると、M&Aの話が常にいくつかあるというから、ソフト・サービス業界にもM&Aの機運や意欲はあるらしい。しかし、昨今の米国ITマーケットのようにダイナミックな決着を見ないのが「日本の特質」であるという。

 市場に存在感があり、M&Aの対象にしたい少なくとも1000億円を超える魅力的なITサービス企業の多くが、たとえ上場企業であったとしても製造や金融・流通企業の子会社であるため、根回し途上で各方面の思惑に揺さぶられ潰されてしまうからだ。

 6年前「幻の売却劇」(本誌99年4月30日号「乱反射」)として業界に激震を起こした野村総合研究所(NRI)のケースのように、親会社によほどの失態がない限り、著名ITサービス企業がM&Aの俎上に載ることはないのである。

 「親がかりなので中途半端に“食えてしまう”のがM&Aによる企業成長戦略の邪魔をしている。そもそも、事業規模を大きくして富士通や日本IBMなどの大手と闘う覇気がITサービス業界に欠けている」と、前出のコンサルタントは話す。

 このコラムでも何度か指摘したとおり、日本のソフト・サービス市場の約8割のシェアを、富士通や日本IBM、日立製作所、NTTデータ、NECの5社が押さえている(連結の国内ソフト・サービス売上高ベース)。5社が顧客案件の多くのプライムコントラクタの地位を取得し、そこから仕事がITサービス業界に落ちていく仕組みが存在する。

 少なくともその一角をうかがうには、5000億円規模の独立系ITサービス企業が望まれる。そうしないと「5社寡占」に風穴が開かないのである。ソフト・サービスの売り上げは、NTTデータグループが約8500億円、NECグループが約7000億円だから、相当肉薄できる事業規模となろう。

 5000億円という指標は、いくつかの大手ユーザー企業のCIOから聞いた、リスクを秤にかけ「相当大規模なITプロジェクトであっても安心して任せられる」企業規模だ。「ひいき目に見ても3000億円はクリアーしてもらいたい」と大手金融のCIOは話す。

 3000億~5000億円範囲で、ハード販売以外のソリューションプロバイダを、本誌調べのランキング(7月15日号)から拾ってみた。CSKが3200億円と1社しかない氷河期だ。もう少し氷を溶かすと、NRIが2500億円、TISが2000億円、富士ソフトABCが1700億円、新日鉄ソリューションズが1500億円、日本総合研究所が1200億円、インテックが1100億円、そして電通国際情報サービスが720億円である。

 この中で足し算や引き算をしながら、組み合わせていくと、おそらく5000億円企業が2つぐらい出来上がるのではないだろうか。こういった話を金融アナリストやコンサルタントと交わしていたら、「5000億円規模の独立系ITサービスを発足させるM&Aがまだ水面下で生きている」という話が漏れてきた。まず2社が合併し、それがもう1社と対等合併する3社連合で5000億円という話だ。渦中の企業トップを直撃した。「実現にこぎ着ける努力をしている」と意欲を見せた。

 米国市場では2001年以降、ソフト・サービス業界で約1300件のM&Aが行われた。投資額は公表された分だけで25兆円に達する。既に米サービス企業は900社を割っている。e-Japanであれ、民間市場のさらなる開放であれ、確固たる受け皿企業を作っていかない限り、「5社批判」はいつまでも負け犬の遠吠えだ。自助努力で寡占を打ち破るしか道はない。それが顧客のためでもある。